忘れ物防止タグを開発・販売する米Tileは、米下院議会の反トラスト(独占禁止法)小委員会での聴聞会にて、アップルが競合他社を妨害するためにどのように影響力を行使したかを証言したと報じられています。
その中でTile側は、Find My(日本名は「探す」)アプリが自社の忘れ物防止アプリより優遇を受けていること、アップルの未発表製品であるAirTag(忘れ物防止タグ)への懸念や、自社がiPhoneのハードウェアへのアクセスに制約を受けているなどを訴えたと伝えられています。Tileは元々、長年にわたってアップルの恩恵を受けていた経緯があります。2015年からApp Storeに専用アプリを配信しており、アップル直営店でもTileのタグ製品が販売されるなど、両社は蜜月関係にありました。
しかし米Washington Postによると、アップルがiOSに「私たち(Tile)のサービスに似たもの」を組み込んだこと、具体的には見失ったデバイスを探すアプリFind Myの強化を進めたために、関係は悪化したとのこと。ロイター通信の報道では、「深い思慮と、通常のチャンネルを通じアップルに伝えてから数ヶ月後、Tileはアップルの反競争的な慣行に対する懸念を訴えようと決意した」という事情が伝えられています。
Tile側の訴えは、1つには上述のFind Myがデフォルトで位置追跡が有効になっているのに対して、競合他社のアプリでは、ユーザーが深い階層にある設定を変更して許可を与えなければならない上に、iOS 13では定期的に表示されるポップアップで再承認を求められるような仕様に変更されたことです。
これにつきアップルは、変更はプライバシーの保護のためであり、アプリメーカーが知らないうちに消費者のデータを使用することを防ぐ必要があるからとコメント。アップル広報は「わが社は顧客の位置やデバイスの位置情報を中心としたビジネスモデルを構築していません」との声明を出しています。
しかしTile側は、iOS 13での変更が「ユーザーにとって混乱し、イライラする体験になった」と反論しています。
さらにテックメディアThe Vergeの記者Nilay Patel氏は公聴会に出席し、Tile証言の詳細をTwitter上で共有しています。それによると同社のバイスプレジデント兼ゼネラルカウンセル(法務の最高責任者)Kirsten Daru氏は、アップルがTile製品にiPhone 11シリーズのUWB(超広帯域)無線システムの使用を許可していないとも指摘したとのことです。
また、アップルがTile競合製品を開発中との噂(9to5MacがiOS内から手がかりを発見したもの)が報じられた直後に、アップルが直営店からTile製品を撤去したとも語られています。
そしてDaru氏はアップルはアプリや技術のゲートキーパーとして振る舞っているが、それは「自分自身の利益のため」だと発言。それに加えてアップルを「スタジアム、ボール、リーグ」を所有して、”好きなときにルールを変えられる”サッカーチームになぞらえたことも伝えられています。
そもそもユーザー自らが位置追跡を望んでいる忘れ物防止やライフログアプリについて、一度は許可したことをたびたび再承認を求められるのは煩雑で本末転倒な感もあります。この件につき、CNBC記者のKif Leswing記者はアップルから「今後のソフトウェアアップデートでの設定時に、「常に許可」機能を有効にすることに関心がある開発者」と協力しているとの公式声明を受け取ったと述べています。
アップルに対する独禁法違反の調査も気になるところですが、ユーザー視点から注目すべきは「アップルが忘れ物防止タグ開発の噂が報じられた直後、Tile製品を直営店から撤去した」との証言でしょう。そろそろAirTagの正式発表が間近に迫っているのかもしれません。
(2020年1月20日Engadget 日本版「忘れ物防止タグのTile、「アップル直営店から製品を撤去された」と米議会で証言)」より転載)
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