スウェーデン南部の港町ヘルシンボリで発見されたクリスマスカードが、現地で話題になっている。1943年に、スウェーデン人の芸術家が反ナチズムをテーマに作成したもので、4人の天使がナチスの党章ハーケンクロイツをのこぎりで切断して、十字をつくろうとしている。上記に紹介するこのクリスマスカード、実はこの街の誇るべき歴史を象徴するものである。
■スウェーデンの小さな港町が果たした大きな役割
このクリスマスカードは、1943年にヘルシンボリの芸術家フーゴ・ゲーリンが友人や知りあいに送ったものだ。実はヘルシンボリの街の住民は第二次世界大戦において、ある大きな役割をはたしている。
スウェーデンは第二次世界大戦中、戦争には参加せず、公式には中立の立場をとっていたが、多くのスウェーデン人はナチズムに嫌悪感を抱いていたと言われる。そんな中1940年には隣国デンマークがドイツに占拠された。やがてデンマーク国内でもユダヤ系の人々の迫害が始まる。すると、スウェーデンの南西部に位置し、最もデンマークに近い街であるヘルシンボリでは、フーゴやユダヤ系でもある彼の妻を含む多くの住人が積極的にユダヤ人を受け入れ、より安全な地域へと逃れるための手助けをはじめた。フーゴの家には数週間にもわたって多くの難民がかくまわれていたこともある。一応、国は中立の立場にあったとはいえ、危険なことに変わりはないし、経済的な負担も大きかったが、彼らはやり通した。実際に彼らによって救われたユダヤ系デンマーク人は約8000人にも上るという。
■シンプルな言葉に込められた深い想い
やがて1943年2月にスターリングラード攻防戦でソ連軍が勝利を収めると、これを機にナチスドイツの勢いはしぼみ、連合国軍の勝利が見えてきた。この年の12月につくられたのが、冒頭に紹介したクリスマスカードだ。ナチズムの終焉を喜び、4人の天使がハーケンクロイツをのこぎりで切り落として十字をつくっているイラストが、木版画によって表現されている。上部には"Thank you for 1943"、下部には"Happy New Year"とシンプルな言葉が刻まれているが、フーゴやヘルシンボリが果たしてきたはたらきを考えると、深い想いが込められていることが分かる。
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(※この記事は、1月4日に掲載されたTHE NEW CLASSIC「8000人のユダヤ人を救った街―その誇るべき歴史を象徴する1枚のクリスマスカード」より転載しました)