南相馬市で医師として地域医療に従事して、はや2年。初期研修を終え、南相馬に残り、後期研修をしている。臨床医療での疑問を解き明かし、英文論文として発表している先輩医師の背中をみて、私も論文を書きたいと思った。これまで、主著1編、共著5編の英文論文を発表してきた。1編は現在投稿中である。
私は大学6年生の頃から取り組んでいる「貧血」の調査を、病院勤務の傍ら続けている。きっかけは、妊婦の貧血が胎児に与える影響についてまとめた英語論文を読み、衝撃を受けたこと。その時は、「貧血」を自分のライフワークにするとは思ってもみなかった。
だが、妊婦の貧血について問題提起をした文章をきっかけに、新書「貧血大国・日本」(光文社)を昨年の4月に出させていただき、「貧血」問題を様々なメディアで取り上げていただいていた。今年の6月には、上海の復旦大学公衆衛生大学院の赵根明教授の元への短期留学を通じて、「貧血」をテーマに共同研究を始めることができた。
そこで、今回私が挑戦した上海短期留学での共同研究について、ご紹介させていただきたい。
鉄欠乏貧血は世界が抱える重大な健康問題であり、20億人以上に影響を及ぼしているという。中国や日本の都市部に生活する女性の貧血の実態を明らかにすることは、今後の東アジア地域における女性の貧血対策を考察する上で重要ではないかと考えた私は、共同研究をしたいと赵教授に提案した。
赵教授は快く快諾して下さったが、上海で貧血の研究をしている先生はなかなか見つからなかった。果たして上海の女性の貧血に関するデータが存在するのかどうか、貧血についての共同研究ができるのか。上海に行き、その場でどうするか、考えるしかない。そんな状況でのスタートだった。
到着して早々、自ら動かなければ、何もしないまま終わってしまうと思った私は、王娜助教授に時間をいただき、若年女性の貧血に関する調査をすることの意義を伝えることから始めた。どんなデータが必要か、図表を交えながら英語で繰り返し説明した。最初はうまく英語で伝えられず、歯がゆく思う日が続いた。
毎日、朝から大学に通っては、一日中作業に没頭した。貧血に関する英文論文を読み漁り、必要なデータを調べてはグラフを作成し考察をする。この作業を黙々と繰り返すうちに、東京と上海の貧血の現状がわかってきた。
上海における若年女性の貧血の罹患率は、2006年に久住医師らに報告された日本人女性の貧血の罹患率である22.3%よりは低いものの、ここ数年で高くなっていることが判明した。
また、1995年に1886Kcalだった若年日本人女性の平均摂取カロリーは、2013年には1628Kcalと減少していることや、2015 年の鉄の平均摂取量は6.6mgと、推奨量である10.5mgを大幅に下回っていることが判明した。久住医師らの調査から10年が経過した今、日本人女性の貧血の割合が悪化している可能性は高い。近年のダイエットの流行が、上海と東京の若年女性の貧血の要因の一つではないか、と私は推測している。
自ら前に進むしかない環境に身を置き、「貧血」に関する共同研究の礎を築けたこと、そして上海という地で生活をし、上海の文化に触れたことは自分の人生にとって大きな糧となった。そして、英語でコミュニケーションを取れたことは、私にとって一番の自信に繋がった。
帰国後も復旦大学の先生と連絡を取り合い、共同研究を進めている。人生初の短期留学を機に、新たなスタートを切りたいと思う。