日本ではまだ法的に認められていない同性婚。2月12日、渋谷区が同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、証明書を発行する画期的な条例案を3月に区議会に提出することが発表され、話題になりました。自治体が同性カップルをパートナーとして証明する制度は日本初といわれていますが、今後は他の自治体や企業、団体からもLGBTに対する取り組みが期待されます。ただし、欧米に比べ、日本企業や団体は、LGBTを視野に入れたコミュニケーションやサービスの開始に消極的なのも事実。
そんな中、大人カップルのためのウエディング情報を発信する結婚情報誌「ゼクシィPremier(プレミア)」(企画制作:リクルートマーケティングパートナーズ)は、2012年(当時はゼクシィAnhelo=アネーロ)から、毎号1組のLGBTカップルを他のカップルと変わらない形で紹介しています。「メディアとして、共に生きていくことを決めたすべてのカップルに真摯に情報を届けたい」という思いを込めて、編集長に就任して以来、LGBTカップルの誌面掲載にも取り組み、彼らの結婚式実現のために多大な影響を与えてきた小林隆子(こばやし・たかこ)編集長に話を聞きました。
「ゼクシィPremier」小林隆子編集長
男性同士で結婚式できる?
―「ゼクシィPremier」でLGBTカップルの結婚式を取り上げたきっかけを教えてください
きっかけは、昨年6月に青山で同性同士の結婚式を挙げた男性からの質問でした。もともと彼とは友人で、私が「ゼクシィAnhelo(現:ゼクシィPremier)」の編集長に就任した際に、彼から「日本では男性同士で結婚式を挙げられないの?」と聞かれたのです。私も知らなかったので、いくつかの会場に問い合わせてみたら、「大丈夫ですよ」という答えが返ってきました。でもLGBTの方たちにその認識がなくて。日本の法律では結婚が認められていないから、そもそも結婚式をしようとする人があまりいないのです。したい人は海外で挙式したりね。でも日本でできるのであれば、そのことをきちんと伝えるのがメディアの使命だと思いました。そこで、2012年8月発売号の「ゼクシィAnhelo」で初めてLGBTの結婚式を取り上げ、そこから毎号、ストレートのカップルと同じ形でLGBTカップルも必ず取り上げています。
LGBTウエディングを紹介する「ゼクシィPremier」
―社内の反応や掲載の反響はいかがでしたか?
社内から「やめろ」と言われることはありませんでした。ですが、93年創刊のゼクシィシリーズでも過去にLGBTウエディングを紹介したことがなかったので、「大丈夫?」という心配はされましたね。
でも反響はとても良かったです。カスタマーセンターにLGBTの方から「迷っている自分たちの背中を押してくれてうれしかった」というお礼のメールが届いたり、社内やブライダル業界の方々からも「いいですね!」と言われたり。Twitterでも、「ストレートのカップルと同様にさりげなく載せてくれていてうれしい」という声があって、そういう声を聞くと、「この企画は続けていかなくては」という使命感が湧きます。
―読者からネガティブな反応もあったのではないですか?
ネガティブというより驚きの声はありました。でも、それで良いと思うんです。LGBTの方々がいて、こういう結婚式をしているんだ、と知ってもらうことが大切だと思っています。
当たり前のこととして掲載
―LGBTに向けたサービスが「新たな市場」として注目が集まっています
「市場」といったマーケット発想で取り上げているのではありません。私は「二人で生きていくと決めた人たち」を応援したくて、LGBTの結婚式を紹介しています。誌面では「当たり前のこと」として、ストレートのカップルの事例と一緒にLGBT結婚式の事例を載せていますが、あえてその掲載については目次にも表紙にも触れていません。というのも、当事者の方にはさりげなく当然のこととして紹介することで安心感を持ってもらいたいですし、周りに当事者がいない、分からないという方にはLGBTについて理解していただきたいのです。そうすることで「アライ(=LGBTの用語で、LGBTを支援している人)」を増やしていくこともできるのではないかと考えています。
―中には、二の足を踏む企業もありますね
現代の社会背景を考えると、そうも言っていられないのではないでしょうか。今はさまざまなことが多様化している時代です。雇用形態ひとつをとってもそう。例えばワーキングマザーが増えていくにつれ、新しいサービスが日々生まれていますが、それと同じだと思います。変化のスピードが加速しているので、のんびりしてはいられないと思います。各企業がその変化にどのように対応していくのか問われていくでしょう。
祝福されてうれしい
―LGBTカップルの結婚式に出席されていかがでしたか?
結婚そのものが法律で認められていない分、ストレートの方よりも結婚式の意味合いが重いと感じました。式では「みんなに祝福され、認められてうれしい」というプリミティブな感情がまっすぐに伝わってきました。出席された方々もいろいろなことを感じるようです。ある結婚された方のお姉様は「ここにくるまで、弟が結婚式をすることの意味を頭ではわかっていたけれど、心ではなんとなく認められなかった。でも出席して、みんなに祝福されているところを見て、心から認められた」とおっしゃっていました。
―いわゆる社会的な「マイノリティ」はLGBTだけではありません
障がい者の方向けに車いす挙式のプランを作ったホテルもあります。機会があればそのプランで結婚式を挙げたカップルの事例もご紹介できればと思います。また、マイノリティというトピックではありませんが、私たちは再婚のことを「○2婚(まるにこん)」と呼んでおり、そのノウハウや結婚式の事例も紹介しています。
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今回インタビューに応えていただいた小林隆子編集長。明るく、ポジティブな空気をまとう中、真摯にメディアとして、「すべての結婚の形を応援したい」という思いが伝わってきた。多様化の時代を先んじて進むのか、リスクを恐れて、その一歩を踏み出さないのか、企業や団体のコミュニケーションはまさに分岐点に立たされているのではないだろうか。
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●大人の結婚情報誌『ゼクシィPremier (プレミア)』
ゼクシィPremierでは33歳からの大人なおふたりに向けて、結婚準備にリアルに役立つノウハウや会場選び、アイテム紹介などの情報と結婚式のヒントを1冊にまとめて紹介している。
『ゼクシィPremier』最新号(2月23日発売) (c)リクルート
(原稿:ショージ、ノッシー、ハセガワ)
(2015年2月26日「週刊?!イザワの目」より転載)