荒川区の0歳児保育「一揆」の勝利について ーあるいは現代日本における「ボイス」の可能性ー

自治体との付き合いの長い僕が常に思っているのは、「役所は、声が上がらなければ問題に気づかない」ということです。
Yagi-Studio via Getty Images

キャンペーンサイト change.orgより

 先日、荒川区のママから「助けて、荒川区は0歳児保育を5時までに制限してるの!」という相談を受けたことを記事にしました。

荒川区のゼロ歳児保育が酷すぎる件について

 そこで、3歳児神話的な発言をする区議や行政を「荒川に沈んじゃえ」と批判したところ、「荒川区にあるのは隅田川だ!」とプチ炎上してしまいました。

 そんなこともありつつ、立ち上がりし0歳児の親たちのネット署名は約3000人まで行き、荒川区役所内でも大いに問題、いや話題になったのでした。

 親たちは区議をまわり、陳情を提出。そして荒川区は以下の新聞記事のように、ついに0歳児保育を五時以降に延長することに決めたのでした。

荒川区の認可保育園 ゼロ歳児に11時間保育

 19年度から 荒川区は六日、認可保育園で預かるゼロ歳児について、二〇一九年四月入園児から最大で十一時間保育をする方針を示した。可能な園は、十八年度中にも実施する。 区内の全認可保育園では現在、「保護者と過ごす時間をとってほしい」などの理由で、午前八時半〜午後五時の最大八時間半しかゼロ歳児の保育はしていない。区保育課によると、全認可保育園でゼロ歳児の十一時間保育をしていないのは、東京二十三区で荒川区のみとみられる。(東京新聞 2018.02.07 朝刊 20頁 下町版)

 実際に議会で議論され、各会派が賛成し、荒川区も早期実現を約束した、という報告を親ごさんたちが嬉しそうにしてくれた時は、僕も嬉しかったです。

ボイス(発言)とイグジット(離脱)

 アルバート・ハーシュマンという20世紀のドイツ出身の政治経済学者が、組織に所属する個人が取れるアクションについて、イグジットとボイス、ということを提示しています。(細かくはもう一つあるのだけど、今回は割愛)

 イグジット(離脱)は、その組織のメンバーであることをやめること。足による投票です。自治体だったら、引っ越すこと。

 ボイス(発言)は、その組織のメンバーでありながら、声をあげて中から変えていくことです。

 待機児童問題や保育の問題で言うと、資力があれば、引っ越してもっと条件の良い地域に行くことはできるでしょう。若い世代がいなくなった自治体は衰退が待っているだけなので、彼らの行動を変えさせる要因になります。

 一方で、多くの人にとって引っ越しは負担が重く、経済的にもそうした手段が取れない人々の方が多いでしょう。

 そういう際は、ボイス(発言)を使います。

 今回の荒川区の勇気ある親たちのように。

ボイスを発しないというのは、現状肯定のボイス

 自治体との付き合いの長い僕が常に思っているのは、「役所は、声が上がらなければ問題に気づかない」ということです。

 住民から声があがって、あるいは住民からあがった声を拾った区議に言われて、初めて地域に問題があることが分かります。

 そうだとすると、彼らにとってみると、声があがっていない、ボイスがないということは、「今のままで特に問題がない」ということと、全く同義です。

 我々は「ボイスを発さない」ということを通じて、「文句はありません。現状を肯定しています」というメッセージを、行政や政治に対して送っているのです。

ボイスを発しやすい時代

 今回の荒川区の親たちは、(1)ネットで署名運動を行い、問題を見える化しました。

 また、(2)知人を通してその分野のインフルエンサー(駒崎)にアクセスし、インフルエンサーが課題を拡散しました。

 同時に、(3)地域の意思決定機関である区議会のキーマンにもアクセスし、陳情を行い、意思決定を勝ち取っていったのでした。

 インターネットとSNSの存在によって、(1)課題の見える化と(2)拡散という空中戦が容易になったことで、(3)のリアルな地上戦である陳情も進めやすくなっています。

ボイスは自分たちのためだけではない

 ボイスをあげるのを、ためらう向きもあるでしょう。日本では、我慢は美徳です。自分が我慢すれば、この問題は問題ではなくなる、と。

 違うのです。

 あなたが我慢すれば、次の世代が同じ問題でまた苦しむのです。

 あなたは我慢という行為によって、問題を次の世代に継承しているのです。

 我慢することで、問題側に加担してしまっているのです。

 ボイスを発することで、そして変化が起きることで、問題が継承しないですむのです。

まとめ

 荒川区の普通の親御さんたちが、小さな革命を起こしました

 彼らの小さなボイスが、制度を変えたのです。 

 次は、この記事を読んだ、あなたの番です。

 あなたのボイスは何ですか?

(2018年2月26日Yahoo個人より転載)

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