「モノより、サービス」。サブスクリプションは私たちの働き方も変える

《本屋さんの「推し本」 文教堂・片桐明の場合》

「モノより思い出」━━。

とても好きなコピーです(※1)。

物を「所有する」よりも「所有しない」ことで複数の豊かな価値を得ることが、私たちの貴重な資源であるお金の使い方としてクールだと考える価値観が、いま世界を変えようとしています。

ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート『サブスクリプション』(ダイヤモンド社)
ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート『サブスクリプション』(ダイヤモンド社)

サブスクリプションは一定の利用期間に応じて料金を支払う方式で、そうしたビジネスモデルを使って、市場には新しいプレーヤーが続々参入し、新しい体験価値を提供しつつあります。

富裕層をターゲットに月額3万円で高級フレンチを食べ放題にするプロヴィジョンから、比較的一般でも利用しやすいエアークローゼット(月額6800円でスタイリストによるコーディネイトで服が借りられる)にラクサス(月額6800円でハイブランドバッグが借りられる)など、外食からファッションまで、その体験価値がますます身近に広がっています。

サブスクリプションは、わたしたちの世界を急速に作り変えるほどの大きなパワーを持っています。

そのパワーとは、モノではないサービスによって、多くの人に成功体験を提供することです。

わたしたちはいつも、新しいワクワクするような体験価値との出会いを求めています。それはウェブ上の体験にとどまらず、リアルな体験だったりもしますよね。

例えば本は種類が多く、内容の良し悪しも簡単には判断できないため、自分で選ぶという作業はとても非効率的です。そこで詳しい人に選んでもらうというサービスがあれば非常に価値が高いといえます。

このように多くの顧客にとって価値があり、これならお金を払ってでも手に入れたいと思われるサービスを提供するために、経験や自分なりに培ってきたスキルを活用することができれば、それは自分にとってかけがえのない「モノより思い出」になります。

新しい価値を提供することは、わたしたち自身がワクワクして働くことにつながると思います。

サブスクを単に経済活動だけでなく、わたしたちの働き方を変える力にしなければ何の価値もないのではないでしょうか。

サブスクとは、自分と社会とのエンゲージメントでもあります。

与えられた仕事をするだけでなく、自分の頭で考えて創意工夫する仕事に対してこそ、潜在能力を最大限発揮できるのは明らかです。そうすることが企業と自分と顧客にとってwinwinwinの結果になります。

いま働いている環境の中でも新しい仕組みを考えて共有することは、成功体験を広く共有するという考え方もできます。

体験価値の素がわたしたちの周りにはいっぱいころがっていると気づける感覚がとても大切です。

その価値を提供する方法を考えて、顧客の求めている価値観に対応させる柔軟な頭が必要です。そうしてこそ本来自分が持っている知的財産を元に、価値を発揮したい分野で働くことができるようになります。

価格はサービスを使うことで得られる結果に対して決まるもので、サブスクリプション文化とは顧客に確実に成功してもらうことであり、それを自社の収益に変換することです。

わたしはどんな成功体験を提供できるだろうか? と常に考えてしまいます。

こうやって本を紹介するのも、ウェブで選書することで読書のきっかけを提供し、成功体験につなげてもらえれば嬉しいからです。

大きな企業はフットワークが重いことが多いけど、ひとりや数人で提供するスモールビジネスなら軽いフットワークで成功体験を提供することも可能でしょう。このように新しい働き方を創造するのもサブスクの可能性の1つだと思います。

わたしは仕事と同じくらい魚釣りが好きで、数年間に渡って複数の釣り雑誌に連載をしていたこともあります。

ハイキングやサイクリングに比べて釣りは少々難しいことが多く、そこそこマーケットが大きい割には成長しにくいジャンルのように感じます。始めてみたいけど、どうすればいいのかわからない、周りに教えてくれそうな人がいない…といった声をよく聞ききます。そこには成功体験を提供するチャンスがまだまだ潜在しています。

釣りのように、体験してみたいけどハードルが高くて挑戦するきっかけがないことは、身の回りに沢山あります。

顧客の潜在的な不満解消と成功体験を、ビジネスチャンスととらえてサービスを開発するのもサブスクの可能性です。

こんなスモールビジネスに、大企業は手を出しません。

働き方改革が始まったなかでの新しい働き方として、週末をサブスクの日にしてみるのも面白そうです。

サブスクリプションを軸にわくわくする働き方を模索する。『サブスクリプション』は、そんなことを考えさせられた、ここ最近では珠玉の1冊でした。

※1…コピーライター・小西利行による日産「セレナ」のキャッチコピー。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

 今週紹介した本

ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート『サブスクリプション』(ダイヤモンド社)

今週の「本屋さん」

片桐明(かたぎり・あきら)さん/文教堂書店 淀屋橋店(大阪府大阪市)

どんな本屋さん?

オフィスビルの中に位置し、いつも仕事帰りの人たちでにぎわっている書店です。2フロアに分かれた店内には、いたるところに店長自らが書いたかわいらしいPOPが展示され、本を選ぶ人の助けになってくれます。POPを見つつ棚からじっくり本を探すもよし、ワゴンやテーブルに展開されたおすすめ本を見るもよし、宝物を探し出すように楽しめます。

撮影:橋本莉奈(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)

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