2018年に一大ブームを巻き起こした『カメラを止めるな!』のクリエイター陣が再結集した新作映画が、8月16日(金)に全国公開される。タイトルは『イソップの思うツボ』。『カメ止め』で監督を務めた上田慎一郎さん、助監督の中泉裕矢さん、スチール写真を担当した浅沼直也さんの3人が、共同で監督・脚本を手がけた。
新たに送り出す新作も、「ネタバレ厳禁」で「どんでん返し」ありのエンターテインメントだ。3人の監督に、公開を迎えた心境を聞いた。
3つの家族が織りなす”復讐劇”
『イソップの思うツボ』で描かれるのは、3人のヒロインとその家族が織りなす”復讐劇”だ。
内気な女子大学生の亀田美羽、タレント一家の一人娘・兎草早織、そして「復讐代行屋」として父親と貧しい暮らしを送る少女・戌井小柚を主人公に、二転三転する物語を描く。
監督・脚本を“3人体制”で作り上げた異色作だが、中泉監督が亀田家、上田監督が兎草家、浅沼監督が戌井家と役割分担をして撮影を進めたという。
後半では3つの家族が集結するが、現場も常に3人体制。メイン監督に助監督が2人就くという体制で、脚本も都度話し合いながら完成させたという。
一つの作品を作り上げていくまで、「全員がこれだなと一致してスムーズに決まるようなことはなかった」と3人は振り返る。
「3人体制だったので、多数決で決めていく、ということもできたんですけど、結局二択にはできないんですよね。どうしても一人が強く反対した場合は、その意見を少しでも取り入れて違う道筋を探してみるとか...マルかバツかではなくて、反対する意見にも寄り添って、話し合いながら正解を探してそこに近づいていったような気がします」(中泉監督)
『イソップの思うツボ』は、「家族の再生」の物語
本作では、いびつなバランスで成り立っている3つの「家族」が描かれる。
『カメラを止めるな!』では、主人公の映像監督・日暮が娘との絆を取り戻していく姿が描かれたが、一転して、『イソップの思うツボ』では家族の絆の脆さや「崩壊」も描かれる。
その過程は『カメ止め』よりもシビアで、人によっては後味の悪さも感じるかもしれない。
「観る方のとらえ方によると思うんですが...。この作品自体はポップなエンターテインメント作品に仕上がっているんですが、作品の中で起きていることは結構ヘビーで。だからこそ、この内容で『カメ止め』のようにハッピーエンドに持っていってしまったら、すごく欺瞞的、偽善的になってしまうんじゃないかという思いはありました」(上田監督)
上田監督はそう話す。一方で中泉監督は、「これは家族の再生の話でもある」と話す。
「読後感は大事だとは思うんですが、僕はこの終わり方がいいと思っています。今回は3人体制で作り上げた作品なので、僕1人ではできなかったことをやりたかったし、やれたと思っています」
3人の家族観も話し合った
監督3人の初対面は2012年。
埼玉県・川口市で行われている「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」で初めて顔を合わせ、2015年にオムニバス映画『4/猫 ねこぶんのよん』を競作したことで「マブダチ」に。そこから交流を深め、本作の構想に至ったという。
浅沼監督は3人の関係について、「映画を通じて出会った一つのファミリー」のようだと話す。
「この作品を通してたくさんの時間を共有しましたし、お互いの価値観も共有しました。家族のかたちはどういうものが理想なのかとか、それぞれの家族観を踏み込んで話し合いながら作っていって。『仲間』や『家族』というほど近い関係かはわかりませんが、お互いの考えを理解しあった、一緒に映画を作りあげた『戦友』みたいな部分はあるのかなと思います」(浅沼監督)
一方で中泉監督は、3人の関係については「結婚式に呼ばれたらギリギリ行くような間柄。同じ船に乗った乗組員みたいな感じですかね」と飄々とした様子。
上田監督は、「会社で何かプロジェクトを一緒にやるというくらいの距離感で、同僚みたいな感じかもしれないですね」とあっけらかんとしていた。この三者三様の絶妙な距離感が作品づくりにも生きたようだ。
『カメラを止めるな!』から約1年。新作公開を控えて、あの熱狂がプレッシャーになっているのではーー。そう聞くと、「3人の監督だからプレッシャーも三分の一です」と率直な心境を打ち明けてくれた。
「3人監督がいると、心強いというのもあるんです。1人の監督作じゃない、3人で作った作品なので。プレッシャーも三分割できているところもある気がします。3人の監督作なので、『カメラを止めるな!』とはまったく別物だと思っています」(上田監督)
これからの映画界を担っていく監督たちの、新たな挑戦に期待したい。
【作品情報】
「イソップの思うツボ」
8月16日(金)全国ロードショー
配給:アスミック・エース