「同性カップルの子どもも家族」。明石市が全国で初めてとされる制度を2021年1月8日からスタートします。
「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」ではパートナーだけではなく一緒に暮らす子どもも家族であることを市が証明します。
同性カップルを婚姻に準じた関係とみなすパートナーシップ制度は、全国60を超える自治体に広がっています。
しかし、「子どもも家族」と定めたファミリーシップ制度は、自治体としては明石市が初めてではないか、と同市の担当者は言います。
なぜ、子どもも含めた制度が必要だと感じたのでしょうか。明石市の泉房穂市長に聞きました。
制度によりできるようになること
制度の導入と合わせて、市が様々な関係機関へのはたらきかけや調整を実施することにより、以下の効果が発生します。
(1) 医療機関で家族として対応
パートナーや子どもの病状説明や入退院の手続き等の際、家族としての対応が可能です。(2) 市営住宅に家族で入居可
パートナーや子どもも含めて、家族として入居手続きをし、一緒に入居できます。(3) 市営墓園の使用・承継
パートナーを一緒の墓地に埋葬できるほか、墓地の使用権をパートナーに承継できます。(4) 犯罪被害者等遺族支援金等の給付
パートナーも犯罪被害者等遺族支援金や特例給付金等の支給対象となります。(5) 住民票の続柄を「縁故者」に変更可
これまで「同居人」という続柄しか選択できなかったパートナーが「縁故者」を選択できます。
必要とする声があった
ファミリーシップ制度を導入した理由を「必要とする声があったから」と、泉市長は説明します。
2015年に、東京渋谷区と世田谷区が先駆けとなって広がったパートナーシップ制度。
明石市も、LGBTQの人たちへの支援を検討する中で、「制度を作る上で大切なのは、当事者や当事者に近い人たちのニーズを中心に据えることだ」と考えたといいます。
ニーズに応えられる制度にするため、同市は2020年4月に、全国公募で2人のLGBTQ+/SOGIE施策担当を採用しました。2人はいずれもLGBTQ当事者で、長年支援活動に携わってきた人たちです。
「最もニーズ把握をしてきて、今後もできる方々を施策の担当者にしました。そして様々な関係者からの声を集めながら制度設計をしました」と市長は言います。
このふたり以外で公募に応募してきた人たちにも話を聞いたり、市民団体やLGBTQ団体のリーダーをアドバイザーにしたりして、よりニーズに応えられるような制度を考えたそうです。
そうやって様々な意見を聞く中で上がってきたのが「パートナーだけではなく子どものことも取り入れた制度にして欲しい」という声でした。
例えば、以前に異性婚して子どもがいたAさんが、離婚して同性のBさんとパートナーになった場合、Aさんが産んだ子どもであるCさんはBさんとの親子関係が認められません。
そのため、BさんがCさんを保育所に迎えにいっても親として扱ってもらえない、また病院でも家族として入院手続きができないといった問題が起きていました。
そういった問題をファミリーシップ制度によって解消していきたい、と泉市長は言います。
「様々な家族のかたちがあるわけですから、その様々な家族のかたちに対して『それを諦めなさい』と言うのではなくて、行政としてできることをしっかりとしていきたいと思い、この制度をつくりました」
ファミリーシップ が変えること
そうやって作られた明石市ファミリーシップ制度のポイントは二つある、と市長は言います。
明石市ファミリーシップ制度のポイント
1. 大人同士の関係だけだったパートナーシップ制度から、子どもも含めた家族という考え方に発想を転換し、あらゆる家族の形態を応援していく
2. 困りごとを解消する、実効性のある制度にする
特に2つ目の「困りごとを解消する」を強く意識しているそうです。
パートナーシップ・ファミリーシップ制度が1月8日にスタートした後、市は制度利用者に証明カードを発行し、市立病院や市立学校でも家族同様の対応をする予定です。
これにより、市立の学校での子どもの送り迎えや病院での入院手続きなどもできるようになる他、家族として市営住宅に入居したり市営墓園を利用したりできるようになります。
さらに、民間との協力にも力を入れていく、と市長は説明します。
「行政としては、まず我から始めよで市が率先してやるのですが、行政だけでは足りません」
「同性同士の入居を拒否されるケースもあります。民間の病院や宅建協会とも連携をするための相談をしていて、すでにネットワーク会議を作っています」
「民間と協力し、制度を利用をするとそれまでの困りごとが一つでも二つでも解消する、負担が軽減されるということを狙っています」
市のまちづくりにも合致
泉市長によると、明石市はこれまで「子どもを核とした街づくり」と「誰1人取り残すことのない街づくり」の2つを街づくりの柱としてきました。
パートナーシップ制度・ファミリーシップ制度は、この明石市が目指してきた街づくりにも合致したといいます。
「少数者に寄り添うような町こそが、全ての人にとって、暮らしやすい街。明石市はそれをコンセプトにした街づくりをしていて、そこに実際に上がってきた声を反映した制度にしました」
明石市では、子どもを社会全体で育てるための里親制度にも力を入れており、同性カップルの里親委託も考えているといいます。
パートナーシップ制度を導入する自治体は、今後も増えると考えられおり、泉市長は「他の自治体でも、ファミリーシップのように子どもを包み込んだ概念を検討して欲しい」と話します。
また、自治体がLGBTQファミリーの支援に力を入れても、引っ越した場合は制度を使えない、相続など法律で定められている保障までは変えられないなどの問題があることから、「国が制度化や法改正するなど、国においても真剣な議論を始めるべき時期だと思います」と、国レベルでの支援の必要性も強調します。
今回、明石市が子どもも視野に入れた制度を作ったことで、自治体のLGBTQ支援が一歩前進することになります。
LGBTQ当事者や家族を含め、市民一人一人が生きやすい街を作るためには、そこにある切実な声に耳を傾け、課題解決することが行政にとって大切、と市長は話します。
「実社会では家族として暮らしているにも関わらず、入院した時にパートナーであるAさんとBさんが家族として扱われず面会できない、ましてやその子どもであるCさんは会えないということがあります。でも、入院した時には顔を見たいですよね」
「大事なのは、市民の多数・少数ではなくて、切実な市民の声というものを中心に据えて、それを課題解決するということ。行政が知恵を絞って、施策をしっかりと制度化していくということです。その繰り返しで、暮らしやすい街になっていきます」