Yahoo!知恵袋、みんな何が知りたいの? 2億件の質問を分析してみた

250万件の質問で「皆さんは」という言葉が出現していた。
毎日、数々の相談が集まってくる「Yahoo!知恵袋」
毎日、数々の相談が集まってくる「Yahoo!知恵袋」

博報堂生活総合研究所の酒井崇匡です。

連載「"みんな"って誰だ?」第9回目・第10回目は大手Q&Aサイト「Yahoo!知恵袋」に寄せられた膨大な生活者の悩みと疑問の分析結果をご紹介します。

大手Q&Aサイト「Yahoo!知恵袋」には、過去15年間でなんと約2億件の質問が寄せられています。サイト内には膨大な数の生活者の悩みや疑問が蓄積されており、日々多くの人が質問とそれに紐づく回答を自分の生活の参考にしています。

生活総研では、生活者が思わず発してしまった一言や何気ない行動から欲求を深掘りする生活者観察手法(エスノグラフィ)の視点を持って、デジタルデータを分析するアプローチ、「デジノグラフィ」を提唱しています。思わず発してしまった悩みが約2億件も蓄積されたYahoo!知恵袋は、その分析対象としてまさにうってつけなのです。

"みんな"の動向を知りたいカテゴリとは?

今回の分析で着目したのは、Yahoo!知恵袋の質問の中でも、特に「皆さんは」というワードが文中に入っている質問はどんなカテゴリで多いのか、という点です。

「皆さんはどうしていますか?」、「皆さんはどう思いますか?」というような聞き方をよくされる質問とは?"みんな"のことが気になって、人並みを探りたくなるのは、どんな分野なのか? それを解析しようということです。

過去15年間の質問文を対象に分析したところ、「皆さんは」と呼びかける質問の出現率は全体のおよそ1.25%でした。特定のキーワードのため出現率で見るとわずかですが、質問件数の母数は前述の通り約2億件なので、1.25%でも約250万件を分析することになります。

質問のカテゴリ毎でも「皆さんは」を含む質問の出現率を算出し、縦軸に出現率、横軸にそのカテゴリ内の総質問数を置いたのが下のグラフです。

大まかに言えば、グラフの上側ほど"みんな"のことが気になる、人並みを探りたいカテゴリで、右側ほど多くの人が質問をしているカテゴリ、ということです。

グラフ上部に位置している、出現率が高い(よく「皆さんは」という言葉とともに質問されている)カテゴリは、「生き方と恋愛、人間関係の悩み」、「ニュース、政治、国際情勢」、「マナー、冠婚葬祭」、「子育てと学校」などとなっています。

 特に「生き方と恋愛、人間関係の悩み」はカテゴリの質問数も多く、最も"みんな"のことが気になる領域と言って良さそうです。その中の細かいカテゴリ区分を見てみたところ、シニアライフや一人暮らし、それに職場や友人、家族との人間関係についてのカテゴリで特に出現率が高いことが分かりました。

その他についても細かいカテゴリ区分で出現率を見ると、貯金や家計、節約、ギャンブルといった、お金に関する質問でも、「皆さんは」と多く問いかけられていることが分かりました。また、カテゴリの投稿数自体は他に比べてかなり少ないのですが、競艇、耐震、ウォーキング、募金、寄付などは全カテゴリの中でも特に高い出現率を示しています。

答えがないから"みんな"が気になる

逆に、「教養と学問、サイエンス」や「スマートデバイス、PC、家電」、あるいは「コンピューターテクノロジー」など、専門性が高く、事実として明確な答えのあるカテゴリでは、「皆さんは」という問いかけの出現率は低くなっています。

"みんな"のことが気になる、人並みを探りたくなる分野というのは、多くの人が体験したり直面しているテーマである一方、明確な答えがあるわけではなく、Web検索してもなかなか判断がつきにくい分野、と捉えることもできそうです。

私個人としては、この結果は「やっぱりそうだよなぁ。」と思うことが多く、自分が持っていた感覚がデータで実証されたような印象を受けました。

その一方で、これだけライフスタイルの多様化が言われている現在でも、"みんな"がどうしているか一番気になるのは結局、「生き方や人間関係」についてです。貯金や家計などのお金周りで人並みを探るのも、広い意味では「生き方」に通じるでしょう。そのような面での"みんな"への興味というか知りたい欲求は未だに強いんだなと改めて感じました。

皆さんはどうお感じになったでしょうか?

座談会の様子
座談会の様子

ギャンブルが出てきたのは予想外

これらの結果をどう見るか、分析に加わった4人のメンバーでディスカッションを行いました。ここからは、その内容をご紹介します。

酒井:さすがに質問総数が膨大で、その分野も多岐にわたるため、「皆さんは」の出現率を分析しただけでも相当面白い結果を得ることができました。特に出現率の高かった生き方や人間関係、お金、子育てなどの分野は、書籍市場で販売部数が多い分野とも共通性を感じます。これらは答えがはっきりしていないからこそ、参考にできる準拠先を求めているということなのでしょう。

データをまとめて頂いた林さんは、どのようなポイントが面白いと思われたでしょうか。

林:まさか、出現率の高いカテゴリで「ギャンブル」が出るとは予想外でした(笑)でも、言われてみれば「確かにそのとおり」という結果だったんじゃないでしょうか。

ITや科学関係など、専門性の高いカテゴリは「皆さん」というキーワードは当然ながら出にくく、恋愛や生き方といった「みんなが体験していること」については出やすい、というのも理解できます。

ニュースカテゴリに見られる時系列変化

(引き続き)林:「ニュース、政治、国際情勢」については、"みんな"が情報を仕入れているものだからこそ、「皆さんはどう思いますか?」と意見をやり取りすることができるんでしょうね。

ちなみに、時系列でも各カテゴリでの「皆さんは」の出現率を見てみたのですが、「ニュース、政治、国際情勢」は2008年ごろには実は出現率でトップのカテゴリだったんです。それが2012年ごろを契機にガクンと数値を落としている。この時期はスマートフォンが普及し、SNSの利用者の裾野がより拡がった頃に当ります。この分野に関しては、「皆さんは」と問う場所が多様になったのかもしれません。一方、2016年にまた比率が上がることがあったのですが、これはおそらくアメリカの大統領選が関係していると予測できます。

座談会の様子
座談会の様子

親よりもQ&Aサイトの"みんな"?

石野:なるほど。社会的なイベントが影響する場合もあるんですね。

私は「マナー、冠婚葬祭」での出現率が高いことが気になりました。「一般常識として知らないと恥だから聞いておきたい」といったモチベーションが隠れていそうです。Yahoo!知恵袋の場合、実名を出さずに聞けるということも、そういうちょっと恥ずかしい質問でもできる環境をつくっているのでしょう。

別の背景として、両親や周りの人に聞くよりも世の中にオープンに聞いたほうが早く解決する、というのはあるのかもしれない。例えば料理に関しては、「親が料理を教えてくれなくなってきていて、レシピサイトが親代わり」という若い人が増えてきているようです。そうやって親から伝承されるものも少なくなっているのではないでしょうか。

分析にあたったメンバー
分析にあたったメンバー

リアルよりもバーチャルの方が親密

天野:確かに、親に聞くよりも検索すれば出てくるというのもありますしね。(笑)

以前は物理的接触の濃密さこそ「リアルかつ親密」と考えるのが一般的でしたよね。でも、今はリアルよりもネットの方が親密な関係が築けることも増えている。

従来は(多少不本意だったとしても)自分の価値観を集団に合わせていくのが普通でした。しかしネットの場合は自分と同じ価値観の集団を見つけることが非常に容易になっていますよね。わざわざ集団の価値観に合わせなくても、自分と同じ価値観の集団を選んで、そこに属してしまえばいい。だからこそ、リアルよりも親密な関係が築けるということもあると思います。

Yahoo!知恵袋のデジノグラフィ分析、前編は各カテゴリにおける「皆さんは」の出現率について取り上げました。後編では、具体的な質問の内容について探っていきます。

執筆者・分析メンバーのプロフィール

今回分析にあたったメンバー
今回分析にあたったメンバー

(左から)

林 伸明

ヤフー株式会社 メディアカンパニー マーケティングソリューションズ統括本部 ビジネスインテリジェンス。

1999年11月、ヤフー株式会社に入社。広告営業、戦略企画を経て、2013年よりリサーチ&アナリスト職。2016年4月より株式会社Handy Marketingにも兼務出向。

天野 武

ヤフー株式会社 メディアカンパニー マーケティングソリューションズ統括本部

(兼)株式会社Handy Marketing 代表取締役副社長 COO。

2010年9月、ヤフー株式会社に入社。リサーチアナリシス部部長を経て、2016年4月より博報堂DYメディアパートナーズ、Yahoo! JAPAN、DACの合弁会社である株式会社Handy Marketingに兼務出向。

酒井 崇匡

博報堂 生活総合研究所 上席研究員

2005年博報堂入社。2012年より博報堂生活総研に所属。日本およびアジア圏における生活者のライフスタイル、価値観変化の研究に従事。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。

石野 正規

博報堂DYメディアパートナーズ ストラテジックプラニングディレクター

2009年博報堂入社 2016年博報堂DYメディアパートナーズ出向。自動車・通信教育・飲料メーカー・媒体社のマーケティング基盤構築、CRM、ブランドマーケティングの統合を実践中。

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