【徳島県神山町】移住者が紡ぐ新しい動き、3Dプリンターで「デジタル世界の泥遊び」を

東京から徳島県神山町に移住した寺田天志さんは、地元の小学校の5年生を対象に、フリスビーと3Dモデリング、3Dプリンターを活用したワークショップを開催した。

■最新のものづくりを学び、すぐに成功体験を

「いずれは、3Dプリンターとフリスビーを使ったワークショップを開催したい」

東京から徳島県神山町に移住した寺田天志さんは、2014年の移住当時にこう話していた。寺田さんから「実際に開催した」という連絡をもらった。神山町役場がYoutubeに公開している。

ワークショップは、神山町にある神領小学校の5年生を対象に、フリスビーと3Dモデリング、3Dプリンターを活用して、3日間(2015年12月8日、17日、2016年1月29日)開催された。初日の授業は、まずフリスビーで遊んでみること。

動画では、子どもたちがフリスビーの投げ方を試行錯誤しながら、楽しむ様子が見れる(ちなみに、寺田さんはフリースタイルフリスビープレイヤーでもある)。

2日目には、3Dモデリングの基礎知識を学ぶ。基礎知識を学んだ上で、自分なりの工夫を加えたフリスビーを3Dプリンターで実際に出力するのだ。

3Dモデリングしたフリスビーを3Dプリンターで出力する様子 出典:神山町役場

最終日は、出力したフリスビーを使って遊ぶ。寺田さんは「フリスビーで体を動かした後に座学の授業に移るため、生徒の積極性がとても上がる」と語る。

モデリング→3Dプリンターで出力→自分で作ったフリスビーで遊ぶといった一連の流れを通して、最新のものづくりを学び、すぐに成功体験が得られることが同ワークショップの狙いにある。

「小学生の段階は、頭より身体で空間把握やイメージ力、体感覚を鍛える時期のため、頭で考えるより身体で感じることのほうが重要だと考えている」(寺田さん)

■寺田さんはなぜ神山町に移住したのか

寺田さんは、フリーのデジタルカーモデラーだ。メディアを通じて神山町の存在を知り、「田舎にいながら仕事ができるのは楽しそう」と思ったのが移住のきっかけという。

実際に神山町に訪問し、現地のNPO法人グリーンバレー理事長の大南信也さんの講演を聞くと、移住への思いがさらに高まった。再度、神山町に訪問したところ、友人の紹介で「神山町のお父さん」と呼ばれている岩丸潔さんと出会い、その日に急きょ飲み会が開催さた。大いに盛り上がった次の日、寺田さんは物件を決めた。移住を決断したのだ。

「神山に住む人々が良いと思った。少しアウトローな感じがして、面白いことをしたいと思っている人が地方にいることに価値がある。出身は東京だけど、田舎に抵抗はなかった。町の人たちと打ち解けるまで時間がかかるかもしれないけれど、そもそも『自分はアウェイ』という覚悟で入ってきたので、町のためにできることをやり続けることが大事かなと。将来的には、子どもたちと3Dモデリングと3Dプリンタの技術を使った、ものづくりのワークショップを開催したい」(2014年移住当時の寺田さん)

(※神山町が、地方創生で注目を集める理由については、2014年訪問したときに、ITmediaエンタープライズにまとめているので、こちらを参照していただけたら幸いです)

寺田さんが住む古民家物件。家賃は1万円という

■「デジタルに遊ばれている印象があった」

寺田さんは、今回のワークショップを企画したきっかけを、「東京の公園で、大勢の子供たちが下を向いてゲームをするのを見たこと」と語る。

ネットワーク内のチャットで会話をしているのか、コミュニケーションが全く見られなかった。もちろん、見た場面が悪かっただけで、体を動かしたり、会話をしたりして遊んでいるだろう。しかし、何となく"デジタルに遊ばれている"という印象を受けたという。

「もっと能動的に遊ぶというか、遊びは自分で創り出すものということを、逆にそのデジタル技術を操って、体を使った遊びができるのではないかと思った」(寺田さん)

神領小学校でのワークショップの反応は、想像した以上だった。担任の先生を始め、教頭先生や校長先生も参加し、一緒になって楽しんだ。

動画を見ても、フリスビーの投げ方に試行錯誤しながら楽しむ様子や、真剣な眼差しで3Dモデリングに挑戦する子ども達の様子が見られる。卒業文集では、「意外とかん単、3Dプリンター」という内容で、ワークショップの感想を書く子もいたそうだ。

ワークショップに参加した小学生の感想文 出典:神領小学校

「3Dプリンターの普及で、自分が作りたいもの、遊ぶものを作るのに、3Dモデリングがベースの技術になる」と寺田さんは考える。モノがない頃の日本は、子ども達が自主的にどうやったら遊べるかを考え、木を削ったり、泥を使ったりと自由に発想してモノを作って遊んでいたイメージがある。

「今は、ルールが決められた遊びが多い。自由に発想して遊べる"デジタル世界の泥遊び"のような形で、モデリング技術を教えられたらと思っている」(寺田さん)

■「本業では味わえない直接的な喜び」

フリスビーと3Dモデリング、3Dプリンターを活用したワークショップは、小学5年生を対象に毎年夏に行われる。

ワークショップ以外にも、間伐材の問題を題材にして、レーザーカッターの使い方を学び、実際に商品を作り出す授業を神領小学校の先生と展開予定である。

授業では、5年生のときに間伐体験をし、伐採した木を約1年間乾燥させて製材する流れを学ぶ。

神山城西高校の生徒には、レーザーカッターの技術を教えているため、高校生が小学生に教えるといった連携を組むという。完成した商品を神山城西高校のバザーや道の駅などで販売まで行うことで、杉材の有効利用と経済を学ぶことが狙いだ。

寺田天志さん 出典:神山町役場

最後に「なぜ、本業もある中でそんなに頑張れるのか」と寺田さんに聞いてみた。

「頑張ってる感じではなく、楽しいからやっている部分が大きい。今まで培ってきた技術が、教育を通して子供や先生、地元の方々に喜ばれたり、楽しんでもらっていると感じられる。それは、本業で味わえない直接的な喜びになる。また、1番重要なのは、神山町の先生や教育委員会の方々に気概があり、そのおかげで新しい取り組みができている。理解をして頂いてることに本当に感謝している。それらを糧に、また新しい取り組みに挑戦していきたい」(寺田さん)

(この記事は、挑戦する人を応援するブログ「Wanderer」の記事を編集して転載しました)