社会活動はこんなにもファンキーだ!面白法人カヤックの社長が生み出す、新しい資本主義のかたちってなに?ソーシャル数珠つなぎ《2030 SDGsで変える》
writer
秋山訓子 朝日新聞編集委員
私はもともと政治記者です。永田町や霞が関を回る、いわゆる政治取材をしていてがっかりすることが多くありました。そんなときNPOやソーシャルビジネスを取材したのです。
社会がこんなふうになるといいなと考えて活動する人たちです。その様子を見て、これもまた政治だと思うようになったのです。
政治とはもっと幅広いもので、社会的なこと、社会との変革を考えて実践すること=ソーシャルなこと、もその一つだと。世の中の移り変わりを見ていて、その思いは強くなるばかりです。
この記事は...、ソーシャルなことをしている人に、何をしているのか、なぜしているのかを聞きます。その人が「面白い!」と思う人を紹介してもらい、次に会いに行きます。
そう、いわば数珠つなぎです。トップバッターとして登場してもらうのは、会社経営者の柳澤大輔さん。上場企業の創業者・経営者でありつつ、地元鎌倉のまちづくりの活動をはじめて4年になります。面白い人に会う記事なので、「面白い」を追っている人にまず会わなきゃと思ったのでした。
お話を聞いた人
柳沢大輔(やなさわ・だいすけ)さん
ウェブ企画会社・面白法人カヤック社長。1974年生まれ。98年に友人3人と会社設立。2013年に鎌倉を拠点にする企業で「カマコンバレー」を設立。今は「カマコン」としていろいろなまちづくりの活動を行う。
面白いことが好きだから、面白い会社を設立
小学校くらいから、何となく自分で何かをつくりたいなと思っていました。企画したり、考えたりするのが得意だったんです。高校の同級生で気の合ったやつに「一緒に何かやろう」と声をかけ、2人だと仲間割れをすると困るから、もう1人、大学の時に見つけて3人でやることにしました。
といっても、親友や遊び仲間というわけではないんです。ものづくりが好きでクリエイティブなことへのリスペクトがある、人を見る目が一緒=だから派閥をつくらない、そして自分のことだけを言わず、信念、美学があって志を持てる人。そんな仲間です。
大企業に就職したけど2年でやめて、まず会社をつくって3人の頭文字から名前をつけ、それから何をやるか考えました。面白いことが好きだったから、「世の中を面白くすることに貢献したい」と思ってやってきました。
サイコロを振って付加給を決めたり、人事で360度評価をしたり、いろんな試みをしてきました。世間にいろんな働き方、多様性を示したいと思っているんですよ。それが面白いんです。
鎌倉に貢献したいから始まった、まちづくりプロジェクト
鎌倉に通うようになったのは大学時代から。海と山があり、東京から一時間かからず、住んでいる人たちも、自分にとっての豊かさを理解している人が多い印象で、好きです。趣味はサーフィンで、海に入るとすっきりします。会社も住まいも鎌倉にしました。
仕事を面白くするためには家庭やプライベートが面白い方がいい、ということでまちづくりの活動を始めました。また、会社は鎌倉にあるんだから、鎌倉に貢献したらより会社と地域の距離が近くなるんじゃないかと。鎌倉に本社のある7社が集まって2013年に「カマコンバレー」(現在名称を「カマコン」に変更)を発足しました。
カマコンでは「ブレスト」という手法を取り入れて、毎月定例会をしています。1500円払えば誰でも参加できる。「この街を愛する人を全力支援」と「全部ジブンゴト」を合言葉に、テーマは鎌倉のためになることなら何でも。
こういうことをしたい、という人がプレゼンをして、グループにわかれて、そのためにはこうしたらいいんじゃないか、とアイデア出しをします。10~70代まで、さまざまなバックグラウンドの人が、100人以上プレゼンをしました。
▲カマコンの定例会でのブレストの模様。プレゼンの後、グループにわかれてアイデアを出し合う。
そこから40以上のプロジェクトが生まれました。たとえば由比ガ浜のマナーが悪化しているということで、「鎌倉の海のまもり鳩」の砂像をアーティストにつくってもらい、五つの寺のお坊さんたちが合同で開眼法要をしてくれ、子供たちの砂遊びイベントも開きました。
ほかにも鎌倉市議選の投票率アップ作戦「『選挙立候補者比較サイト』制作サービス」や、鎌倉の昔の写真を集めて、今そこがどうなっているか歩いて撮影する「今昔写真」。
70代の女性が経営するコミュニティカフェもあります。カマコンは資金集めのためのクラウドファンディングのシステムも備えており、そこから活動の原資を得た人たちも多いです。
▲鎌倉市議選の投票率アップの話し合い。場所はカヤックが大家さんのシェアオフィス。ここでミーティングが開かれることも多いが、畳敷きの心地いい空間。
ブレストはやりたいことを手伝うというコンセプトで、オープンで自由、責任をとらない場だから、前向きな議論になるんですよ。だから楽しいんじゃないかな。自分が何かやりたくなったら今度は手伝ってもらう。好循環が生まれているんです。
目標は人の役に立つこと、そして新しい資本主義の確立?
▲鎌倉・由比ガ浜海岸の砂像「まもり鳩」
鎌倉だからそんなことができるんだ、といわれて、そうじゃないことを示そうと20地域以上に出かけてカマコンモデルを広めています。あちこちで芽が育っています。
今、資本主義に多様な形が出てきていますよね。公益資本主義とか、里山資本主義とか。自分たちも、利益だけが価値基準じゃない、新しい評価軸を持つ資本主義をつくりたい。
鎌倉には、お寺だけじゃなくて、キリスト教や、神社も集い、宗派を超えて尊重、共生し、協力しあおうという鎌倉宗教者会議というものがあります。
立場を超えて学びあう唯一の場所、まさに多様性の価値観の実現です。そういう価値観を盛り込んだ新しい資本主義のかたちをつくりたい。自然が残る美しい地域を寄付を集めて共同で購入し、守ろうという「ナショナルトラスト」は、1964年に鎌倉から始まったんですよ。
究極の幸せって、人の役に立った、ということではないかな。それが楽しい。もちろん経営者だから、金儲けはします。生産性で努力するし、業績は伸ばします。けれども楽しい、面白いは捨てたくない。そのスタイルが自分にとっては大事で、そこに美学があると思っています。
「まちづくり」を楽しむ
(アキヤマの感想)まちづくり、は昔からある活動です。でも、こんなふうにいろんな人たちが「楽しい」と思うようになったんですね。それが驚きだったんですが、私も「ブレスト」に参加してみて納得。
さまざまなバックグラウンドの人が、アイデア出しをして、新しいものがうまれていく。ポジティブなエネルギーに満ちていて、楽しかった! 資金集めのシステムがあるのも、さすがです。
柳沢さんが紹介します >>NEXT>> 鎌倉投信社長・鎌田恭幸さん
いい会社にしか投資しないという投資事業をきれいごとで本気で成功させようとしている人です。
writer:秋山訓子
朝日新聞編集委員
92年入社。政治部、経済部、アエラ編集部、政治部次長などを経て現職。政治を中心に、NPOや社会企業など幅広く取材。かわいい好き。後輩の加地ゆうき記者が描いてくれたこの似顔絵、めがねが私です。