情報番組やバラエティ番組の制作の裏側には、番組で扱う企画そのものを提案する「放送作家・構成作家」という存在があることをご存じですか? テレビ業界で、いわゆる「作家さん」と呼ばれる人たちは、どんな仕事をし、どんな役割を担っているのでしょうか。また、企業の広報やPR会社、広告会社にとって、「作家さん」とはどんな存在なのでしょうか。テレビ番組の陰の立役者、「作家さん」に注目しました。
採用は15本に1本
関西系のバラエティ番組を中心に企画提案を行っている「作家さん」A氏は、週に10本もの企画を書くという。番組からのお題やテーマを元に、こんな人を起用して、こんなスタイルで、こんなことをする、と流れをざっとWORD2~3枚で書き、番組プロデューサーに提案することが多い。採用されるのは15本に1本程度。日の目を浴びずにお蔵入りしてしまう企画も多く存在するという。企画が採用になった場合でも、企画を実現するためには、今度は番組ディレクターとの入念な打ち合わせや企画のブラッシュアップ、台本への落とし込みが必要なため、終日、テレビ局の会議室に缶詰めになることもあるそうだ。
情報力が企画の命
一方で、いい企画を生むためには、「生の声を集める」ための情報収集が欠かせない。例えば、「大阪の美味しいカレー」をテーマにバラエティ番組用に企画を作る場合、単に雑誌やWEBで情報を収集するだけでは到底、企画には発展しないという。巷で美味しいといわれるカレー屋さんに行ってみるのは当たり前。そこで店長や常連客の、いわゆる「カレースペシャリスト」たちにいろいろ聞いてみる。そうすることで、「蛇の道は蛇ではないが、カレーに関する、より生きた情報を知ることができる」とA氏は話す。店探しはもちろん、店長や常連客がどんなキャラクターなのか、その店のカレーはどんな盛りつけで、どんな味なのか、自分で実感・体験していなければ、視聴者に響くコンテンツにはならない。情報力が企画の命、A氏はそう確信している。
しょっちゅう ぶつかり合い
一方、番組側にとって、「作家さん」とはどういう存在なのだろうか。情報番組などを手掛けるディレクターのB氏によると、作家さんは「一つのいい作品(番組)を作るための外部ブレーン。マンガで言えば、ひとつの作品の絵の部分をディレクターが描き、吹き出しを作家が書くイメージ」だと話す。具体的には、どんなイメージでその番組を作るか話し合った上でそれを文章化し、台本にするのが作家さんの役割で、その台本を元に、ロケをして編集し映像化するのがディレクターの役割だ。そしてその映像を見て、再び、作家さんがナレーションを書き、ディレクターが実際にナレーションを入れる。
それぞれが「その道の専門家」なので、あくまで仕事は「分業制」。ただし、いい番組を作るには、お互いの意思の疎通ができていなければダメだし、意見のぶつかり合いもしょっちゅうあるという。いろんなパワーバランスがあるので、一概には言えないが、いい作家さんとは、「ディレクターのこういうものを作りたいという思いを具体的にイメージできて、言葉でうまく組み立てできる(構成できる)人」だとB氏は感じている。
情報力と構成力
いろんなタイプの作家さんがいるだろうが、作家さんとは、番組を作る時に欠かせない「情報力」と「構成力」を持っている人、ということは間違いないようだ。情報爆発時代の今、この二つの力を有する「作家さん」は、テレビ局だけじゃなく、PR会社にとっても、大切な存在になる、と電通PRテレビ部 部長の岩井秀仁は言う。岩井に、イマドキのPR会社の「作家さん」との付き合い方を聞いた。
■岩井秀仁が語る 電通PR流、「作家さん」との付き合い方
職業柄、TV局のプロデューサーやディレクターはもちろん、放送作家・構成作家(以下、作家さん)との付き合いは濃いです。ディレクターはどちらかというと職人肌で、ひとつのことを追い続けるような、のめり込みタイプが多く、対して作家さんは、好奇心の塊でものすごく社交的というか、いろんなことに興味があって仕方ないみたいなタイプが多い。必然的に、それぞれから受ける刺激も変わってきますよね。
担当するコーナーをいかに充実させ、日々、いかに面白いネタを仕入れるかというのがディレクターの仕事だとしたら、作家さんは、新番組や新コーナーの提案や、人が面白がる仕組みそのものを考え出すのが仕事。つまり、テレビという超巨大メディアで、最大公約数の人が面白がるような「企画」を作り続けているわけです。子どもからお年寄りまで、誰でも理解できる言葉づかいで興味が持てる「企画」を考えるってすごいですよね。で、その企画を支えているのが、彼らの「情報力」と「構成力」。一緒に会議なんかに参加すると、作家さんの雑学王っぷりに感心させられるし、見る者を引き付けるための間合いとか見せ方とか、その「構成力」はまさに培われたセンスそのもの。ものすごい魅力ですよね。僕たち、PRに関わる者としては、この作家さんの「情報力」と「構成力」を使わない手はない。と言うとちょっと語弊がありますが、とても大切な存在なんです。
日々の情報交換でいいアイデアをもらったりすることはもちろん、例えば、PRイベントをやる時に、舞台の演出家としてタッグを組むということもあります。すると、カメラワークも考慮に入れたショーとしての進行演出案を提案してくれるわけです。作家さんは、日頃から視聴者や番組観覧者の目線を意識したり、タレントの個性を理解しているので、ちょっぴり奇抜なアイデアでも、クライアントやタレントにスムーズに通ったりするという効果もあります。僕たちがコンテンツを提案したり、作ったりしていく上での、ブレーン的存在なんですよね。いかに面白いコンテンツを作るかが重要な時代になってきているので、作家さんとのタッグはこれからますます重要になるなと感じているし、その可能性は広がっていると思います。
(原稿:マー、アイ、キダ、ノセ、フジタ)
(2014年10月2日「週刊?!イザワの目」より転載)