毎年恒例となった、年末のネット流行語大賞。
2018年、1位に選ばれた言葉は「バーチャルYouTuber/VTuber」だった。
「バーチャルYouTuber」とは、YouTubeで動画配信を行う架空のキャラクターのこと。架空を表す「バーチャル」と「YouTuber」が合わさった言葉。
中でも人気を博しているのが、ピンクのリボンが特徴的な「キズナアイ」だ。
キズナアイは2016年12月から活動を開始しており、YouTubeチャンネルの登録者数は230万(12月27日現在)を誇る。
一方、テレビ局のウェブサイト上での企画に出演したキズナアイに対して、「性的に強調された表現であり、女性蔑視だ」という意見がインターネット上に投稿され、話題になった。
バーチャルYouTuberにとって、良くも悪くも注目を集めた2018年。
当事者はバーチャルYouTuberを取り巻く現状をどのように捉えているのだろうか?
キズナアイらバーチャルYouTuberを支援するプロジェクト『upd8』を運営するActiv8株式会社の代表取締役・大坂武史さんが、業界の展望と「バーチャル」の可能性をハフポスト日本版に語った。
■テレビに出て、リーチする層が変わった
--2018年のネット流行語大賞にもなった「バーチャルYouTuber」。何がきっかけだったのでしょうか?
バーチャルYouTuber自体は、ビジネスではなく、作り手の自己表現したいという思いから始まりました。しかし、このようなクリエイターに押し上げられるような形で企業も参入してきたのが2018年だったと思います。
ゲームやアニメ業界は、技術的にも親和性が高い。そうした業界からの期待も混ざって大きなムーブメントになりました。
前年まで100に満たなかったバーチャルYouTuberが、2018年には5000を超えたと思います。
--Activ8社としては2018年はどのような1年でしたか?
そうですね、Activ8としては、テレビに出たことが一番のトピックでした。
バーチャルYouTuberの特集で取り上げられたりしたのですが、今まで全くリーチできていなかった人々から様々な反応がありました。この業界だけでなく、一般にも影響が出てくる段階に来ているのだなと感じました。
--「様々な反応」の中にはネガティブな意見も含まれていたと思います。
ポジティブな内容もネガティブな内容も両方ありました。
批判的な声に関しては、有名になることで「見られ方が変わったのだ」と気づかされましたね。
キズナアイは今年、YouTubeを超えて一般層にリーチするために積極的にテレビ出演をしていました。
しかし、実際に出演してみると、キズナアイも我々も「タレントであること」に対して無知だったと思い知らされました。
■「バーチャルだからこそ」できること
--今までの「キャラクター」とキズナアイは何が異なるのでしょうか?
通常の「キャラクター」なら、基本的にはクリエイティブが決まっていて、それを理解できる人たちが見てくれています。
でも、キズナアイは、服装や言葉遣いを変えることができる、バーチャルな「タレント」なんです。
2018年は活躍の場を広げたことで、バーチャルYouTuberからバーチャルタレントへとフェーズが一段上がることができたとも考えています。
--今後、バーチャルタレントはどのように展開する予定ですか?
バーチャルタレントならではの露出が増えると思います。
--「バーチャルタレントならでは」とは?
キズナアイは今年、アニメで声優として演じたりテレビ出演をしました。
今後は、例えばですが、キズナアイが登場人物として他のアニメに出演することもあると思います。役者のような立場ですね。
--見た目はキズナアイだけれど、衣装などを変えて他のアニメに出るということですか?
そうです。
俳優さんは役作りでメイクや体型を変えるじゃないですか。それと全く同じです。
キズナアイに役が与えられて、アニメに出て、演じるんです。
物理的な肉体なのかバーチャルの肉体なのかの違いだけですね。
逆に既存コンテンツからバーチャルタレントにスピンアウトして、別のアニメに出演することもあり得ると思います。これが「デジタルならでは」ですね。
■「バーチャル」だからこそ、リアルになれる
ーー他にもバーチャルタレントの独自性はありますか?
バーチャルタレントならではのもうひとつの要素は視聴者とインタラクティブなやり取りができるということ。
最近、ライブ配信などで視聴者から「投げ銭」を出演者に送るシステムがありますね。あれは、配信者にウェブ上でプレゼントをして、そのプレゼントに応じて配信者にお金が支払われる仕組みなんです。
ウェブ上のプレゼントなのでそれは画像などに置き換えられて表現されていますが、贈った「物」自体は生身の人間に届く時には、お金に変わってなにも無くなっちゃうんですよ。
でも、バーチャルタレントだと、バーチャル上でプレゼントを「消費」することができるんです。
--バーチャル上で「消費」するんですか?
バーチャルタレントに「投げ銭」として食べ物を贈ったら、バーチャル上で食べることができるし、お花やメガネを贈ったら、飾ることも身につけることもできるんです。
他にも、現実の音楽ライブでは無理ですけれど、VRのライブでは観客が花火をあげたり物を投げたりして一緒に盛り上がることができるんです。
リアルの制約を超えられることがデジタルならではの価値ですね。
■「VR空間は現実社会の"しがらみ"をゼロにする」
--大坂さんは、どうしてバーチャルタレントやVR領域に関心を持ったのですか?
Activ8社のミッションは「生きる世界の選択肢を増やす」というものです。
人間には、生まれた場所や肉体など変えることができないものがあります。
でも、VRの世界が発展すれば、制約を超えて「ありたい自分」を作ることができるんです。
自由になれると思うんですよね。
そういう世界が早く来ればいいなと思っています。
--なぜ、「選択肢を増やしたい」と思ったのでしょうか?
私は生まれが秋田の田舎です。
大学から東京に出てきたとき、圧倒的な情報量の差に驚き、田舎はやっぱり選択肢が限られているなと感じていました。
また、就職活動のタイミングがリーマンショック直後で、募集さえ無い会社も多く、就職先の選択肢も非常に限られていました。
こういった経験から、個人の努力はもちろん重要だけれど、最初から選択肢が無い社会は嫌だなと思っています。
--VRによって選択肢を増やすことができますか?
現実社会では、物理的な制約や積み重ねてきた歴史など、絶対に変えられないものもあります。
VRでは、もしかすると、現実社会の様々なしがらみをゼロにして新しくフラットな空間を作ることができるかもしれません。
少なくとも肉体的な見た目については、自分の好きなように作ることができますからね。
選択肢を増やすことで、「こうでなければならない」という制約がひとつでも減って、皆が自由になれればいいなと思っています。
縛られているものを解き放ちたいんです。
--そのようなVR空間を実現させるためには何が必要でしょうか?
「キラーコンテンツ」が重要だと思います。
VRの世界を加速させるためには、「VRならでは」のコンテンツが必要です。
今は、それが「バーチャルタレント」だと思って、事業に取り組んでいます。
人類がVRによって自由を得られる社会が、より早く訪れたらいいなと思っています。