女友達に泣かれて途方にくれた私に「答え」をくれたのは、一冊の本でした。

予定調和より「偶然の出会い」がほしい。正解より「さまよう時間」がほしい。

「長野さん、今度は本をつくろうと思います」。

編集主幹をつとめるネットニュースサイト「ハフポスト日本版」がこのたび「ハフポストブックス」という書籍レーベルを立ち上げました

ええー、紙媒体!?売れるの? 大丈夫?

最初は心配もしたけれど、個人的には「本」が大好きなので、嬉しい知らせでもありました。成熟してきたインターネットの“閉塞感”を、新たなテクノロジーで解決するのではなく、一周まわって「本」という既存メディアに立ち戻り、コンテンツの力で打破しようとする姿勢が、ある意味「新しい」なと。

自分が「興味ない」ものに、あえて触れる。

私は週に一回は本屋に通うようにしています。身の回りのあらゆることを、スマホで調べるようになった時代、もちろん話題の本をネット検索して購入もしますが、あえて本屋で「さまよう」ことを大切にしています。

休日には夫とお気に入りの大型書店に行って、「2時間後にここに集合ね」と言って別れて、マイペースに本を漁ることもあります。

私が本屋に求めるもの。それは、あえて自分からは「検索しない」情報、平たく言ってしまえば、特に関心をもっていなかった情報と出会う機会をもつことです。

ネット全盛のこの時代、アグリゲーションで自分の関心あるものはいくらでもポップアップしてくるけど、興味のないものに触れる環境ってむしろ少なくなっているような気がします。

キャスターという仕事柄もありますが、「偶然の出会い」をつくることは、自分の中に既にあった感情の原石みたいなものを、膨らませたり発展させていく上でとても大事。番組の企画に直結したりします。

昔、レコード屋さんで「ジャケ買い」した感覚と似ているかもしれない。誰も知らないようなアーティストでも、自分の直感でたぐり寄せた出会いが、生涯の一枚になることってありましたよね。

Rawf8 via Getty Images

一冊の本がくれた答え。

本にこだわるのは、私が「テレビの人間」だからかもしれません。テレビは「放送」という言葉の通り、情報を送りっぱなし。ニュースや流行りのタピオカ屋さん、オススメの行楽地など溢れるような情報を伝えて終わりです。

でも本は終わりじゃない。むしろ始まりみたいなところがある。

良い読書体験というのは、本から受け取ったものが自分の中で「探していた答え」に変化していくプロセスのようなものだと思うんです。

40代前半の頃、友人関係で悩んでいた頃に出会って「答えをくれた」と思える本がありました。

村上龍さんのエッセイ『ダメな女』です。

新卒でフジテレビのアナウンサーになって、「オレたちひょうきん族」に出演して以来、私の人生は長い間そのイメージに引きずられてきました。

若い頃は、はじめて会った人がすでに「ひょうきん族」の印象を私に持っているので、自己紹介をする前から笑われたり、テレビの中のキャラを期待されるんですよね。ふつうに振舞っていても「意外に暗いんですね」と言われたり。

本当の自分を見せてがっかりされるほうが怖くて、期待に応えようとして疲れるうちに、自然に仕事以外の交友関係では、人と距離をおくようになっていたんです。

当時、近しい女性数人で飲んでいた時に、つい、「私って親友いないんだよね…」と漏らしたことがありました。

そうしたら、隣に座っていた子が「私は親友だと思ってたのに」って泣き出しちゃって、すごく驚いた。自分のデリカシーのなさに落胆して落ち込みました。

そんな時、いつものように本屋をさまよっていて「ジャケ買い」したのが村上龍さんの『ダメな女』です。

この本を読んだ時、大げさでなく救われた気がしました。「友達」と「仲間」の定義づけを村上さんなりにされている本なのですが、「loneliness(ひとりぼっちで寂しい)」と「solitude(孤独という自由)」の違いをこの本によってはじめて認識させられた。

自分が「ダメ」だと思っていたことって、実はそれほど「ダメ」じゃないんだと気づかされたんです。この本との出会いで自分の性分ときちんと向き合うことができたんですよね。

「女、40代、人間関係、悩み」といった検索ワードでは見つからなかったかもしれない答えが、本屋さんという空間でもたらされた経験でした。

Amazon.co.jpより

タコツボ化したネットにはない、「さまよい」の時間を。

本屋でアテもなく、さまよう時間。この「さまよい感」こそ、今みんなが求めているものなのではないでしょうか。

ハフポストの編集主幹に就任した4年半前、ネットは速くて手軽でグローバルで、何てオープンな場所だろうと思いました。

でも、それほど時を空けずして「ネットってむしろ、自分の好きなものに埋没しそう」と感じるようになりました。

今、多くの人が、このネットの特性に絡め取られてタコツボ化した世界から脱出したいと思い始めているのではないか。

ネットメディアであるにも関わらず、ハフポストが「本」に目を向けたことが、私にはとても納得のできることだったんです。

家にいながらにして、地球の裏まで自分を連れて行ってくれるはずだったネットの世界に少し人々が疲弊している部分も見えてきた今、「曲がり角にきているのでは」と提議し、「新たな展開」を狙っていくハフポストの姿勢を応援していただけたら、こんなに嬉しいことはありません。

ちなみに竹下編集長による創刊本『内向的な人のためのスタンフォード流ピンポイント人脈術』を読んだら、意外に自分と似たもの同士だったことに驚きました(笑)。私たちのように人脈命な社会で働きながらも、実は人づきあいが苦手という皆さま、必読のお役立ちポイント満載です。

5月7日に創刊6周年を迎えたハフポスト日本版はこれからも様々なチャレンジをしていきます。ネットのみならず書店でもお目にかかれるのを楽しみにしております。引き続きよろしくお願いいたします。

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