冒険家の荻田泰永さん(40)が11月10日、南極点を目指す冒険に向かうため、日本を出国。今月中旬以降、南極のヘラクレス入江を出発し、約1130キロを50日ほどかけて歩き、来年1月7日ごろに南極点に到達する予定。朝日小学生新聞では先日、読者の小学生ら約30人を集め、新たな挑戦を直前に控えた荻田さんに取材をしてもらった。
これまで18年間に15回も北極を冒険してきた荻田さんだが、今回は初めて南極大陸を歩く。「南極点無補給単独徒歩到達」。これがこの冬に挑戦する冒険の名前だ。南極点を目指し、食料などの荷物をだれにも運んでもらうことなく、たった一人で歩いて向かうという意味。達成すれば日本人初という。
子ども記者の一人は「北極の冒険を続けてきたのになぜ今回は南極を目指すのですか」と理由を聞いた。荻田さんは「北極がある程度どんな場所かわかってきたので、もう一つの極地、南極に行きたいと思いました。今はまるで転校生がどんな友だちに会えるかと不安でドキドキしつつ、ワクワクもするような気持ちです」と答えた。
地球温暖化については、これまで北極を歩き続けた経験から「北極の氷はまちがいなく少なくなり、面積も減っている」。そのため冒険の途中、氷の割れ目に行く手をはばまれたり、足元の氷が一晩で数十キロメートルも流されたりと、困難さが増しているという。
一方、南極には陸地があり、高い山や、降り積もった雪もある。ゴールの南極点の標高は約2800メートルあるため、長い上り坂が予想される。内陸から沿岸に向かって吹く風もあり、強い向かい風に悩まされるかもしれない。
冒険中の危険について荻田さんは、これまでホッキョクグマにテントをゆらされるなど怖い思いもしたが、一番危なかったのは自分の不注意でテント内で燃料をこぼし火事を起こしたことだと話す。身を守るテントを失ったほか、手にやけども負った。「冒険では危険は常にあります。でも自分の外側にある危険には備えることができる。一番危ないのは自分の内側にあるミスです」
「くじけそうなときは?」と聞く子ども記者に、「人間は自然に勝ち目はありません。人間は自然の前では本当に小さい。困難を乗り越えるというより、仕方がないと受け入れて、待つしかないのです。強い精神力も大切だけど、それより大切なのは柔軟性。強い心はいつか折れます。折られそうになっても柳のように柔軟な方が自然の中では生き延びられると思います」と話した。