下着ブランドのカタログやサイトを眺めると、そこにはスリムなモデルが並んでる。「この下着を付けたら私もこんな風になれるかも」なんて、自分勝手な希望を胸に購入ボタンを押している人も少なくはないはずだ。
でも、実物が届き浮かれながら試着すると、新しいものに包まれる喜びと共に「なにか違う」と小さな悲しみが顔を出すこともあるはず。
自分の身体に対するネガティブな気持ちは、下着選びから生まれているのかもしれない。
アメリカで今、多くの女性たちから共感を得ている下着ブランドがある。
アパレルメーカー、American Eagle Outfitters(アメリカンイーグル アウトフィッターズ)が展開する「aerie(エアリー)」だ。
2006年に誕生したエアリーは、着心地の良さやレースを施したかわいいデザインが特徴で、アメリカとカナダに109店舗を構えている。日本では、東急プラザ表参道原宿などにあるアメリカンイーグル アウトフィッターズの店舗内やオンラインストアで展開中だ。
2014年、エアリーは広告写真を一切修正しないことを宣言した。モデルたちのシワやたるみ、傷やそばかす、ホクロなどは消さずに、そのまま映しだすことを決めたのだ。
また、ファッション業界の第一線で活躍するような「スーパーモデル」も起用しない。
過去にはモデルのサイズを統一していたが、今はあらゆる体型をした女性たちを起用している。
▼2014年以前は、こんなイメージだったエアリーが...
▼現在はこう。
「2014年から『aerie REAL』というコンセプトを掲げて、そのままの自分、ナチュラル・ビューティーを大切にしようというメッセージを提唱するようになりました」
「起用しているモデルさんは、いわゆる"スーパーモデル"のようなすごく細い人たちばかりではなくて、見た目もバックグランドも多様なモデルさんを選んでいます。そもそも、お客さまがそういう方たちばかりではない。『今のままでいいんだよ、そのままで美しいんだよ』というメッセージを伝えたいと思っています」
そう話すのは、日本でエアリーの広報を担当する株式会社イーグルリテイリングの小堀寛子さんだ。
部屋の中でも外でもずっと着ていられるように、着心地の良さにもこだわっているという。ワイヤーを使わない「ブラレット」シリーズは、体を締め付けず、1日中着ていても窮屈にならないほど着心地がいい。
「日本の下着市場は、『胸をあげて、寄せて、盛る』が主流です。エアリーにはリラックスして着られるような商品が多いので、日本の主力の下着市場とは少し違うコンセプトですね。ただ、ブラレットは日本のお客様からすごく好評で、人気商品になってきています」
「実はこういうブランドを求めているお客様は多かったのでは、と思っています。今までも、着心地がいい、着ていて"楽"な下着ブランドはあったと思うんですが、ここまでデザインがかわいらしくて、種類が豊富なブランドはそんなにないので...」
エアリーの軸となっている、「aerie REAL」というコンセプト。一人ひとりの個性を賞賛することを大切にしており、ブランドのアイデンティティーとして、以下のメッセージを掲げている。
ナチュラルだけどセクシー、等身大でキラキラしている、キュート、クリエイティブ、自分を持っている、自分自身が好き、魅力的、ユーモアがある
近年は、画一的な「美の基準」を解放し、見た目の多様性やありのままの美しさを奨励する「ボディポジティブ」のムーブメントが広がっている。
エアリーが多くの女性から支持を集めるのは、ブランドが発信しているメッセージがその風潮と合致したからだろう。
また、同時にブランドが打ち出さないイメージについても、「isn't(エアリーではないもの)」として言語化している。
過剰なセクシーさ、スーパーモデル、見せかけ、ありふれた存在、非現実的、自意識過剰、近寄りがたい存在、極端に真面目
エアリーが掲げるこのメッセージは、ヴィクトリアズ・シークレットと対極にある。
かつて「女性の憧れ」の代名詞のように扱われた、アメリカ生まれのランジェリーブランドだ。
ヴィクトリアズ・シークレットは、一貫して「セクシー路線」をつらぬいてる。2つのブランドのオンラインストアを比べて見ると、その違いは明白だ。
▼ヴィクトリアズ・シークレットの「ブラ」のページ
▼エアリーの「ブラ」のページ
ヴィクトリアズ・シークレットのモデルたちはみな細く、胸の谷間も強調されている。モデルたちの髪型や雰囲気も似ており、「美しさの基準」が統一されているように見える。ポーズはもちろん「モデル立ち」だし、表情はクールでかっこいい。
一方で、エアリーは多様だ。さまざまな肌の色、髪の色、体型...。家でのんびりしている時間を切り取っているかのように、モデルたちはリラックスしていて、笑顔の写真が多い。
「ヴィクトリアズ・シークレットには、夢のような世界が広がっていますよね。もちろんその世界観もあっていいと思うのですが、エアリーはもっと女性たちのリアルな姿を投影して、そのままの美しさを表現できるブランドでいたいと思っています」
小堀さんはそう話す。
「エンジェルズ」と呼ばれるモデルたちが一斉に集う年一度のファッション・ショーは、まさしくヴィクトリアズ・シークレットの「夢の世界」を体現したような空間だ。
ビッグアーティストが登場し、抜群のプロポーションを持つトップモデルたちが煌びやかなランジェリーをまとってランウェイを歩く。豪華絢爛で、華やかで、「完璧」な世界が広がる。
しかし、今や多くの女性たちがその「夢のような世界」に飽きてしまい、疲れてしまっているかのように見える。アメリカ国内では、一般人による「アンチ・ヴィクトリアズ・シークレット」のファッションショーが開催されたこともある。
ヴィクトリアズ・シークレットのモデルたちの「完璧すぎるカラダ」は非現実的だ。そのイメージは時として女性たちにプレッシャーを与え、無理を強い続けてきた。
かつての「女の子の憧れ」が、もはや「時代遅れ」であることを示すかのように、年商70億ドル(約7800億円)のヴィクトリアズ・シークレットは伸び悩みが指摘されている。アメリカ国内下着市場のうち、同ブランドのシェアは30〜45%と圧倒的だが、エアリーなどの新しいブランドが売り上げを伸ばしている。
エアリーの2017年の年間売上高は5億ドル(約550億円)に達し、2018年第1四半期の売上高は前年同期比で38%増加した。
一部では、MeToo運動などもエアリーの躍進を後押ししている、との見方もある。
性的暴行やセクハラ被害について語り始める人が増えるなか、ヴィクトリアズ・シークレットの広告は「男性目線を意識しすぎているのではないか」「修正や加工をしすぎ」などしばしば批判を浴びるためだ。
しわがあってもいいし、お腹がへこんでいなくてもいい。谷間がなくたっていい。無理しなくていい。わたしはそのままの姿で美しい。
誰かのための「美しさ」なんて取り払って、ありのままを愛して、自分を生きよう。
エアリーにはこんなメッセージが溢れてる。だからこそ、今、これ以上無理をしたくない女性たちの共感を多く呼んでいるのだろう。
ハフポスト日本版では、「女性のカラダについてもっとオープンに話せる社会になって欲しい」という思いから、『Ladies Be Open』を立ち上げました。
女性のカラダはデリケートで、一人ひとりがみんな違う。だからこそ、その声を形にしたい。そして、みんなが話しやすい空気や会話できる場所を創っていきたいと思っています。
みなさんの「女性のカラダ」に関する体験や思いを聞かせてください。 ハッシュタグ #ladiesbeopen#もっと話そうカラダのこと も用意しました。 メールもお待ちしています。⇒ladiesbeopen@huffingtonpost.jp