中国で発生した爆発を扱う記事を、一時期は1日に4本も5本も書いていた。そもそも、私が「中国爆発ニュース」に注目したのは2011年1月だ。同年の春節(旧正月)は2月3日。中国では爆竹や花火で派手に春節を祝う習慣がある。事故も多かった。
そこで、「爆炸(中国語で「爆発」の意)」の語で、簡体字に対応しているGoogle香港版で検索。その結果に驚いた。「奇妙な爆発」が実に多いのだ。「下水道で爆発、マンホールの蓋が吹き飛ぶ」、「ボイラー爆発、熱水噴射して飛び去る」などだ。
ということで興味を持ち「中国の不思議な爆発」の記事に力を入れた。話題には事欠かなかった。「高圧電流を集合住宅に、各部屋の家電が次々爆発」、「豆板醤の容器爆発、買い物客の目を直撃」、「成長促進剤の不適切な使用で畑のスイカが次々爆発」と続いた。ところが2014年ごろ、私の求める爆発記事が減っていることに気づいた。逆に多くなったのが、テロ関連の爆発など深刻な話題だ。
この稿を書くにあたり、改めてニュース検索した。3月26日午前11時の時点で、検索結果の1頁目から10頁目に表示された記事を確認した。総数97本、いずれも中国語だ。うち、中国国内で発生した爆発を扱っているのは25本、ほとんどが「深刻な爆発」だ。私の追っていた爆発情報は明らかに減っている。一方でテロ関連の記事は30本で、ほとんどが中国外の情報を扱ったものだった。
ただし、中国大陸外で中国語記事を配信するメディアは大陸での爆発を比較的多く扱っている。中国に批判的なメディアでは特に多い。
例として、3月18日に発生した山西省太原市の中北大学の実験棟の火災がある。中国メディアは一般的な火災として扱っている。「爆発」を見出しに使った記事はかろうじて、北京市メディアの新京報による「中北大学--実験室で火災発生、学生は爆発音があったと話した」しか見当たらなかった。
一方、中国共産党と対立する大紀元が同じ事故を扱った記事の見出しは「突然の爆発的大火災、光が天を刺し爆発音響く」、香港ヤフーは「大学実験室が大火災、天めがけて火球が爆出」と、実に刺激的だ。考えてみれば、大陸メディアもかつては刺激的な見出しを多く使っていた。
つまり、大陸メディアは変化してしまった。だとすれば、なぜなのか。ここからは全くの憶測なのだが、私は当局の圧力があった可能性を否定できないと考えている。
中国当局はメディアを統制している。話題によっては報道を禁じたり、メディアに「模範原稿」を渡して「丸写しはするな。主旨を踏まえて書き直せ」と指示する場合もあるという。私も中国人ジャーナリストから「記事として扱うテーマの指示を受けている」と聞いたことがある。
私自身に関連する話としては「爆発記事」が中国のネット民からも注目された。多くは、日本のヤフーなどに掲載された記事とコメントが翻訳されて中国のサイトに掲載され、中国人からコメントが寄せられるというパターンだった。
現在でも閲覧できるページとして、2013年2月28日にAcFanという娯楽情報サイトに掲載された記事がある。本文記事は私が執筆したのではない尖閣諸島関連の話題だったが、なぜか中国人ユーザーは「日本で中国の爆発が評判だ」というコメントを次々に投稿し、「天朝爆発担当相−−如月隼人」との書き込みまで出現した。とうとう中国爆発担当大臣にされてしまった。なお「天朝」は中国のこと。自虐のニュアンスがある。
その他のサイトでも、「中国爆発記事」の愛読者が作った「チャイナボカン」の呼称の解説が登場したりした(西諾網、13年1月15日)。
中国当局はネットの監視に力を入れている。日本で「中国爆発記事」が関心を集め、中国人ユーザーも注目し始めていることを察知したと考えるのが自然だ。そもそも、中国のニュースサイトが人目をひく気に力を入れた理由の1つにはページ・ビュー獲得競争がある。しかし当局が、爆発を扱う記事で威信が低下していると考えたらどうだろう。
防止のためには「社会的、政治的に本当に重要な場合以外、爆発記事は控えるように」と通達すればよい。敢えて逆らうメディアや記者は、そういないはずだ。
繰り返しになるが、あくまでも憶測だ。しかし、中国で「奇妙な爆発」そのものが急減した理由は見当たらない。それなのに記事がずいぶん減ってしまったことに、私はどうしても不自然さを感じてしまう。
■関連スライドショー(上空から見た中国)
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