中国が象牙市場を閉鎖 アフリカゾウの密猟を止める最大の転機

近年では年間推定2万頭を超えるゾウが犠牲になっている

中国が2017年12月31日をもって象牙の市場を閉鎖しました。年間2万頭を超えるアフリカゾウが密猟の犠牲となる昨今、象牙の国際的な違法取引の一大要因となっている中国におけるこの大胆な政策は、アフリカゾウの生息国をはじめ国際社会から大きく歓迎されています。中国の市場閉鎖を成功に導くには、これから需要削減や違法取引根絶のための取り組みが求められます。一方、象牙の国内市場を維持する日本では、近年、中国に向けた違法輸出の横行が問題視されています。中国と日本、それぞれの動向をWWFとトラフィックの最新の調査をもとに解説します。

中国の象牙国内市場が2017年末に閉鎖

2006年以降急増したアフリカゾウの密猟。 近年では年間推定2万頭を超えるゾウが犠牲になっており、IUCNによれば、過去10年間にアフリカゾウの個体数は、11万頭減少したと考えられています。 密猟の目的は、「象牙」。 中国を筆頭とするアジアの経済成長に伴い、裕福になった人々が、アクセサリーや置物といった象牙製品をステータスシンボルとして求めるようになったためです。 この市場に象牙をもたらしてきたのが、高度に組織化された国際的な犯罪ネットワークの絡む密猟や違法取引です。 この危機的な状況を打開すべく、各国が積極的な協力と対応を取る中、2015年9月25、米中首脳会談の席において、習近平国家主席とオバマ前大統領が、象牙の国内取引を終焉させる決意を共同で表明しました。 そして、2016年12月30日、中国政府が2017年末までに、自国内の合法的な象牙取引を終了する政策を発表。 その段階的措置として、2017年3月31日をもって、象牙製品の製造工場のおよそ3分の1(34軒のうち12軒)と、小売店(143軒のうち55軒)の操業を停止。 そして、2017年12月31日、残る全ての製造と販売が終了され、2018年からは中国国内での象牙の販売が原則として禁止となりました。

期待されるその影響力

1980年代の日本がそうであったように、中国はこの10年、世界最大の象牙の輸入・消費国として、巨大な市場を有してきました。 ワシントン条約により、象牙の輸入は禁じられていましたが、違法な輸入は後を絶たず、それがアフリカゾウの密猟を呼ぶ、大きな原因になっていたと考えられています。 その中で行なわれた今回の新たな施策は、アフリカゾウの密猟危機に歯止めをかけるための最大の転機として、ゾウの保全や違法取引根絶に携わるさまざまな関係者から歓迎されました。 WWFのアフリカ・ディレクターを務めるフレッド・クーマ(Fred Kumah)はこのようにコメントしています。 「中国で取引禁止がついに実行されたことは、ゾウにとって、そして、ゾウを保護するために懸命に働く現地の人々にとって大きな勝利です」 しかし一方で次の点も指摘しました。 「中国の市場閉鎖は、野生のアフリカゾウの未来を守るための、より大きな、世界的な反応の始まりに過ぎません」 実際、中国の合法な象牙製品の製造や、販売、取引が法律で禁止されたことで、名目上は、国内象牙市場の閉鎖が完了したことになります。 ですが、これだけですべての問題が解決するわけではありません。 消費者の間で象牙を求める需要が残り、違法な取引から利益を得ようとする人がいる限り、中国に向けた象牙の違法な流入が続くことが懸念されるためです。 つまり、真の意味でゾウの密猟の波を止めるためには、象牙の需要の削減と、密輸などの違法行為の取り締まりの成功が鍵になります。

取引禁止後も無くならない? 続く象牙への関心と需要

WWFとトラフィックが中国の主要な15都市で2017年6月から11月にかけて実施した意識調査の結果によると、対象者の86%が取引禁止を支持すると回答しました。 しかし、その一方で実際に象牙の国内取引が禁止となることを知っていたのはわずか19%。 説明を聞いた後で思い当たると答えた人も46%にとどまりました。 つまり、中国国民の大半は、象牙の国内取引が禁止となったことを認識していない可能性が高いと考えられます。 さらに、取引禁止について知らされる前の回答では、対象者の43%が象牙製品を購入する意向を示しました。 また、取引禁止について知った後でも購入意向を示した人が18%に上っています。 驚くべきことに、ミレニアル世代(1980年から1995年に生まれた年齢層)では51%が取引禁止について説明を聞いた後に思い当たると答えたにもかかわらず、21%が禁止後も象牙製品を購入する意向を示しました。 この他にも、象牙の消費地が北京や上海、広州、成都といった大都市から地方都市に移っていることや、海外に渡航したことのある人の方が、まったくない人に比べて象牙の購入頻度が高いことなども明らかにっています。

周辺国からの違法な流入も懸念材料に

こうした調査の結果から、市場閉鎖が完了した2018年以降も、中国国内には象牙を買い求める消費者層が少なからず存在し続ける可能性があることがわかります。 政策を徹底するには、消費者層を特定し、適切なメッセージを伝えて意識変革を行なうことが重要といえるでしょう。 膨大な人口を抱え、多様性に富む中国において、象牙の需要と違法取引を抑え込んでいくことは簡単なことではありません。 さらに、中国の市場閉鎖を成功させる上で欠かせないのが、中国の周辺国における違法取引の撲滅です。 特に、中国人旅行客の往来が世界各地で増加する中、中国に向けた象牙の密輸を助長しているのが、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、さらに日本といったアジアの市場です。 これらの国々には、まだ多く象牙の市場が存在しています。 ここで、象牙を購入した中国人が、自国に象牙を密輸するケースが後を絶ちません。 中には、個人で買ったお土産のレベルではなく、明らかに商用を目的としたと思われる、大量の象牙を日本から持ち出そうとした例も確認されています。 このような状況を受け、2016年に開催されたワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)第17回締約国会議でも、「密猟もしくは違法取引に寄与する国内市場」を緊急な措置をもって閉鎖すべきとの勧告が採択されました。 すなわち、象牙を大量消費し、密猟の直接的な要因となっている中国のような市場だけでなく、国際的な違法取引にかかわるすべての国の市場で、相応な対策が緊急に求められているのです。

日本から中国に向けた象牙の違法輸出が横行

日本は1980年代まで世界最大の象牙の輸入国でした。 このため、国内に大量の象牙の在庫を有し、ハンコをはじめとする象牙製品の国内産業も、減少傾向にあるものの現在も継続しています。 一方で、中国とは対照的に、過去10年余りの間、日本に、新たに密猟により得られた大量の象牙が違法に流入しているとは考えられていませんでした。 また、国内市場の管理は万全ではないものの、国際的な違法取引を助長するほど問題の大きな市場との認識も、持たれていませんでした。 しかし、WWFジャパンの野生生物取引調査部門のトラフィックは、2017年12月20日に発表した、報告書『IVORY TOWERS:日本の象牙の取引と国内市場の評価』の中で、日本の国内象牙市場が、近年、中国に向けた「違法輸出」の温床となっていることを指摘。 東京、大阪、京都の骨董市や観光エリアで実施した調査では、実に73%の販売者が象牙製品の海外への持ち出しは「構わない」と回答したほか、3都市のすべてで、外国人客やバイヤーによる象牙製品の購入が横行していることも明らかになりました。 このほか、オークションハウスやインターネットオークション、個人所有の象牙を買い取る古物・骨董買取業者の一部からも、中国に向けて象牙が違法に流出していたことが示されています。

日中間での象牙の違法取引摘発例

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日本でも直ちに強固な対策を

こうした経路で日本から違法に輸出された象牙は、押収が報告されたものだけでも、2011年から2016年の6年間に2.4トンを超え、中には、組織犯罪が関わる大規模な密輸が中国側で摘発された例もあります。 そして、その95%が、まさに中国を仕向け地としたものであることが、ワシントン条約に集積される象牙押収データ(ETIS:ゾウ取引情報システム)を分析した結果明らかになっています。 最大の問題は、横行する違法輸出に対し、日本の国内市場はほぼ無規制な状況にあるという点です。 さらに、これまで日本側で違法輸出がほとんど阻止できていないことも、押収データの分析から分かっています。 こうした状況が直ちに改善されなければ、日本は、違法な象牙の供給源となり続け、今後の中国の市場閉鎖の実行も阻害するおそれがあります。 中国における市場閉鎖の実施を成功させることが、アフリカゾウの保全に向けた一つの鍵になると考えているWWFとトラフィックでは、一連の調査の結果を受け、日本の国内市場は、ワシントン条約で「市場閉鎖」が勧告される国内市場に該当すると判断。 2018年1月には、日本政府に対して、違法輸出の阻止をはじめとする緊急な対策を求める要望書を提出する予定です。 これまで、日本の国内市場が「厳格に管理されている」と評価してきた日本政府に、柔軟な政策の転換と、厳しい取り締まりのための制作の実行が強く求められます。

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