パンデミックが猛威を振う中、スペインではバルコニーから感謝の拍手が響きわたった。
イタリアでは軍用トラックが無数の棺を運び、様々な国で医療従事者らは防護服を着用して治療や看護にあたった。
そして何百万人もの人々が、人種差別に抗議するデモに参加した。
2020年は誰にとっても予想していなかった年だったと言えるだろう。そんな年を象徴する13枚の写真を、世界各国のハフポスト編集者が選んだ。
日本:すべてを一変した新型コロナウイルス。しかし東京の通勤ラッシュは残った
多くの国に比べて死者数が少ない日本も、新型コロナウイルスの影響を受けた。
しかしそれでも、世界的によく知られた東京の通勤ラッシュが完全に無くなることはなかった。
感染者数が増加した後、政府は混雑したスペースを避けできる限り自宅で仕事をするよう促した。しかしリモートワークの導入に消極的な企業もあったため、通勤を余儀なくされた人たちも少なくなかった。
その結果、混雑した公共交通機関を利用する人口は減少したものの、東京都心部の品川駅などの主要駅では、朝の通勤ラッシュ時にはマスクをつけた通勤客で埋め尽くされた。
12月中旬現在、日本では20万1000人以上が感染し、2833人が亡くなっている。
— Satoko Yasuda, HuffPost Japan
イタリア:最も暗い夜明け
イタリアで最も大きなコロナウイルスの被害を受けた街の一つであるベルガモで、それはとても暗い夜となった。
3月18日未明、市で埋葬できなかった65基の棺を積み込んだ15台の軍用トラックが、墓地から市外の高速道路に向かってゆっくりと列をなして走った。
ベルガモの墓地にはもうスペースがなく、葬儀場がいっぱいで火葬もできなくなっていた。
イタリアで3月18日に新型コロナウイルスで亡くなった人の数は475人。ベルガモがあるロンバルディア州では319人が亡くなり、その時点での死者数合計は3000人となった。
トラックに乗せられた棺は、近隣のエミリア=ロマーニャ州のボローニャ市に運ばれて火葬され、遺灰は家族の元に戻された。人々は窓からこの様子を見て涙を流した。
ロンバルディア州では、3〜4月の新型コロナウイルス第一波で約6000人が亡くなった。
6月の終わりには、葬儀ができなかったすべての人々のための壮大なミサが開かれた。
新型コロナウイルスのパンデミックで、ベルガモ市民のほぼ全員が親や子ども、兄弟姉妹を亡くしている。
— Giulia Belardelli, HuffPost Italy
韓国:PPEを身に着け医療最前線で働く人々
韓国は、最も早く新型コロナウイルスの影響を受けた国の一つだ。
政府は対策を講じたものの、春には患者が急増。国民の多くは最悪の事態を予想し、パニックが起きかねない状態だった。
そんな韓国を支え続けてきたのが、一日中休むことなく患者を介護する看護師たちだ。看護師のキム・ユンヒ氏は「最善を尽くしています」と語った。
看護師たちは体を何層にも覆う防護服を身につけるため、痛みや傷が絶えない。彼らが身を守るために考え出した予防策が、額や頬、鼻にパッドや絆創膏、テープを貼る方法だ。
韓国が最悪の事態を回避できたのは、彼らのような最前線に立つ医療従事者のおかげだ。 絆創膏の写真は、彼らの勇敢な闘いを象徴している。
大邱市の啓明大学病院で働く看護師のユン・ナヨン氏(写真)は3月12日、何かメッセージがあるかと尋ねられ「我々は勝利します」と答えた。
— Wan Heo, Senior Editor, HuffPost Korea
スペイン:拍手と怒りと苦悩。バルコニーでの1年
世界各国が新型コロナウイルスの問題への対応を迫られた3月、スペイン国内は沈黙に包まれた。
第一波の最中に100日間に及ぶロックダウンが実施されたため、人々の声や足音が一夜にして消えてしまったのだ。
しかし、夜8時になるとその沈黙は破られた。スペイン人たちはベランダに出て、医療従事者の努力に感謝の念を示す盛大な拍手を贈った。
結束を強めるための行為だったが、同時に誰かに会いたい、家の外でも生活は続いていることを確認したいという人々の強い思いの表れだった。
しかし死者数の増加により、最前線で働く人たちへの感謝の気持ちは政府に対する怒りへと変わっていく。歓声や拍手は次第に、鍋やフライパンを叩く音に変わっていった。
これまでに180万人の感染者と5万人近い死者を出したスペイン。最前線で働く人々への感謝と怒りと苦悩が入り混じり、国は二分された。
愛する家族に別れを告げることができなかった人たちも数少なくない。2020年はスペインにとって、沈黙の年だったと言えるだろう。
— Guillermo Rodriguez, HuffPost Spain
イギリス:パトリック・ハッチンソン氏は現代版ヒーローになった
6月にロンドン中心部で行われたBlack Lives Matter(BLM)の抗議デモでは、負傷した極右活動家のブライアン・メイル氏を、BLM活動家パトリック・ハッチンソン氏が担ぎ出し、安全な場所へと運んだ。
ハッチンソン氏の写真は世界中のメディアで取り上げられ、拡散した。様々な都市のビルボードにも登場し、ハッチンソン氏は多くの人たちから「英雄」と呼ばれた。
ハッチンソン氏はハフポストUK版とのインタビューで「命を救うだけではなく、この物語を救わなければならなかったのです。物語が脱線して人が死ぬような最悪の事態を避ける必要がありました」と語っている。
ハッチンソン氏の行為は多くの人たちから賞賛されたが、その一方で「差別や暴力に対して黒人は親切さを持って対応すべきという考え方は、黒人を守ることにはならない」と考える人たちもいる。
— Nadine White, HuffPost U.K.
イギリス:サッカー界が社会への責任を表明する
6月17日、3月以来となるプレミアリーグの試合が開かれたイギリス・バーミンガムのヴィラパークスタジアムに、観客の姿はなかった。
しかし審判のマイケル・オリバー氏がキックオフの笛を吹くと同時に、選手や審判たちが約10秒間ひざまずく姿が、イギリスの人たちを勇気付けた。
選手らが膝をついたのは、Black Lives Matterの抗議デモへの賛同を示すためだ。
この瞬間に立ち合ったスカイスポーツ解説者のロブ・ホーソーン氏は「選手全員と審判が膝をつき、サッカー界の社会に対する責任を示す力強いシーンだ」と述べた。
この日のアストン・ヴィラFCとシェフィールド・ユナイテッドFCの試合は、0-0の引き分けに終わった。
しかし片膝をつく抗議は、その後のプレミアリーグの試合に引き継がれている。
— James Martin, HuffPost Global
オーストラリア:タワービルが監房へと化す
オーストラリア、メルボルンに建つ9棟の高層ビルでは、多くの住民がコロナウイルスの陽性と診断されたために、500人以上の武装した警察官を投入した「ハードロックダウン」が命じられた。
3000人の住民たちが外出禁止となる中、1人の住人男性は窓の外を見つめ、ガラスに手を押し付けた。
タワーの各階を2人の警察官が監視し、住民は6週間にわたって自宅に閉じこめられた。外出は許可されず、レトルト食品に頼る生活を余儀なくされた。
42歳で2人の子どもがいるエメール・エヴシン氏は「窓の外を見渡すと、看護師でも清掃員でも食べ物でもなく、大量の警察官だけが配置されていました」「これはロックダウンというようり、むしろ監禁に近いロックアップです」と自宅から電話で語った。
オーストラリア第2の都市で起きたこの厳しいロックダウンは、最も弱い立場の人たちに対して、強硬な新型コロナウイルス対策を敷いた政府の対応を浮き彫りにした。
12月22日現在、オーストラリアでは2万8000人以上が感染し、900人以上が亡くなった
— Sasha Belenky, HuffPost Australia
カナダ:私たちの間を流れる川
ロイター写真家のカルロス・オソリオ氏が7月に撮影したこの写真は、カナダと米国におけるギャップを表していると注目を集めた。
ナイアガラの滝を観光する2艇のツアーボートのうち、写真上部のアメリカ観光船にニューヨーク州の規制で50%の利用率に制限され、青いポンチョを身につけた人たちの姿が見える。
一方、その下を航行するカナダのボートには、オンタリオ州の規制によってわずか6人しか乗船していない。
“世界一長い無防備な国境線”は現在閉ざされているが、この2艇のボートの写真から、新型コロナウイルスに対する2国の異なるアプローチを垣間見ることができる。
これまでに、カナダでは51万5000人が感染し1万4332人が亡くなった。一方国境の南側の米国では、1810万人が感染してと32万人が死亡した。
— Andrew Yates, HuffPost Canada
カナダ・ケベック州:「ケベックのジョージ・フロイド」がカナダの人種問題を揺さぶる
カナダ・ケベック州では、7人の子どもを持つ先住民族の女性が、亡くなる直前まで看護師に人種差別的な侮辱を浴びせられた。女性がその様子をFacebookライブで中継したことで人種差別問題に火がついた。
ジョイス・エチャクワン氏9月28日、マナワン先住民保護区にある自宅から車で3時間の場所にあるジョリエットの病院で死亡した。
同氏が死の直前に投稿したFacebookのライブ動画には、担架に縛られたエチャクワン氏と、「本当にバカなやつ」「死んだほうがマシ」「得意なのはセックスだけ」と人種差別的な発言を口にする看護師2人の姿が映っていた。
エチャクワン氏は、その数分後に亡くなった。
この出来事により、ケベック州では人種差別に反対する声が高まり、州は先住民族が安全な医療を受けられるようにするために、1100万ドルを投じると約束した。
人種差別問題が高まるきっかけになったエチャクワン氏を「ケベックのジョージ・フロイド」と呼ぶ人もいる。
— Émilie Clavel, HuffPost Québec
ギリシャ:亡命して来た人たちが再び命がけで逃げる
ギリシャ・レスボス島にあるヨーロッパ最大の移民施設で9月9日、火災が発生し難民たちが逃げ出した。写真には、小さな子どもを抱えて逃げる少年の姿が捉えられている。
人口過密で荒れ果てたレスボス島の難民キャンプは、この火災で大部分が焼失。
1万2000人以上の大人や子どもたちがパニック状態でコンテナやテントを飛び出して、近隣にあるオリーブ畑や野原に逃げ込んだ。
この難民キャンプは約2750人を収容するために建設されたが、ヨーロッパの難民政策失敗の象徴していると長い間批判されてきた。
この火災の数時間前には、移民省が難民キャンプで暮らす35人が新型コロナウイルスの陽性反応を示したとが発表したが、収容人数が1万人を超えていたため、ソーシャルディスタンスをとるのはほぼ不可能だった。
火事の後、大人や子どもたちは、草や毛布、回収されたテントなどで作られた即席のシェルターの下で何日も寝続けなければならなかった、
— Antonis Fourlis, HuffPost Greece
アメリカ:ニューオーリンズで事前投票をした親子の姿が2020年を象徴する
ニューオーリンズでアメリカ大統領選挙の事前投票が開始された10月16日、ダナ・クラーク氏は生後18カ月の息子メイソンさんと一緒に、投票の列に並んだ。
列に並ぶ人たちがどれくらいマスクを着用しているのか分からず、子ども用マスクを持っていなかったため、クラーク氏は保護用カバーで列に並んだ。
教師でもあるクラーク氏は、生徒のためにも感染予防処置をとっているという。
この写真には、史上最高の投票率を記録したアメリカ大統領選挙、人種差別問題、新型コロナウイルスのパンデミックと2020年のすべてが詰め込まれている。
— Chris McGonigal, HuffPost U.S.
フランス:生き残りをかけて踊る
赤いピエロの鼻を付け、黒一色の衣装に身を包んだ180人のダンサー集団「Les Essentiels」は12月12日、映画館、劇場、博物館などの国内文化施設の相次ぐ閉鎖に無言の抗議を示すパントマイムをした。
フランスでは文化産業の従事者たちが、レストランやナイトクラブと同じように、新型コロナウイルス感染拡大防止対策で活動できなくなっている。
そのため、フランス政府によって「必要不可欠ではない」と判断された俳優、音楽家、ダンサーらは、自分たちはソーシャルディスタンスの犠牲になっていると感じている。
2020年は間も無く終わりを迎えるが、1月から活動を再開できるかどうかまだわかっていない。
— Geoffroy Clavel, HuffPost France
イギリス:世界が注目した一本
あっという間の出来事だった。しかし90歳のマーガレット・キーナン氏にとって、その一本には大きな意味があった。
12月8日午前7時前、キーナン氏はイギリス・コベントリーで、ファイザーとビオンテックの新型コロナウイルス社のCOVID-19ワクチンを正式に接種した世界初の患者となった。
北アイルランド・エニスキレンから移住して以来、60年以上コベントリーに住んでいるキーナン氏。イギリスの国民健康サービス(NHS)をサポートするブルーのクリスマスTシャツを着用して接種に臨んだ。
キーナン氏は接種後「初の新型コロナウイルスワクチン接種者になれたことをとても光栄に思っています。誕生日まではまだ少しありますが、最高のプレゼントとなりました。この1年ほとんど1人で過ごしてきましたが、ワクチンを受けたおかげで、やっと新年を家族や友人と過ごすことができます」と語った。
そして車椅子で病室に戻る時には、コベントリー病院のスタッフから盛大な拍手が贈られた。
キーナン氏のすぐ後には、ウォリックシャー州出身のウィリアム・シェイクスピア氏が続いてワクチンを受けた。
— Sarah Turnnidge, HuffPost U.K.
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。