領土問題をめぐる中国と日本の間の緊張の高まりは、韓国との慰安婦などの歴史問題をめぐる論争と組み合わさり、日本が隣国から軍事的にも政治的にも攻撃的だと思われる政治的な環境を作り出している。この傾向は、最近核実験を行った北朝鮮や、中国との対立に備えてますます保守反動化している米軍と相まっている。
こうした不信と競争のムードは、北東アジアに国が関与する大規模な軍備競争を呼び起こすだけでなく、おそらく東南アジアをも巻き込むかもしれない。
今こそ真の指導者として、日本は道徳的な勇気を奮い起こす瞬間である。日本は前進し、地域のすべての国との安全保障問題に関する誠実かつ実践的な対話に、競争ではなく協力を促す透明な方法で従事しなければならない。それは共同によるもので、安全保障問題への新しい、革新的なアプローチを示唆している必要がある。
日本の安全保障と防衛政策は、冷戦に基づく抑止と封じ込めという想像力に欠ける時代遅れの発想ではなく、新興の非伝統的な脅威への対策に立脚することを我々は確認する必要がある。日本がこうした転換を行うことができれば、追従者ではなく、リーダーの役割を果たすことができる。
最近行われたパリ気候会議(COP21パリ)では、日本、韓国、中国、及びASEAN諸国間の軍事における緊密な協力のための基礎となるべき開発のため、低炭素モデルへの迅速な移行の具体的な要求がなされた。
アジア各国の軍が気候変動の緩和と環境適応を達成するため、どう転換して行けばよいかについて、日本の自衛隊は、アジア共同体のすべてのメンバーとともに濃密な対談の場を開き、軍事において新たな国際協力の文化を築くことを目指すべきである。
まず日本の自衛隊が内部100%再生可能エネルギー政策を推進し、緑の革命において重要な役割を果たすことが最初のステップである。経済の他の部分とは異なり、自衛隊は、組織内で用いられるすべての車両を2年以内に電気化することを単に命令によって遂行できる上、国家安全保障の利益のために、すべての拠点のすべての建物に太陽光パネルの使用を主張できる。
自衛隊は、組織内でソーラーパネル、風力発電所、燃料電池の初の大規模な市場を確立することができ、それゆえ当該製品の確実な需要があることを保証できるようになる。
しかし、我々はそれよりも先に進む必要がある。すでに環太平洋合同演習(Rim of the Pacific Exercise、以下RIMPAC)によって確立された軍軍間交流の伝統の上に、さらに広範な協力のためのプラットフォームを構築することが可能だからだ。
アメリカ海軍の太平洋艦隊は、世界的な軍事協力の促進のためにRIMPACを隔年の6月と7月に真珠湾で実施しており、RIMPACは東アジアにおける地域の緊張を減じ、非常に成功していると言える。
RIMPACは、環太平洋全域から各軍の代表を軍事演習に招待し、相互運用性の強化を促進し、より広範囲の軍事シナリオのために備えることを目的としている。この合同演習は、結果として個人的な関係の強化と、実務レベルでの軍事協力関係の成長を地域全体にもたらしている。
注目すべきは、2014年の合同演習に日本海上自衛隊も含む米国主催の大規模な海上訓練としては初めて中国人民解放軍海軍が参加したことである。2016年の合同演習にはインドも参加する予定で、真にグローバルな協力のチャンスが生まれるであろう。
複雑で多国間の応答を要求されるサイバー戦争や気候変動などの問題に対する真剣な多国間の軍事協力は、私たちの未来であり、日本はこの現実を受け入れるために迅速に動く必要がある。
日本は、地域で新しいレベルの信頼を構築するために、環太平洋諸国から実務レベルの役員らを招聘し、新たな緊張を引き起こすのではなく、団結の機会になるようなRIMPAC――「対気候変動RIMPAC」を提案するべきである。このような新しい合同演習は、安全保障上の最大の脅威である気候変動に焦点を当てる必要があり、こうした合同演習には東南アジアと中央アジアの国々も協力できる。
NASAの有名な科学者ジェームズ・ハンセンは、最近の海面の急激な上昇についてのレポートで、気候変動の脅威に対するグローバルな対応を策定することは、アジアのすべての軍隊――特に海軍にとって最優先事項であるべきだと指摘する。
しかし、まだ我々は、軍の革命的な再編成および気候変動の緩和や適応などの課題に対応するために必要な話し合いすら開始していない。日本がリーダーシップを発揮できれば、自衛隊の若者に真の奉仕と献身の文化が根付くだろう。
この「対気候変動RIMPAC」における、気候変動に起因する幅広い安全保障の脅威の緩和および適応は、多くの形態を取ることができる。
対気候変動RIMPACの合同演習は、洪水時の避難、災害救援や嵐や洪水からの復興など気候変動に起因する安全保障上の課題のための訓練に焦点を当てられる。
2008年のサイクロン・ナルギスや2013年の台風30号(海燕)のような最近の超大型台風は、こうした対応がアジアでますます重要になってきていることを示している。このような嵐がますます北上すれば、我々はこれらの緊急事態へのグローバルで広範な協力が必要になる。
救助や救援演習に加えて、対気候変動RIMPACは、アジアの各軍(と米国太平洋軍)が幅広い用途で環境に優しい新技術を披露し、競い合うグローバルコンテストとして機能することもできる。こうした取り組みはアジアの各軍の間に、ネガティブではなくポジティブな競争をもたらす。
米国国防省の「エネルギーの信頼性と安全保障のためのスマートパワー・インフラストラクチャ・デモンストレーション(SPIDERS)」は、何ができるかを示す良い例である。SPIDERSプログラムは、2013年に世界で初めて90パーセントの再生可能エネルギーの入力を処理するマイクログリッドのテストを成功させた。
対気候変動RIMPACの参加国は、太陽光発電や風力発電、燃料電池、電力網、環境保全の実践や、利用多国間のプラットフォームを使用して海の状態を監視するための監視技術のなどの分野で、新技術を競うことができる。このような努力は、自衛隊やアジアの各軍を、恥ずべき資源の浪費者ではなく、環境保全のリーダーに変えるだろう。
こうした競争は、各国の軍を招待し、気候変動に関連する分野でそれぞれの先進性について論文を発表する国際会議を開催することで、さらに成果を上げることができる。
リサイクル、エネルギー効率、水の安全保障、電気モーターや砂漠化の防止に関連する軍事政策や新技術といったトピックを発表の対象にすればどうだろう。また軍事協定によってすべての無人島を開発を禁止する生態保護地区に設定し、紛争の可能性を減らすことも同様に重要である。
こうした対気候変動RIMPACは、2014年11月にオバマ大統領と習近平首席が会談で交わした軍事協力、気候変動への共同対応のための合意に基づいて構築できるが、軍の転換において日本を主要なプレーヤーにする方法で行うべきである。
福田康夫元首相は、1月4日付の日経とのインタビューで、中国と米国の間の競争の緩和に、日本が積極的な役割を果たしうることを提唱した。
「中東やウクライナ情勢が動いているにもかかわらず、距離が離れている日本はどうも感覚が鈍い。議長国として、解決の中心的な役割を果たさなければならない。来年は国連安全保障理事会の非常任理事国にもなる。世界秩序をどう組み立てるのかといった議論がもっと必要になる」
こうした意見は新しい日本の役割のためのインスピレーションにはならないだろうか。
最後に、対気候変動RIMPACは、気候変動の緩和および適応における軍の役割を専門的に扱う国際シンクタンクを設立する機会にもなる。
このトピックは今後ますます関心が高まるに違いないが、現状では気候変動における軍の役割に特化したシンクタンクが一切ない。気候変動に関する世界的な合意の上、気候変動への対応の一環として、軍事改革に焦点を当てたシンクタンクは、アジア各国の軍事指導者たちがいかなる政治的対立の恐れなしに、さまざまなトピックに関する議論を行える中立的な場を提供するだろう。日本がこのようなシンクタンクを創設すれば、平和憲法と整合し広くアジアに尊敬される自衛隊のための新しいグローバルな役割も明らかになる。
対気候変動RIMPACは、自衛隊を、世界中のパートナー、特に隣国である韓国、中国および米国と共に、21世紀の真の脅威に地球規模で取り組む組織に変えるための、大きな挑戦の一部である必要がある。