僕、渋谷で21年間、バーを経営しているのですが、「渋谷は汚い」ってよく言われるんですね。まあ色んな原因はあるかとは思うのですが、理由のひとつに「最近は飲み放題のお店が多い」ということがあると思います。
飲み放題だとどうしても「元をとろう」という人が出てきてしまって、自分の限界をこえた飲み方をしてしまって、路上で倒れてしまったり、嘔吐してしまったりするんです。外国人が見るとびっくりするらしいですよね。普通にスーツを着ている若い男性や、綺麗なOLさん風の女性が倒れていたり、嘔吐していたりって日本だけの風景なのかもしれません。
ところで、どうしてお店側が飲み放題にするのかと言いますと、「お酒を飲まない人やお酒に弱い人全員から一律にお金をいただける」という理由なんです。
『最高の飲み方』という本によりますと、白人と黒人は遺伝子的に全員がお酒をたくさん飲めるそうなんですね。でもアジア人は遺伝子的に、5割がたくさん飲めて、4割が本当はあまり飲めないのだけど練習したら少し飲めるようになって、1割が全く飲めないそうなんです。はい、日本人は5割がお酒は強くないんです。
飲み放題にすると、お酒が飲める人はたくさん飲んで「元をとった」ように感じますが、本当は半分の人たちが全然元をとれてないから結局は一律に全員からお金を回収できるというシステムになっているんです。
でも、バーという酒場を経営している人間にとって、「お酒ってもっとちゃんと味わって飲んで欲しいなあ」って思います。
さて、もうひとつ、最近、危惧していることがありまして、コンビニやスーパーで売っている缶チューハイの度数がどんどん上がってますよね。要するに「手っ取り早く酔っぱらいたい」ってことなんだと思うんです。
たぶん味なんてどうでもよくて、まるで「注射をうつ」みたいにアルコールを摂取して、早く酔っぱらいたいんでしょう。
実は「お酒」って農産物なんですね。例えばフランスのシャンパーニュでしたら、シャンパーニュ地方の農家の方がブドウを一年中面倒を見て、そして発酵させて瓶に詰めて、ラベルを貼って、世界中の結婚式の開場やレストランで「おめでとう!」って言われるために出荷しています。
あるいはスコットランドのウイスキーはイギリスの農家の方が作った麦を水にひたして、芽を出させて麦芽というものにします。それを発酵させてお酒にして、さらに蒸留させて、瓶詰めして、ラベルを貼って、世界中のウイスキーが好きな人、あるいはバーに出荷しているというわけです。
バーテンダーとしては、出来ればそういう農産物としてのお酒を文化的背景も含めて楽しんでいただいて、そして「そうかあ、このお酒、フランス人が2015年に作ったんだ。あの年、自分は何をしてたかな?」とかって考えるような豊かな時間を持っていただきたいのですが、今、上のような飲み放題と缶チューハイの状況になっているんです。
いかがですか?
先日、『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』という小説を書いたのですが、これはバーが舞台で、21個の恋愛の話が入っているのですが、毎回、「シングルモルトって何?」とか「マティーニってどんなカクテル?」とか「お酒が飲めない人はバーでどうやって注文すれば良いのか?」とかって話も書いています。こういう「お酒を楽しむ文化」が若い人に伝わればいいのになって思うのですが、いかがでしょうか?
渋谷 bar bossa 林伸次