派遣型マッサージ店の女性従業員に性的暴行を加えたとして強制性交罪で起訴された俳優・新井浩文被告(40)の初公判で、同被告は起訴内容について性交の事実は認めたが、「同意があったと思っている」と暴行を否認した。
被害を訴えた女性は、証人尋問で「自分から受け入れたことは一度もない。ずっと抵抗していた」と主張し、「刑務所に入って反省してほしい」と述べた。
初公判では何が語られたのか。詳報する。
(※記事中には具体的な被害の描写が含まれています。フラッシュバックなどの心配がある方は注意してご覧ください。)
「脅迫や暴行は用いていない」 弁護側が主張
新井被告は2018年7月1日、マッサージのため自宅マンションに呼んだ女性の頭を押さえ付けるなどして、性的暴行を加えたとして2月21日に起訴された。
強制性交の要件は、13歳以上の人に対し、暴行または脅迫を用いて性行為などの行為をした場合に罪が成立する。有罪になると、5年以上の懲役に処される。13歳未満の人に対し性行為などをした場合は、脅迫や暴行の事実がなくても同様の罪となる。
9月2日の初公判では、検察・弁護側の冒頭陳述の後、被害を訴えた女性と女性が勤めていたマッサージ店で運転手をしていた男性への証人尋問が行われた。
冒頭陳述で検察側は、新井被告が性的サービスを禁止する同意書にサインしているにもかかわらず、「派遣した女性からマッサージを受けている最中に興奮し、犯行に及んだ」と指摘。
一方弁護側は、「(女性の)意に反した性交に対する謝罪の気持ちは持っている」としながらも、「抵抗が著しく困難になるほどの脅迫や暴行は用いていない」とし、強制性交罪は成立しないと主張した。
被害訴えた女性が語ったこと
午前中に行われた証人尋問では、別室から映像・音声を繋ぐかたちで女性が証言した。
女性によると、勤務先の派遣型マッサージ店は性的サービスを提供しておらず、初めて利用する客は「性的サービスを要求しない」「セラピストの連絡先を聞かない」「自慰行為をしない」などの禁止事項が書かれた同意書にサインする決まりになっているという。
女性は、マッサージ店には性的サービスを求める人が少なく、「いい客が多かった」と説明。店のホームページでは一部セラピストの実名が掲載されており、女性は「やましい店ではないということだと思います」と話した。
事件があった7月1日、女性は新井被告から深夜1時半すぎに指名を受けたという。
そのことを以前新井被告を施術した経験がある同僚に話すと、「おとなしかったけれど、最後に手を掴まれてタオルを引っ張りあったことがあるから気をつけて」と言われたという。
「自分から受け入れたことは一度もない。ずっと抵抗していた」
女性は新井被告の自宅を訪れ、同日2時30分ごろに寝室で施術を開始した。
マッサージの間、客は紙パンツのみ着用するといい、新井被告は当時トランクスタイプの紙パンツを着用していたという。
足のマッサージを始めると、新井被告は興奮した様子になり、女性の右手を掴んで自身の陰茎に押し付けてきたという。女性は、「そういうことをするのであれば帰ります」「やめてください」などと言ったり、同被告の腕を引っ張ったりして抵抗したという。
その後、新井被告から衣服を脱がされ、体を触られたと主張。その間も「触らないで」と訴え続け、膝を閉じたり腕を押したりして抵抗したという。
女性の証言によると、それでも新井被告は行為を止めず、無理やり性交に及ぼうとした。女性は自らの手で陰部を抑えたり足を閉じたりして抵抗したが、敵わなかったという。
女性は、「部屋が真っ暗で足元も見えなくて怖かった」「(逃げることが)できなかったです」などと証言。「性交に合意したか」との検察側の質問には「していません」と回答し、「自分から受け入れたことは一度もない。ずっと抵抗していた」と話した。
行為後、新井被告は財布からお札を取り出し、「悪いことしちゃったね。これお詫び」と言って女性に渡してきたという。 女性は金銭の受け取りを拒否したものの、「バッグのポケットに現金を押し込まれた」という。
その後女性は、マッサージ店の運転手や社長に被害を受けたことを報告。「何もなかったことにしたくなかった」という思いで警察に相談し、8月に被害届を提出した。
女性は当時の勤務先をすでに退職しており、現在はマッサージの仕事をしていない。
「やりがいのある自分にあったいい仕事だと思っていた」と振り返った女性は、「マッサージする時は癒したいという気持ちでやっている。それを踏みにじられて、モノのように扱われてすごく悔しい」と主張。
また、新井被告から金銭を渡されたことについても、「お金で解決できると思っているんだと思うとすごく悔しい」と話し、「刑務所に入って反省してほしい」と述べた。
弁護側の反対尋問は 「覚えていない」曖昧な証言も
その後行われた弁護側による女性への尋問では、怪我の有無や暴行、脅迫があったかなどを確認した。
弁護側の「危害を加えるような脅しや怖いことを言われたか」との質問には、女性は「ないです」と回答。また、体に傷やあざ、爪痕が残ることはあったかと問われると、「ないです」と否定した。
また弁護側が、「逃げられない状況ではない、という訳ではなかったのではないか」と聞くと、女性は「今思えば逃げられたかもしれないです。その時は一つひとつのことが必死で、どう動けばいいかわからなくて、自分の服をおさえたりすることしかできなかった」と答えた。
弁護側は、8月に提出された被害届、11月に作成された供述調書についても言及。
提出された被害届と調書には、「新井被告に陰茎を挿入されそうになった時に拒否した発言」や、「自身の陰部を抑えて挿入を阻止したこと」などの記載がなかったという。女性は、被害届や調書にそうした記載がないことについて、「あまり覚えていません」などと回答した。
法廷でのやりとりによると、「陰部を触られた」などの女性の証言も、被害届や調書には書かれていなかったという。その理由について、女性は「逮捕されて話を聞いて思い出した。記憶から抜けていた」と話している。
弁護側は、「被害弁償金」として女性に1000万円、その後2000万円の支払いを申し出たというが、女性は「拒否しました」と証言。示談は成立しなかったことも法廷で明るみになった。
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第二回公判は9月26日に開かれる予定で、新井浩文被告への被告人質問が行われる。