避妊の失敗や、望まない性行為などで妊娠するかもしれないとき、一定の時間内に飲むと高い確率で妊娠を防げる緊急避妊薬(アフターピル)について、3月12日、衆院議員会館で当事者団体や医師、国会議員らによる勉強会が開かれた。
緊急避妊薬は、国内だと医療機関で処方してもらうしか手に入れる方法がなく、1万5000円以上する場合も多い。
高額な価格設定とすぐに買えない不便さが問題となり、2月にはフリマサイトなどで個人輸入の緊急避妊薬が違法に取引した容疑で仙台市太白区の男(46)が逮捕される事件も起きた。
SNSで違法に取引される緊急避妊薬の価格は送料込みで2000~3000円ほど。
そんななか、2017年には厚生労働省の検討会で市販(OTC)化が話し合われ、現在はビデオ通話を使ったオンライン診療の適用も議論されている。
また3月には、国内で唯一承認を受けた緊急避妊薬「ノルレボ」の後発薬が発売される予定。
現在1万5000円~2万円で医療機関で処方してもらう必要があるが、後発薬が出れば半額ほどに抑えられる可能性もあり、国内での緊急避妊薬の扱いは過渡期を迎えている。
性暴力を受けても病院に行くのは1.8%
勉強会では、緊急避妊薬が急に必要になった時に、病院に行かないと手に入らないことや、価格のために購入を躊躇してしまう実態について話し合われた。
パネルディスカッションでは性暴力を経験する割合と、性暴力を相談をした割合についても語られた。
内閣府の2017年度調査で、20歳以上の男女3376人から回答を得たアンケートでは、無理やり性交などをされた経験がある人は4.9%。女性は7.8%で、男性は1.5%だった。
人口統計では、20歳以上の女性は2019年2月時点で5449万人。7.8%は425万人ほど。
性暴力を受けても、病院などの医療関係者に相談した人は1.8%しかいない。警察に相談したのは、3.7%だった。
親が保険証を持っていて渡してもらいにくかったり、産婦人科に行くと保険の通知が親に来てしまうのではないかと心配したりして、10代にとっては価格以上に医療機関へのハードルが高い背景もある。
ディスカッションでは、こうした状況から「緊急時に、今の日本では『医者に行こう』というのは現実的じゃないのかもしれない。だからこそ、OTC(市販)化などのアクセス向上が必要」だと議論を展開した。
すべての人の健康を守るために、安全に平等に提供されるべき
産婦人科医の遠見才希子さんは、緊急避妊薬が安価で手に入りやすい薬になることに否定的な意見がある一方で「アクセスが向上すれば誰が救われるのか考えてほしい」と訴えかけた。
緊急避妊薬のアクセス向上に否定的な意見の中には「性が乱れる」「薬を乱用・悪用する」というもののほか、そもそも避妊失敗は「自業自得だ」といった女性の自己責任論に終始する見方もあるという。
「例えば15歳で、性的虐待にあった人。レイプにあった人。25歳で不特定多数の交際をして避妊失敗した人。35歳で夫とセックスしたものの、妊娠したくない人。そのなかの誰を救うかなどと、医療側が人をジャッジしたり律したりする役割は無い。すべての人の健康を守るために、医療は安全に平等に提供されるべきものです」と語った。
諸外国だと「平均価格は2500円」でも日本では1.5万~2万円
#なんでないのプロジェクトの福田和子さんは、他国との状況を比較し、世界と比べて突出して日本での販売価格が高いことを疑問視した。
薬局のカウンターの後ろに緊急避妊薬がおかれ、薬剤師のコンサルティングのもと買うことができる国は、現在76ヵ国という。
各国での緊急避妊薬の価格について「アメリカでも薬局で1500~5500円で買える。個人保険適用で無料で買えることもある。イギリスも薬局では1500~3000円。ドイツやフランスでは未成年は無料でもらえる」と紹介した。
アジア諸国に目を向けると、タイでは18歳以下は薬局では購入できないが、販売価格は220円。インドでは100円ほどで病院でも薬局でも手に入る。
福田さんは「発展途上国だから、先進国だからといって値段が日本ほど高いものはない。1万円を超えない国ばかり。平均すると2500円程度です。一方、日本では1万5000円~2万円。その背景には女性の健康がアディショナル(付け合わせ的)なものとして考えられている。それが一番問題だと思う」と話した。
性情報の氾濫と、性教育とのギャップ。さっと買えるアクセスを
NPO法人ピルコンの代表をしている染矢明日香さんは、日本における緊急避妊薬を手にするハードルの高さについて、実際の相談事例を交えて語った。
性的関係を持った成人男性から「これがあれば大丈夫」とまともに避妊をされず、個人輸入されただろう緊急避妊薬を渡された女子中学生では、薬の存在自体を知らなかったという。
厚生労働省によると、2017年の10代の出産は年間約1万件で、10代の中絶は約1万4000件。警察庁の調べでは、2017年にSNSを通した10代の児童買春や児童ポルノの被害は過去最多となっている。
インターネットを開けば無料のアダルトサイトに簡単にアクセスでき、SNSでも性の情報が氾濫している。しかし学校教育では小学校から高校までで「性交」の記載はなく、中学校まででは「避妊」について触れることもない。
染矢さんは「緊急避妊薬が必要になった当事者からは『こっそり、さっと緊急避妊薬を買える手段が欲しかった』『対等な関係性を含めた性教育が必要』という声を聞いている。どうしたら意図しない妊娠に悩まないその人らしい人生を歩めるかを考え、誰にでもアクセスできるようにしてほしい」と語った。
アフターピル議論と地続きで、女性の健康と性教育の議論も
勉強会に参加した産婦人科医の宋美玄さんは「緊急避妊薬が処方薬であると、産婦人科に来る機会にはなるかもしれない。でも医療機関にかからないといけないとなると、外国のような安い値段で手にすることができない。やはりOTC(市販)化が必ず必要となってくる」と語った。
また、アフターピルの議論について「女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツとして、アフターピルが手に入ればいいじゃないか、という議論ではなく低用量ピルや性教育と地続きの議論をしてほしい。女性が自主的に妊娠出産をコントロールし、月経に伴う症状を軽減しフリーになれるような女性の健康への対応と一緒に考えていってほしい」と呼び掛けた。
このほか勉強会では、新たな緊急避妊薬の承認・販売を求めたり、現在の価格を下げたりすることなどが盛り込まれた「緊急避妊薬へのアクセス改善に向けた緊急提言」が出された。
ハフポストでは、緊急避妊薬をめぐる状況や、親子での性をどう語ればいいのか、産婦人科医の宋美玄さんと遠見才希子さんらを交えたトークイベントを3月15日に開催します。
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