誰かに「こう生きるべきだ」と押しつけないで

緊急入院が決まり、男性社員に状況を伝えると、返ってきたのは「そういうこと、急に言われても迷惑なんですけど」...。
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妊娠3カ月で切迫流産。緊急入院が決まり、男性社員に状況を伝えると、返ってきたのは「そういうこと、急に言われても迷惑なんですけど」......。子どもを産んだ女性が働き続けるためには、制度があるだけではあまり意味がなく、周囲の協力と理解が必要不可欠です。ジェイ・キャスト社で初の産休・育休取得者だった蜷川聡子さんの寄稿です。

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妊娠3カ月で切迫流産。緊急入院が決まり、男性社員に状況を共有したところ、返ってきたのはこんな言葉でした。

「そういうこと、急に言われても迷惑なんですけど」

私が長男を妊娠したのは十数年前。会社規模が25名ほどで、まだ今はメインとなっているメディア事業も立ちあがっていないジェイ・キャスト社でひとり目の産休・育休取得者でした。

■自分の身体をコントロールできないもどかしさ

妊娠が発覚。普通の状態なら問題も少なかったのですが、3カ月で出血して切迫流産に。医師から「産みたいなら即時入院したほうがいい」と言われてしまいました。

その前に一度流産していたので、今度は失いたくなかった......。急で心苦しかったのですが、年上の女性上司に相談しました。

「今夜の会議にも出られないの?」と言われましたが、会議は夜に始まり、比較的長く、身体的にも負担のあるものでした。

「すみません。できれば......」

無理をすれば出られたのかもしれませんが、もしそれで流産してしまったら、後悔からもうこの会社では仕事が続けられないと思いました。生理現象である出産は自分で完全にコントロールできるものではなく、本人が精神的な余裕を持つことは難しいものなのです。

「わかったわ。じゃあ、他のスタッフにも伝えましょう」

会議や今後の進行は、編集部の先輩社員にお願いしました。私の部は女性社員が外出していたので、まずは男性社員に伝えることになりました。

■女性は出産のために休んで得をしているのか

会議室に彼を呼び、説明と今後の対応について上司から話をしました。「ということで、今日から聡子さんは入院することになりますので、よろしくお願いします」

上司からそう聞くと、彼は片頬をゆがめて冒頭の台詞を口にしたのです。

「そういうこと、急に言われても迷惑なんですけど」

ショックでした。自分のおなかの中の命が消えてしまうかもしれないということが、他人にとってはただの迷惑でしかないのかと。

確かに、急に仕事のスケジュールや体制が変わるのだから、周りに負担をかけることに変わりはありません。独身男性には理解できないのも仕方ないのでしょう。

「ごめんなさい」と言おうとした瞬間、横にいた上司が突然声を荒げて言いました。

「あのね、女性だって出産のために好きで仕事を休むわけじゃないのよ! 仕事を続けたい、もっとやりたいと思っても、女性しか産めないのだから仕方がないじゃないの! 女性には諦めなきゃならない苦しさもあるのよ!」

彼は納得していないようでしたが、上司の勢いに押されて黙ってしまいました。その夜から2週間、私は入院し、危険を脱して会社に戻り、出産の1カ月前まで元気に働くことができました。そして、無事に息子を産むことができました。

■制度さえあれば、働き続けられるわけじゃない

私のために声を荒げて訴えてくれた彼女は独身で、子どもはいません。でも、友人の悩みを聞いていたのかもしれませんし、彼女自身、仕事のために結婚や出産を諦めたのかもしれません。私よりも年上の女性の環境は、今よりずっと厳しかったでしょう。

いまも私はこの会社にいて、社員が70人になるまで成長する過程を見ることができました。それは当時からは想像もできないことで、本当に幸せなことです。

もしもあのとき「そうだよね、迷惑だよね、でも我慢してやってくれないかな」とか「出産されると今後のスケジュールが立てづらいので辞めてくれないかな」なんて言う上司だったら......。

彼女がかばってくれなかったら、私はその場で会社を辞めていたかもしれません。私は、彼女の一言に救われたのです。

彼女がいたから今の私があります。私と同じように妊娠や出産で不安になっている女性社員の声に耳を傾け、「落ち着いて、大丈夫だから」と励まし、勇気づけることができます。

子どもを産んだ女性が働き続けるためには、周りの協力と理解が必要不可欠です。もしずっと働き続けたければ、そのような環境がある会社かどうかを考えてほしいと思います。そして制度だけでなく、一緒に働く人たちも重要です。

■誰かに「こう生きるべきだ」と押しつけないで

余談ですが、「迷惑なんですけど」と言った男性社員は、その後まもなく退職。地方議会の議員になるべく立候補していました。そのときの公約が「子どもを持つお母さんたちが働きやすい社会を」。君がそれを言うのか(笑)。

まあ、あのときの反省が生きているならいいのですが。育った環境によって、誰にも偏見というものがあるでしょう。古い考え方の家庭で育った人も、さまざまな環境に触れることで、いつの間にか自由なものの考え方を身につけていくものです。

その性で生まれることを自分で選択できた人はいないし、性別で「女はこう生きるべきだ」などと押し付けられる筋合いはありません。これから、子どもを産みながら仕事のやりがいを感じられる女性がもっと増えていきますように。

この記事のライター

株式会社ジェイ・キャスト 執行役員。

1972年生まれ。商社系マーケティング会社を経て、2002年入社。2006年の「J-CASTニュース」創刊時には営業部長として、創成期のウェブメディアを支えるべく奮闘。現在は女性向け情報サイト「東京バーゲンマニア」、地域情報サイト「Jタウンネット」、クイズプラットフォームの「トイダス」の運営や、新規事業立ち上げなどにも関わる。2016年より現職。1男1女の母。

(2018年3月15日DRESSより転載)

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