国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で、開始3日目の8月3日で企画展「表現の不自由展・その後」が中止となった問題。10月6〜8日に企画展は再開される見込みだが、日程はまだ発表されていない。
この問題を受けて、あいちトリエンナーレでは、表現の自由について世界にアピールする「あいち宣言」を取りまとめようとしている。
アーティストらが作る団体「ReFreedom Aichi」が中心となって作成している草案が10月5日、示された。
名古屋市内で開かれた国際フォーラムの終了後、フォーラムに参加していた市民の前で公開された。
■カルチュラル・ワーカーの権利を守る
「あいち宣言」は、今回の展示中止に追い込まれた騒動を反省し、この教訓を将来の芸術祭にいかすため、改めて「芸術の自由」を保障するための基本理念や、関係者の行動指針を示すことを目的にしている。
今後のいかなる芸術祭でも、「表現の自由」が保障され、自由な意見交換が確保されることを目指し、宣言の中ではその象徴として今回の「あいちトリエンナーレ2019」を掲げている。
宣言の原案では、芸術の自由を保障するための基本理念を示し、芸術家、鑑賞者および芸術祭を支えるステークホルダー、芸術監督とキュレーター、カルチュラル・ワーカー、行政の5つについて、そのそれぞれの権利と責務を定めている。
今回の「表現の不自由展・その後」展示中止は、電凸や脅迫FAXによってトリエンナーレ職員らの通常業務が滞ったり、職員だけでなく地域全体の安全が脅かされたりしたことが主な原因だった。
そのため原案では、カルチュラル・ワーカー(芸術祭に携わる事務局、職員、ボランティアなど)らが「『表現の自由』という理念の犠牲者となること」を防ぐための権利として
・人格や人権を「傷つけられない権利」
・問い合わせや抗議の対応にあたって、主催者および展示企画者は十分に必要な情報を事前に提供しなければならない
があるとした。
さらに市民からの批判には丁寧に向き合わなければならないが、人権を脅かす抗議行動は、その批判の範囲に含まれない、と定めている。
そのほかにも▽芸術家は自由な創作活動を行う権利を有すると同時に、鑑賞者の観る権利に十分に配慮する責務があること▽芸術監督やキュレーターには主体的に企画を実践する自由がありながらも、作品を選択する際には検閲や自主規制が広がらないように十分な協議を行うこと▽(芸術監督やキュレーターは)市民からの展示内容に関する意見や批判に対しては、展示の変更や中止でなく、議論を喚起していく責任を負う、などとしている。
また、テロ予告や脅迫、電凸などを理由に展示会を中止せざるを得なかったことを、「権力による表現への介入を容易に許し、市民の活動を守ることができなかった」と批判。
その反省として「文化事業はテロに屈せず、また、安全安心を建前にした自己検閲への誘惑を、断ち切らなければならない」などと指摘した。
今回示された原案は、今後パブリック・コメントなども参考に改良し、「あいちトリエンナーレ2019」の会期末である14日に完成させることを目指しているという。