高齢化が進む日本社会、アルツハイマー病(AD)や認知症などの病気が身近になりつつある。
2022年〜2023年の調査によると、65歳以上の高齢者の27.8%が、軽度認知症または軽度認知障害(MCI)を有している。
治療が難しいことでも知られるこれらの病気だが、原因の究明は徐々に進んでおり、そのメカニズムに即した治療が登場しているという。
日本イーライリリーでは「ケサンラ(R)点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ(遺伝子組換え)注射液)が、アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行を抑制する効能・効果があるとして、今年9月24日に厚生労働省により承認された。
承認に伴い、同社は「ケサンラ(R)承認メディアセミナー~早期アルツハイマー病の当事者の方々が、自分らしく生活できる時間を伸ばす~」をステーションコンファレンス東京で10月29日に開催。
ハフポスト日本版は会場へ足を運び、同薬における臨床試験の結果や今後の展望について聞いた。
アルツハイマー病に関わる「脳のシミ」とは?
セミナーには、神戸大学大学院保健学研究科・リハビリテーション科学領域 教授 同認知症予防推進センター長 古和久朋さんが登壇。早期アルツハイマー病の最新の治療法に対する期待などについて話した。
古和さんは、認知症の定義について「いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知機能障害があるために社会生活に支障を来すようになった状態」と説明。定義がアナログであるため、診断が難しいことが特徴の1つだという。
認知症発症の最多の原因がアルツハイマー病だという。古和さんは「大脳皮質などの神経細胞死が起き、脳神経の回路が壊れ、担ってきた機能に障害が生じます」と症状を説明した。
正常高齢者とアルツハイマー病の患者の脳を比較してみると、正常高齢者に比べ、アルツハイマー病の患者の脳が萎縮していることがわかる。古和さんは「萎縮する脳内では『老人斑アミロイドβプラーク(Aβ)』や『神経原線維変化(リン酸化タウ)』という『脳のシミ』のようなものが増え、同時に神経細胞の減少が進んでいます」と説明した。
長年、直接的な治療が難しいとされてきたアルツハイマー病だが、近年では原因の究明が徐々に進み、メカニズムに即した治療が登場しているという。
早期アルツハイマー病治療薬「ケサンラ」とは?
35年以上の歳月と100億ドル以上の資金を費やし、中枢神経領域における研究を続けてきた「リリー」では、認知症への理解を深め、スティグマ(偏見)を取り除き、診断と治療へのアクセスを高めるための「認知症と共生する社会」の実現に向けて注力している。
2024年1月1日に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」でも「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすこと」を目指した基本理念を設定しており(3条)、認知症に関する偏見の払拭は社会全体において重要な課題となっていることがうかがえる。
2024年9月、同社が開発した早期アルツハイマー病治療薬「ケサンラ」の、アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制の効果が承認された。
日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部二ユーロサイエンス領域本部長 医学部長 小森美華さんは、治療薬について「アルツハイマー病の原因となる老人斑(アミロイドβプラーク)の除去を目的に創生されました」と説明。
アミロイドβ病理を示唆する所見が確認された60~85歳の早期アルツハイマー病患者を対象に、有効性と安全性を評価した今回の臨床試験では、8ヵ国1736例が登録されたという。
本試験の最大の特徴の1つは、アミロイドβプラークの除去が確認され、プラセボ切り替え基準に該当した場合は、ケサンラをプラセボ(治療効果のない薬)に切り替えた点だ。
試験の結果、ケサンラ群の29.7%が投与開始から24週間、66.1%が52週間、76.4%が76週間でアミロイドβプラークの除去を達成した。中でもより疾患として早い段階にあると考えらえる軽度・中等度タウの蓄積集団においては、投与開始から24週間で34.2%、52週間で71.3%、76週間で80.1%がアミロイドβプラークの除去を達成した。
古和さんは、中期的な治療で投与を終えることができるため、患者や介護者への負担や副作用のリスクを抑えられることがメリットだと説明。また治療薬の目的が「原因の除去」と明瞭なことから、医師と患者が同じ視線で治療に臨みやすいこともメリットだという。
数値や視覚的な情報で改善を確認することが難しい認知症などは、患者側の意向により、治療を中断する場合も少なくないようだ。
今後も患者数の増加が推定されているアルツハイマー病だが、ケサンラは同社が掲げる「認知症と共生する社会」に向けて前進する大きな一歩になりそうだ。