「何年後に日本で女性首相が誕生すると思いますか?」
こんな質問を投げかけられたら、みなさんはどのように答えますか? そして、そう思う理由は?
「女性活躍」というワードを冠した大臣職が誕生してから今年で10年。それでもまだ、私たちの社会の中にはジェンダーバイアス(男女の役割に関する固定観念)が根強くはびこっています。
そんな個人の中にあるバイアスと、社会構造の壁について世代を超えて議論し、次世代に残すべき社会に向けたヒントを探るウェビナーが、3月18日に配信されました。
女性にのしかかる、さまざまなバイアス
ウェビナーを主催したのは、企業向けのダイバーシティ研修や、大学・行政向けのライフキャリア教育を通して社会課題解決を目指すスリール株式会社と、グローバルなビューティーブランドを手掛けるLVMHパフューム&コスメティックス。LVMHグループは、従業員の7割が女性社員、かつ女性管理職比率が半数を超えるということもあり、女性一人ひとりが自分らしく過ごせる企業文化、社会づくりに向けた活動を続けています。
両社はウェビナーに先立ち、Z世代を対象としたアンケートを実施。集まった声から、ジェンダーの“今”を知り、次世代に残すべき「2030年、理想の世界」について考えました。
議論をともにしたのは、世代や業界を超えて集まった5名。
ウェビナーは、出演者自身の経験談を通じて、女性たちが内面化するジェンダーバイアスについての議論から始まりました。
「20代の頃からキャリアも、結婚も、出産も全部叶えたいと思っていた」というシンシアさんは、出産を機に仕事を辞め、20年近い専業主婦期間を経て、外資系ホテルの日本法人社長に就任しました。
「47歳で再就職して、今、63歳。結果的に、全て手に入れることができています。全部叶えるなんて自分には無理かも、というバイアスで、限界を決めないでください。人生100年時代、時間はたくさんあるから、一つずつ叶えれば大丈夫だということを、私自身が実感しています」
「人生はマラソン」と若い世代にエールを送ります。
結婚情報誌『ゼクシィ』元編集長の伊藤さんは、双子の子育てをしながら編集長を務めた当時を振り返り、こう話します。
「私のバイアスは、“身近にいない”から、できないと思い込んでしまったこと。出産を経て編集長に復帰した際に、ロールモデルがいなかったので、自分には無理かも、と感じたんです。加えて、編集長なんだから完璧にやらなきゃ、というバイアスもあり、すごく苦しい時期がありました。
でも、私が育児のために定時退勤をすることで、チームメンバーも働き方が変化したり、それが新しいアイデアにつながったり。業務に良い循環が生まれたことに気づき、“頑張らなきゃ”から解放されました」
能條さんは、「自分はサブリーダーが向いているバイアス」があったと言います。
「今まで学級委員や部活のリーダーの経験がなく、いつも“サブ”の立場だったんです。声が大きくて、まとめるのが上手な男子に表に出てもらい、自分は裏方として支えるのが得意だと思っていました。
でも、NO YOUTH NO JAPANを立ち上げるときに、自分がやるしかない...という状況になり、初めてリーダーに挑戦することに。やってみたら、意外と自分にもできるじゃん! って自信になり、トップを女性が務めている団体だからか、女性メンバーもどんどん増えたんです。
デンマーク留学中に、41歳の女性首相や、同い年の女性国会議員に出会い、『自分は人前で話すのが苦手だ』『自分にはリーダーシップがない』と思っていたのは、実はアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)だったんじゃないかと気づきました。それを機に一歩踏み出してみることで、周りにも変化を起こせるんだなと実感した経験でした」
世代は違えど、「女性としての生き方」にまつわるバイアスの存在が垣間見えます。こうしたバイアスは、個人だけでなく、社会構造にも現れています。
公益社団法人 ガールスカウト日本連盟の調査によると、「女の子だから」という理由でなんらかの制限を受けたことがある女性は高校生で47%、大学生では66%という結果でした。
就職活動の面接で「結婚願望はありますか?」と聞かれたり、採用人数の女性比率が2割と決まっていたり、入社後も不利益を被るのではという不安につながっているケースがあるようです。
大学や企業でリーダーシップ教育をおこなう中原先生は、構造的な観点からこう解説しました。
「女性のキャリアは①個人的な要因と、②環境的な要因の掛け算によって決まってしまう。先ほどみなさんが語ったバイアスは①に含まれますが、バイアスがゼロ、という人はいないと思います。だから、自分を疑ってみたり、周りからフィードバックをもらったりしないと、思い込みに囚われていることに気づきにくいんです。常に“鏡”を用意しておくことが大切なんですね。
そして、個人だけでなく、社会構造も変わっていかなければならないですよね。一番の“ガン”は長時間労働。企業側が誰にとっても安心安全、ヘルシーな職場環境を整えていくことで、採用にも変化が生じ、社会構造にも良い影響が出ると思います」
Z世代がみるジェンダーバイアスと「未来」は...
そんな現在の社会構造に関して、スリールがZ世代50名を対象に実施したアンケート。「日本にはどんなジェンダー格差が存在しますか?」という質問に対し、下記のような回答がありました。
「男性社員が1年間育休を取得したことに、驚いてしまった。女性であれば驚かなかったと思う」
「結婚式の演出や、選択的夫婦別姓が長年認められないことに、家父長制の名残を感じる」
能條さんは、友人の中には「社会に出て、改めてジェンダー格差に気づき、関心を持った」という人も多いと言います。
「日本は、教育上は男女平等という前提があるため、大学までは“平等”に見える。でも、社会に出たら、現実はそうではないと気づいた、という話をよく聞きます。
先ほどシンシアさんが、『やりたいこと、全部叶えられるよ』と話していた時にすごくキラキラしていたのですが、私たちの世代だと『今の日本じゃ全部叶えるのは無理だよね』という話も出ていて、それはとても寂しいことだなと感じています」
さらに、「何年後に、日本で女性首相が誕生すると思いますか?」という質問では、このような回答結果になりました。
「10年後」が24%、と「30年後以降、もしくは出てこない」が28%と、拮抗しています。
自由記述に寄せられたコメントからは、ジェンダーギャップが大きい日本の未来に対する若い世代の「諦め」と「希望」の両方がにじみ出ています。
しかし、日本でも着実に変化しています。例えば、2013年にはわずか2%台だった男性育休率は、少しずつ少しずつ増えながら昨年は約13%に達しました。企業の声かけが義務化されるようになった今年4月の改正法で、今後さらに増えることが期待されています。
2030年、理想の世界にするために
最後に、日本の社会に根強く残るバイアス、それにより作られた構造を2030年に向けて変えるためのポイントを聞きました。
能條さん「Z世代だけでなく、いろんな世代の方々が社会の“当たり前”に疑問を持ち、行動しています。政治、社会制度、職場環境に対して、『もう決められているものだから、変えられない』と思ってしまうのではなく、『自分たちの力で変えていける、つくっていける』と思える環境を作っていきたいですよね。“参加型デモクラシーをカルチャーに”というNO YOUTH NO JAPANのビジョンを、もっと広めていきたいなと改めて感じました」
伊藤さん「この間、組織の集合写真の中央に私が映っていたら『伊藤さん、女王様みたいだから、右にズレましょう』と言われて、そうか、と思って移動しちゃったんです。でも、女性が中央に写った写真も当たり前にあることで、そういったバイアスも少し変わったのかもしれないなと思って、ちょっと後悔してるんです。小さなことの積み重ねが、大きな変化を起こしていく。そのパワーを自分も持っているということを忘れずにいたいです」
シンシアさん「40代で再度キャリアを始めた私にだからこそ見える世界があって、人生は長いんだということを皆さんに伝えたいと思います。最近は正社員、終身雇用にとらわれない働き方も増えていますよね。これも以前は考えられなかったことです。自分のキャリアをどう築いていきたいのか、そのために、自分の価値をどう上げて、どうやって選べる人間になっていくのかという視点で、作戦を練ってほしいです」
中原先生「企業の視点で考えると、成果につながる変化を起こしたいはず。そのためには、“Break the Bias”して、多様性を実現させること。人は環境で決まるので、企業にはあの手この手を尽くして、変化を生み出してほしいなと思います」
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Z世代の声をもとに、世代を超えて「これからの社会」について話し合った1時間。ウェビナーのアーカイブは、こちらからご視聴いただけます。
※ 視聴期限は4月18日(月)まで。19日(火)以降はスリール株式会社HPにて限定公開予定です。
ウェビナーの中で取り上げた両立不安白書は、こちらからダウンロードいただけます。
これからのジェンダーは、どうあるべき?どうなってほしい?#2030理想の世界でみなさんのご意見を教えてください。