2017年の年頭にあたり、2016年を振り返り、子ども・子育て・若者支援に取り組むNPOの一員としての期待と願いをお伝えします。
■2016年キッズドアの統括
NPO法人キッズドアとしては、非常に良い1年でした。おかげさまで低所得のご家庭の無料学習会は40教室あまりとなり、たくさんの素晴らしいスタッフが加わって充実した活動を行なっています。新しいプロジェクトもスタートし、キッズドアとしては非常に良い1年でした。
また、低所得の子どもたちに無料学習会を行うNPO等の連携を強めようと、多くの方と力を合わせ、全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 という団体の設立を果たしました。
フローレンスの駒崎さんや、シングルマザーズフォーラムの赤石さん、少子化ジャーナリストの白河桃子先生や乙武さんなどたくさんの方にご協力をいただいた給付型奨学金の創設に向けて活動し、先日の国会で給付型奨学金の実施が決まりました。
たくさんのメディアにも取り上げていただき、日経socialイニシアチブ大賞のファイナリストにも選んでいただき、キッズドアとしては、飛躍の一年と言って良いでしょう。
しかし、それでもなお、個人的には2016年が良い年だったとは言えません。
「子どもの貧困」課題を解決するためには乗り越えなければならない壁「シルバーポリティクス(高齢者の利害を反映した政治)」の強固さを改めて認識したからです。
■2016年ー出生数が100万人を切った日本の行方
2016年の出生数は98万1000人で、初めて100万人を割りました。今年の新成人は123万人。20年間で2割以上の減少です。
世界の主要先進国の総人口と出生数を見れば、日本がどれだけ異常な状況なのか、一目瞭然です。日本は子どもを産めない国になっています。日本のほぼ半分の人口であるフランスと生まれる子どもの数ではあまり差がないのです。
それは、なぜか?
日本の税の再配分が、極端に高齢者に偏っているためです。
給付型奨学金は実現しましたが、まだまだ額も規模も小さいものです。月額2〜4万円、対象も所得税非課税世帯で、さらに成績が優秀または高校の推薦が必要など、条件も限られています。受給人数は2万人、年間220億円の規模です。実に1学年の2%しか受給できません。
たった220億円の規模なのに、財源がないと言われ、「給付型は子どもの意欲をそぐ」などと、反対する議員がいるのです。
一方、日本の70歳以上の高齢者は、一人当たり平均年間81万円以上の医療費がかかっています。70歳以上の方全員に81万円の医療費がかかり、そのほとんどが現役世代の税金や健康保険料で賄われています。年間約19兆円です。
子どもたちの教育にかける220億円がないと言いながら、高齢者の医療費は莫大です。
医療費を使う高齢者はどんどん増えるのに、子どもの数はどんどん減っていきます。さらにその子どもはまともな教育を受けられません。親は、高齢者を支えるための税金、年金、保険料で子育てや教育に回すお金がありません。
このままいけば、日本は間違いなく破綻します。
テレビを見ていたら、アベノミクスで給料が増えたかと訪ねる街頭インタビューに若いサラリーマンが
「給料は少し増えているかもしれないが、保険料とかめっちゃ上がっているので手取りは全然増えていないです。」
と答えていました。
少ない現役世代で高齢者の方を支えるためには、働く人、一人一人の生産性を上げるしかありません。そのために最も重要なのは教育ですし、そもそも子どもの数が増えなければ支えられるはずもないのですから少子化対策にもっとお金を使うべきです。それなのに、日本の政治は、そこにちっとも投資をしません。
■なぜ日本では子ども・子育て・若者への支援が進まないのか?
シルバーポリティクス(高齢者の利害を反映した政治)が働いているからです。圧倒的に数が多い高齢者に配慮をしないと、選挙で勝てないのです。
議員の皆さんに子どもや子育て、教育についてもっと予算をつけてほしいとお願いすると
「それもわかるけど、教育や子どもに力を入れると、選挙に落ちちゃうんです。」
と言われます。教育、教育と言っていると、
「教育や子どものことも大事なのはわかるけど、票を持っているのは私らだからね。」
と、高齢者からあからさまに言われることもあるそうです。
その人に悪気はないのでしょう。
しかし、その一言が、日本の政治を間違った方向に向かわせるのです。
政治家は当選しなければ何もできません。
本当は、子どもや若者の政策を優先したいのに、選挙に受かるためには高齢者向けの政策を優先しなければならないのです。
■若者が投票に行かないのが悪いのか?
「若者が投票に行かないから悪い。」という意見があります。
若者の投票率が上がれば、若者向けの政策が実現するという考え方です。
しかし、これだけ高齢化が進んだ日本では、それはもはや詭弁でしかないありません。数で言ったら絶対勝てません。18歳選挙権が導入されましたが、2学年分ほど増えたってどうしようもありません。
もし、それぞれの世代が自分たちの世代への利益誘導を主張すれば、日本は今後高齢者世代に絶対に勝てません。
たとえ、若者の投票率が高齢者と同じ程度になったとして、数の上では絶対に勝てないのです。
議員の皆さんや政府に子どものことをお願いしにいくと、みなさん、「そうだ、そうだ」とおっしゃるのです。しかしその後に出てうるものは「お金がないので」と、とてもしょぼいものになってしまうのです。
その原因は、政府がやる気がないわけでも、政治家の無理解でもない。
高齢者という日本最大の既得権益層への利益誘導をしないと選挙に勝てないからなのです。
高齢者の方々が、自分たちが、多少不便になっても、多少負担を強いられても(例えば、医療費を現役世帯と同じ3割負担にするなど)、子どもや子育て、若者、教育、少子化対策に力を入れる候補者を選挙で選ぶのか、それとも今まで同様、高齢者利益誘導型の候補者を選ぶのか、日本の将来は、そこにかかっています。
名前を忘れてしまいましたが、アメリカの有名なエコノミストが
「この先、日本では、頭のいい若い人は日本から出るのではないか?」
と言っていました。
冷静に考えれば、この状況で、出て行かない方がおかしいのです。
今の若い人が日本に住み続けるメリットは皆無です。
このままいけば、高齢者を支えるために働くようなものです。給料から税金や年金や保険がごっそりと持って行かれます。手取りが増えないので、自分たちは結婚することも子どもを持つことも難しい。そして子どもを持ったとしても、国は十分な教育すら与えてくれません。
そんなに尽くしているのに、高齢者からは、感謝されないばかりか、
「今の若者は甘えている」
と叱責されるのです。
冷静に海外から見ると
「なんで日本の若者は、あんな理不尽を受け入れ続けているのだろう?」
と不思議で仕方がないのです。
■高齢者は今の日本の現状をしっかりと見て欲しい
新聞を見れば、60代、70代向けの何万円もするような高額化粧品の広告ばかりが目につきます。先日、電車の中で隣に乗っていた高齢の女性の方々は、「次の海外旅行はどこに行くか?」と話していました。病院には、本当に高齢者の方がたくさんいます。
一方、私たちが支援をしている子どもたちは、一度も動物園にも行かないまま中学生になっていたり、夏休みの目標が「1日3食食べること」だったり、お金がないから視力が悪くてもメガネを買えないのです。
そういう子どもが日本にもたくさんいるのです。
そして、そういう子どもたちに勉強を教える大学生のボランティアもまた、数百万円の貸与型奨学金を借りており、お昼ご飯に、食パンをかじりながら、それでもこの子たちをなんとかしたいと、アルバイトを減らして、ボランティアに来てくれているのです。
これは、まぎれもない、今の日本の現状です。
日本の高齢者の方々が、日本の現状をしっかりと認識し、今、何をするべきか、それはどの政治家が行うのか、を見極められるのか?
ご自分のお考えを、将来の日本への意見をしっかりと述べられるのか?
それはつまり、高齢者が日本を背負うプレヤーとなっていただけるのかどうか?
ということです。
民主主義のもと、高齢者が数の力で政治の主導権を握る。
これこそが、今まで、どこの国も体験したことのない未知の課題なのです。
シルバーポリティクスからの脱却は、特定の政治家や政党の問題ではありません。
すでに日本の30%以上を占める65歳以上の有権者3500万人の方々に、刹那的な、自分の余生の心配をするだけではなく、日本の将来を考えていただく意識を持ってもらえるか?
日本の子どもたちの将来を、日本の子どもたちの幸せを願ってもらえるか?
本来、一線を退いている方々に、もう一度、日本の未来をしっかりと考え、行動してもらえるか?
日本の子どもたちが、子育て世代が、若者が日本に住み続けられるのか、世界から見限られている日本が、V字回復を果たせるのかどうか、勝負の1年が始まりました。
今年も1年頑張りますので何卒よろしくお願いいたします。