インターネットテレビ局 AbemaTV「AbemaSPECIALチャンネル」にて、『10億円会議 supported by 日本財団』がスタートした。「社会の課題を解決する革新的な事業に取り組みたい」と考える一般参加者が、日本財団から資金提供を受けるために、自らプレゼンテーションを行う。さらに番組の連動企画として、『10億円会議キャンペーン』を行っている。助成金額は総額10億円と超高額だが、もちろんバラまき施策ではない。このユニークなキャンペーンは、どんな想いから生まれたのか。日本財団企画部の花岡隼人氏に聞いた。
日本のみならず、世界の公益活動を続けてきた財団のあゆみ
ーー日本財団は1962年に日本船舶振興会として設立後、さまざまな公益事業を中心に活動をしてきました。馴染みがない方にもわかるような、取り組みの具体例を教えていただけますか。
当財団は約60年にわたり、子ども、障がい者、医療のテーマで国内はもとより、海外でも、公益活動をしてきました。代表的なのは、ハンセン病の世界的な差別撲滅活動です。ハンセン病はかつて不治の病とされていて、感染防止策として患者たちは完全隔離されていました。手足や顔の変形などの後遺症に対する偏見や差別により、不自由な生活を強いられたんです。
ーー世界中に患者を隔離するための療養所がつくられた歴史がありますね。
日本財団は1995年から5年間、治療薬5000万ドル相当を病気が蔓延する国に無料配布し、ハンセン病制圧活動に取り組みました。会長の笹川陽平は、病気に関する正しい知識の普及などについても訴え続け、昨年インド政府から「ガンジー平和賞」を授賞しました。
政府とのネットワークを活かし、社会課題とSOSを拾い上げる
ーー日本財団は、海外でも積極的な活動をしてきたのですね。
国内のみなさまに身近な取り組みとして知っていただくきっかけになったひとつは、福祉車両の導入取り組みです。これまでは、施設や病院に行く際に、一般の方が車で送迎して謝礼を受け取ってしまうと、法律上は白タク(国からの営業許可をとらない違法タクシー)とみなされてしまう問題がありました。これでは、近隣の方が善意で送迎することがなかなかできません。無償でお手伝い、となると厳しいですからね。
ーー世の中のニーズと法律に、大きな溝があったんですね。
そこで当財団は福祉施設に対し、累計約4万台の車両を配備いたしました。既存の法律制度は、簡単には変わりません。時代遅れになる法律に対して、次世代のための施策を提案するのが我々の課題です。
ーー特別養子縁組の取り組みも、注目されています。
児童福祉法の改正はインパクトがありましたね。特別養子縁組の利用促進が明確に打ち出されております。欧米諸国では普通のことですが、まだ日本には法制度にも課題があります。当財団は、約10年前から特別養子縁組を推進してまいりました。
ーー具体的にはどんな活動をしてきたのでしょうか。
「子どもの家庭養育推進官民協議会」や「全国妊娠SOSネットワーク」など、関係者のネットワークを駆使して課題解決のために活動しています。特別養子縁組の現状を広く認知していただくために、4月4日を「養子の日」として啓発活動をしてきました。また、民間の里親支援機関や養子縁組団体への資金協力や、里親を対象とした研修も行なっています。
PRの場にインターネットを選んだ理由
ーー社会変革のサポートを目的にした『10億円会議キャンペーン』がスタートしましたが、なぜこのような企画がうまれたのでしょうか。
日本財団はNPOなど法人とのやりとりが多く、一般の方からの認知度が低かったんです。しかし、社会課題は市井のみなさまこそが当事者。一般の方こそが、課題解決のアイデアを持っているのではないかと思ったんです。
これまでもさまざまな広報活動をしていたのですが、一般の方が難しい書類を整えて財団の門を叩くのは厳しいですよね。けど、ネット上ならTwitterなどで気軽に問題を投稿することができます。今回は、インターネットを活用したキャンペーンにも挑戦しました。
ーー番組放映の場として、インターネットTVを選んだ理由もそこにあるのでしょうか。
次世代を担う、若い人に日本財団の取り組みを知ってもらいたかったんです。今までも、一般の方との接点を持つためにソーシャルイノベーションフォーラムなどリアルイベントを開催してきましたが、もっと多くの方にリーチしたくって。
副業からでも社会貢献活動にチャレンジしてくれることがうれしい
ーー公募ハードルが下がったことで、実際にどんなリアクションがありましたか。
普段は別のお仕事をしている人たちからの応募がありました。全身全霊で社会貢献活動にフルコミットしていただけるのはとても嬉しいのですが、副業からでもチャレンジしようと思ってくださる方が増えたのはとてもありがたいですね。
ーー印象に残っている事業アイデアは?
歌舞伎町でスナックをやっているママが、「歌舞伎町のネガティブなイメージを払拭したい」という提案を出してきたんです。社会的弱者の方が多く訪ねてママに相談してくるらしいので、イメージアップして気軽に相談に来られる街にしたい、と。公共で窓口をつくっても、なかなか話しづらいことってありますから、面白いアイデアだと思いました。
ーー確かに、誰にも話しにくい悩みが集まる場にこそ、社会課題が見えてくるのかもしれませんね。出資するためには、シビアにジャッジをしなければなりませんよね。助成の判断軸はどうしているのでしょうか。
番組に出演いただいている審査員の皆様には、提案された事業について①革新性 ②影響力 ③将来性の3点からご判断いただいてます。
もちろん、どんなにいい事業アイデアでも、送金した瞬間に行方不明になるようなことがあっては絶対にいけません。信用できるかのリーガル・コンプライアンスチェックはもちろんのこと、アイデアをきちんと実行できるかどうか判断します。
ーー近年、クラウドファンディングで活動資金を募る人も増えてきましたが、日本財団と取り組むことの強みは。
日本財団は資金だけでなく、スキルやネットワークも共有できるのが一番の強みです。福祉施設を建てるとして、法律やルール上は問題がなくても、近隣住民からの反対運動が起きることもあります。付き合いかたやトラブル対処方法など、テキストに書かれていない部分についても、知見がたくさんあります。政府とのお付き合いもありますし、財団職員はいろんな分野のエキスパートですから。
ーー今後、財団の活動はどうなっていくのでしょうか。
財団職員が少ないので、これまではどうしても1件あたりの金額が大きな案件に注力する傾向がありました。ですが、今後はもう少し、個人への小口支援ができたらと考えています。少額から、ご支援をしていきたいですね。