「グラビアモデルにならないか」などと誘われて、行ってみたらアダルトビデオ(AV)に無理やり出演させられた。そんな被害が社会の注目を集めるようになったのは2年ほど前からだ。
支援団体が被害の報告書を発表したり、警察がプロダクションを摘発したりして報道が増えた。
政府は今年4月に緊急対策として啓発活動などを実施。業界側も出演強要を防ぐ仕組みづくりに乗り出し、この問題は山を越えたかに見えた。
ところが、その後も被害は止まっていなかった。
11月30日に支援団体が開いた集会での報告によると、昨年1年間の相談件数は100件、今年も11月末までで94件と、昨年並みの水準だ。
路上のスカウトは警察の取り締まりで姿を消しても、「グッズモニター」「デッサンモデル」などの募集広告のホームページを見て事務所を訪れ、被害に遭う事例が続いているという。
■システムとして存在する「搾取」
私は記者だった3年前、支援団体の一つ、ライトハウスの藤原志帆子代表に話を聞いたのを機にこの問題の取材を始めた。
一番難しかったのが、被害を受けた当事者の女性に話を聞くことだった。
昨年、ようやくお会いできた最初の女性の話はあまりに深刻で、決して忘れられない内容だった。彼女を出演契約に持ち込む作戦は巧妙で、その後も彼女が逃げ出さないよう様々な手段を用いて撮影に縛り付けた。
しかも、ようやく撮影現場から逃れても、誰にも見られたくない自分の映像がネット上に残り、いつだれにそれを見られてしまうかわからない恐怖が続くのだ。
この問題は、人の命を奪う殺人に続く、現代の日本社会における究極の人権侵害の一つだと私は思う。
若い女性に衆人環視の下で無理やり性交させ、しかもその映像を販売することで経済的な利益を得る。
それが殺人のような一人または複数の人間による孤立した行動ではなく、システムとして存在しているのだ。
まさに現代の日本国内における人身取引であり、「搾取」という言葉があてはまると思った。詳しくはぜひ、宮本節子著「AV出演を強要された彼女たち」(ちくま新書)を読んでほしい。
■問題のすりかえと被害者バッシング
だが、この問題では必ずといっていいほど「多くのAV女優は自分の意志で出演している」「AV業界への偏見を強化するな」といった反論、批判が出る。
被害の当事者として証言活動をしているユーチューバ―のくるみんアロマさんは、AVへの出演をいやがった時、「職業差別だよね」と言われたという。
これは問題のすり替えである。いやなものをいやだと言うことは差別ではない。したくもない相手、環境の中での性行為を強要し、その映像を本人の意思とは別に販売しネットに流すのはだめだということなのである。
また、被害者へのバッシングも必ずといっていいほど起きる。
11月末の集会でのくるみんさんの発言によると、被害をカミングアウトしたあとの3日間でツイッタ―に約1千件のコメントがあり、ほとんどは「自業自得だ」といった嫌がらせだったという。
くるみんさんはそれでも、集会などで被害を伝える発言を続けている。「これ以上女の子が傷つくのがいや。大きな社会問題として考えてほしい」からだという。
報道などでも「若い女性の無知に付け込んで」といった言い方を目にする。
まるで、「無知」だった被害者にも落ち度があるかのような表現ではないか。
だが、オレオレ詐欺の被害に遭ったお年寄りを、「うかつだったあなたも悪い」と責めることはほとんどない。路上でひったくりに遭った人を「あなたのカバンの持ち方が悪かった」と批判することもほぼない。
(2017年12月4日「自治労」より転載)