消費者がアマゾンで注文した商品の当日・翌日配達を担うデリバリープロバイダの拠点には、多い日で5000箱の荷物が届くという(記者撮影)
4月の平日午前10時、記者を乗せた軽ワゴン車は都内のとある物流センターに到着した。ドライバーたちが地図を片手に、「amazon」のロゴが入った段ボール箱を車に積み込んでいる。
ここはアマゾンから地域限定で配達を請け負うデリバリープロバイダ(DP)の拠点だ。アマゾンの配達の大半を担ってきたヤマト運輸が配送量を抑制したため、昨春からアマゾンがDPによる自社配送網の拡大に着手。注文した当日や翌日の配達を主とする。記者は、あるDPの下請け物流会社の「一日見習い」として、アマゾンの自社配送の現場に潜入した。
間近で見た敏腕ドライバーの手さばき
同行したのは、30代の男性ドライバーだ。昨秋からDPの下請け配達業務に携わる。このセンターには約30の配達コースがある。協力会社5社が下請けを担い、ドライバーの3分の2を占める。残る3分の1はDPが契約する個人事業主だ。
多くの車両は「amazon」のロゴが書かれた段ボール箱で荷台が満杯になっている(記者撮影)
まず、荷物の積み込みを手伝う。千葉県市川市のアマゾンの倉庫から朝7時に届いた荷物だ。ドライバーは、ラベルの住所と氏名を見て瞬時に、積み込む荷物と、センターに残す荷物に分けていく。「この家は日中不在なので、夜配達に行く」と話す。配達先の状況をすべて頭にたたき込んであるのだ。
配達コースに慣れていないと各世帯の事情がわからないうえ、地図に目印をつけながら作業するため、積み込みに1時間半を費やす人も多いという。この敏腕ドライバーは、わずか20分ほどで作業を終えた。
午前11時、最初の配達に出発。マンションや戸建てを中心に訪問するが、ドライバーの予測どおり在宅率は高い。不在でもマンションでは宅配ボックスを使えるため、荷台の荷物はどんどん減る。アパートでは住民が不在だったが、不在票は入れなかった。夕方以降、住民の帰宅を見計らい、再度出向くという。
配達途中、ドライバーの携帯電話にセンターから連絡が入る。午前中の配達指定の荷物が残っていたのだ。センターに戻り、再び配達に向かう。このDPでは、4月から配達時間の指定に対応した。従来、時間指定は主にヤマトが対応していたが、DPの運用本格化で機能が充実してきたようだ。
受取人の在宅状況を熟知
午前の配達を12時半で終え、昼休憩に入る。1時間半で35箱の配達が完了。かなりのハイペースだが、普段も同様だという。
宅配ボックスが満杯で不在配達になることも。大きな荷物は格納できないこともあり、ドライバー泣かせだ(記者撮影)
13時過ぎ、センターに4トントラックが到着。アマゾンからのこの日2回目の搬入だ。段ボールを満載したかご台車12台を下ろし、コースごとに仕分ける。台車1台に100箱以上はある。
仕分けを終え、午後の配達に出発。ポストに投函できる薄い箱や封筒状の荷物が多い。不在だった戸建てでは、荷物を軒下に置いた。何度も届ける中で住民と話をし、不在時の「置き配達」で合意したという。
1時間ほど配るとセンターに戻り、休憩もほどほどに再度アマゾンから届いた荷物を仕分ける。夕方からの配達では、仕事や学校から帰ってきた住民に荷物を渡していく。夜8時まで配り、配達完了は142個、不在配達はわずか7個、率にして5%だった。ほかのドライバーは不在率が1~2割。受取人の在宅状況を熟知し工夫をすれば、不在配達は大幅に減らせるのだ。
潜入したセンターには、「当日お届け130個」という張り紙が目立つ位置にあった。数カ月前までは「110個」だったという。同行したドライバーのように実働10時間で150個配る人もいれば、13時間で110個程度の人もおり、配達効率にバラツキがある。
荷物が増える中、配達効率を高めるようにとのプレッシャーは強い。同行したドライバーが勤める会社の社長によると、アマゾンはDPに対し、1時間平均9個の配達完了を求めている。配達拠点ごとに毎日報告させ、平均を下回り続けると、エリアごとDPを差し替えるケースもある。
DPの報酬体系を通しての圧力も強い。前出の社長によれば、DPは新規の協力会社に、最初の3カ月間は配達個数にかかわらず車両1台当たり1日2万数千円を支払う。その後は配達完了の荷物1個につき200円程度を支払う体系に変わる。効率が悪いドライバーは稼げなくなり、自然と淘汰されていく構図だ。
アマゾンを頂点とするピラミッド構造
DPが協力会社を使うのには、自社ドライバーを抱えずに固定費を抑え、繁閑の差に柔軟に対応したいという事情がある。宅配大手と違い、DPには集荷や代金引き換えの業務がないため、アマゾン側は配達効率の向上を期待した。だが、協力会社への依存度の高いことが配達効率を下げるという皮肉な現象も起きている。「配達で遅れが生じても、協力会社同士が連携することは難しい」(前出の社長)。
今回潜入したDPの拠点には協力会社の下請け会社も入っていた。アマゾンを頂点とする物流のピラミッド構造が生じている。宅配大手も下請けや孫請けに依存しており、構造は同じだ。人手不足の物流業界では大手が社員の待遇改善を進めるが、末端には十分に行き届いていない。アマゾンは配送の一部をヤマトからDPにシフトしたが、問題の構図は何ら変わらない。自社配送網の拡大を阻む大きなリスクといえそうだ。
当記事は「週刊東洋経済」4月28日-5月5日合併号 <4月23日発売>からの転載記事です
木皮 透庸 : 東洋経済 記者
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