AAR Japan[難民を助ける会]はアフガニスタンにおいて、地雷被害者を含む障がい者支援を実施しています。事業地の一つであるパルワーン県、チャリカール市にある公立学校、サディキ校とサヤラン校で障がい児一人ひとりのニーズに対応するため、2017年11月、補習クラスプログラムを開講しました。開講に至るまでの先生たちの研修の様子や、開講後の授業の様子などを報告します。
障がい児のための補習クラスを開講
アフガニスタンの教育省は、インクルーシブ教育を促進するべく、「Inclusive & Child-Friendly School(インクルーシブで子どもに優しい学校)」作りを2020年までの国家教育戦略として掲げています。しかし、現状は体制の整備、教員の能力強化、地域社会のインクルーシブ教育(障がいの有無や、人種や言語の違いなどにかかわらず、すべての子どもたちがそれぞれの能力やニーズに合わせて受けられる教育)に対する理解促進など多くの課題が残っています。AARは2016年2月からサディキ校とサヤラン校において、教師主体の校内委員会の活動を始めました。委員会では、教師たちが自主的に定期会合を開き、障がい児の学校での生活状況や改善点について話し合っています。また、同時に周辺地域から学校に通っていない障がい児の情報を収集し、新たな障がい児の受け入れを行う活動も行っています。現在、両校では79名(サデキ校56名、サヤラン校23名)の障がい児が通学しています。
そして2017年11月、障がい児一人ひとりのニーズにさらに応えるため、補習クラスプログラムを立ち上げました。両校では視覚と聴覚に障がいのある児童が多いことから、放課後の空き教室を利用してそれぞれが持つ障がいに合わせて、点字と手話の学習のほか、グループワークで障がい者の権利などについて学び 、普段の授業にはない内容を学べる機会を提供しています。手話の補習クラスではアルファベットを習得し、簡単な日常会話を覚え、点字のクラスではアルファベットの読み方や点字の打ち方に加え、点字機の使い方を学びます。補習クラスは参加希望者のみに対して行い、現在サデキ校で14名(聴覚障がい児6名、視覚障がい児8名)、サヤラン校で23名(聴覚障がい児10名、視覚障がい児13名)の計37名が参加しています。
手話を学ぶ子どもたち(2017年11月6日)
手話や点字に初めて触れる教師たち
補習クラスを開講するにあたり、両校の校内委員会の中から補習授業の責任者を各校6名ずつ選出し、手話か点字いずれかの担当教師として任命しました。選抜された教師たちは、AARが現地団体と協力して実施した手話・点字研修に参加し、約1ヵ月間集中的に担当教科の基礎的な知識と技能取得に励みました。研修を受講した教師たちは、全員手話と点字に触れることが初めてであり、すべてが一からの出発となりました。それでも、自分たちの手で新たな試みを成功させたいという気持ちで、懸命に研修に取り組んでいました。点字の研修に参加した教師の一人でサヤラン校のティナ先生(女性)は「当校はインクルーシブ教育を推進していますが、このような技術的な研修を受けるのは初めてで、素晴らしい経験ができました。研修を受けて、補習クラス開講準備を進めるなかで、教材や機材が不足しているなど解決しなくてはいけない問題が多くありました。しかし、それら一つひとつをほかの教師たちと解決方法を考えて、自分たちでクラスを作り上げていくことの楽しさも知りました。私は研修で身に着けた点字のスキルをさらに磨き、障がい児に教えることで、学校全体の障がいに対する理解がより深まり、地域全体の意識を変えるきっかけとなればうれしいです」と語ってくれました。
ボールを穴にはめて大きい点字を作る教材を使って、点字のアルファベットを教えています(2017年11月9日)
教師向けの研修では点字を打つ練習も行います(2017年8月6日)
日本のインクルーシブの現場を視察
2017年9月、AARアフガニスタン・カブール事務所のインクルーシブ教育活動担当スタッフ2名が来日し、日本の障がい者支援がどのように行われているかを視察しました。インクルーシブ教育を実践している学校や、視覚・聴覚障がい児のための特別支援学校などの教育現場や、職業訓練とレクリエーションを通じて障がい者と非障がい者が交流できる機会を提供するNPO法人を訪問し、社会生活の中での障がい者支援を多角的に学びました。AARカブール事務所のヤマ・ハカミは研修を振り返り、「研修を通じて、自分の考え方が変わる発見がありました。今回訪れた施設では、障がい者をサポートする最先端の器具を使うのではなく、既存の器具をいかに障がい者が使いやすくするかを考えながら授業や支援を行っていました。障がいとは社会や周りの人々が作りあげてしまった考え方であり、アフガニスタンのような高度な技術がない国でも、アイディア1つで環境や人々の考え方に変化をもたらすことができることを学びました。AARが支援する2校が抱えている課題をいかに引き出すかを専門家の指導のもとワークショップ形式で学ぶことができ、大変実になる研修でした」と話してくれました。
日本での研修に参加したスタッフは帰国後に、2校の校長先生や補習クラスプログラムの責任者を集めて研修の報告会を開き、学校が障がい児支援の側面で抱えている課題と、補習クラスプログラムが今後どのように課題解決に寄与できるかについて話し合いました。その結果、両校は「学校に通う障がい児の就学数を増やし、児童が継続して学校に通えるように、児童一人ひとりのニーズに応える 」という目標を掲げ、普段の学校生活だけでは対応できない障がい児への学習サポートや余暇活動を通じ、障がい児の学校生活を改善することを決定しました。こうして補習クラスプログラムが立ち上がりました。
障がい者支援を行うNPO法人ぱれっとを訪問したAARカブール事務所のヤマ・ハカミ(後列左から2人目)。後列左はAARパキスタン事務所の平山泰弘(2017年9月22日)
「これからも点字を学んでいきたい」
補習クラスでは、現在、手話と点字の授業をそれぞれ週に2回行っています。点字クラスに参加している児童たちは点字でアルファベットを読めるようになり、手話クラスに参加している児童たちも数字やアルファベットを手話で表現できるようになりました。 周囲の児童たちや保護者からの補習クラスへの関心もとても高く、現在は視覚・聴覚障がいのある児童のみが参加していますが、非障がい児やその他の障がいのある児童など、25名の児童が今年3月から始まる新学期からの参加を希望しています。補習クラスで点字を学習している障がい児の一人のフーマちゃん(8歳、女の子)は、「これからも点字のことについて学んでいきたいです。お父さんも私が補習クラスに通うようになって、勉強を応援してくれるようになったので、これからも勉強を頑張ろうと思います」と話してくれました。
生徒や保護者からの反響だけでなく、パルワーン県の教育局からも、この活動に対して非常に期待しているというコメントもいただきました。インクルーシブ教育の導入も補習クラスの開講も、保守的な慣習が根強く残るアフガニスタンでは画期的でもありますが、同時に困難な試みでもあります。しかし、児童の学習環境を良くしたいという教師たちの強い気持ちがあるからこそ補習クラスを開講することができました。AARでは、今後も対象校でのインクルーシブ教育活動とその発展に尽くしていき、このような試みが今後その他の周辺校へも普及できるように活動していきます。
この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】
パキスタン事務所 平山 泰弘
2016年7月よりパキスタン事務所に駐在し、アフガニスタン事業を担当。アメリカの大学で平和構築学を学んだ後、青年海外協力隊に参加。東ティモールで障がい者支援に携わり、帰国後AARへ。千葉県出身