「幸せって相対的ではなくて絶対的なものだから、お金とか仕事内容じゃ決まらないでしょ」と豪語するのは、元2ちゃんねる管理人のひろゆきさん。
頭ではわかってはいても、天職が見つかれば、お金をたくさん稼げたら、違った生き方をすれば、もっと幸せになれるかもしれない──。そんな漠然とした不安な気持ちはなかなかなくなりません。
今回はひろゆきさんに「そもそも私たちはどうしたら幸せになることができるのか?」を中心に話を伺ってみました。
これからの時代は本業以外でワンチャン狙おう
園田:サイボウズ式でひろゆきさんに取材させていただくの、実は2回目なんですよね。
ひろゆき:ああ、あれですね。メール1本返信したら記事になっていてびっくりしましたよ。
園田:いつもはフランスにいらっしゃるんですよね。
ひろゆき:そうです。なので、先日発売された『働き方 完全無双』も、いま初めて担当者さんから受け取りました。
園田:そうだったんですか。今回タイミングよく日本でお会いできてよかったです。では、さっそく本の内容についてもお伺いさせてください。
今回は「本業とは別に、個人でワンチャンを狙うことをしておいたほうがいい時代です」と書かれていました。
これは「複業」のことを指しているのかな、と思ったのですが。
ひろゆき:趣味の場合もあるので、一概に複業だとは言えないですが、複業なり趣味なり、本業とは別の手段を持っておいた方がいいんじゃないかな、と。
たとえば20代で1億円くらい稼ごうと思ったら、本業だけがんばっても難しいですよね。
園田:それはつまり、稼ぎたい人に対してのアドバイスでしょうか?
ひろゆき:稼ぐことに限らないと思いますよ。
本業とは別にウェブ漫画を描いていたら、それなりのお金が入るようになる。本業よりは収入が下がるけど、好きなことをして暮らせるようになれば、そっちの方がいいって人もいるでしょうし。
園田:お金のためだけではなく、自分が好きなことをして仕事をするため、と。
ひろゆき:仕事って、お金をもらうことで誰かがやりたくないことをしているケースが多いわけじゃないですか。やりたくないことを仕事にしてる人もたくさんいるはずで。
そこから抜け出るには、大金をもつか、楽しい仕事を得るかの二択だと思うんです。
で、それは本業だけやっていても手に入らないから、別の手段をもつべきじゃないかな、と。
園田:なるほど。
ひろゆき:ただ、今の複業の状況を見ていると、本業の収入だけじゃ生活が精一杯だから、お金を稼ぐためだけみたいな印象があって。それはあんまり幸せではないですよね。
自分のやりたいこととか天職とか、そういうのってないんじゃない?
園田:仕事の悩みでいえば、そもそも「やりたいことが見つからない」って悩んでいる人も多い気がしていて......。
ひろゆき:うーん、別に、自分のやりたいこととか天職とか、そういうのってないと思うんですけどね。
園田:そうですか? やりたいことや自分に向いているものを仕事にする人は少なくないと思います。
となると、どうやって仕事を決めればいいのでしょう。
ひろゆき:自分のやりたいことを探すよりは、自分が苦じゃないくらいのものを基準にすればいいんじゃないですかね。
基本的に、自分の力よりもちょっと難易度が高いものをクリアした方が達成感ありますよね。向いていないものをちょっとずつうまく乗りこなしていくことの方が、何をやっても楽しくないですか?
園田:うーん。そうですね。たしかに「自分が成長しているな」って気持ちになります。
ひろゆき:そう。難易度がめちゃくちゃ高い、あるいはそもそも簡単すぎる仕事は、つまり向いてないんですよ。
たとえば、幼稚園児向けの教材って、今の僕たちが解くには超簡単。幼稚園児よりも正解を導き出すには向いているけど、楽しくはないじゃないですか。
園田:出来ることを繰り返すより、出来なかったことが出来るようになる方が嬉しいですね。
ひろゆき:でしょう。だから今の仕事内容が難しいんだったら、いろいろと試してみながら、嫌なことも乗り越えていって、「ああ、もう学ぶものはないな」となった段階で辞めればいいですよ。
仕事を向いている・向いてないで判断すること自体がナンセンス?
園田:では、自分で向いている、向いていないを判断すること自体がナンセンスだ、と?
ひろゆき:う〜ん。
ひろゆき:向いているかどうかって、本人の意思とは違うところにあったりしますからね。
たとえばプログラマーって、すごいやる気があるより、イヤイヤやってる人の方が出来るヤツが多いんですよ。
園田:それは意外です。やる気がある人の方が仕事に熱中して、いい業績を残すイメージですが。
ひろゆき:プログラムって「自分の手をいかにかけずに、コンピューターにやらせるか」を考えるもの。基本的に仕事が嫌いな人の方が向いているんですよね。
プログラム大好きな人は、自分でアルゴリズムを考え始めちゃったり、いかに早くするかばかり検討しているうちに、結局は途中であきらめたりしちゃう。
園田:なるほど。
ひろゆき:だったら、すでに作られたものをちゃっとコピペして使っちゃうような人の方が、プログラマーとして向いていることが多い。
園田:本人は天職だと思っていないけど、はたから見ていたら向いているというケースですね。
でも、それって個人の満足度とはまた違う話ですよね。
ひろゆき:それは長期的な視点で見たら、「あ、向いてたんだな」とわかる話だと思うんです。
だからやっぱり「やっていて苦じゃないこと」くらいの基準で仕事を考えればいいと思いますよ。
高級ブランドをもったら幸せになれると思ってるのはアホ
園田:続いて仕事とは切り離せない「お金」の話も聞かせてください。
ひろゆきさんは在学中に起業して成功していますよね。当時は「稼ぎたい」って意識がなかったと聞きましたが、本当ですか?
ひろゆき:そうですね。起業当時は会社を作ってみたかっただけの遊び感覚だったので。今もお金がほしいとは思わないです。
ただ、支払うのはめちゃくちゃイヤ。
園田:節約家なんですね。
ひろゆき:そう。そういう意味ではお金に執着があるし、実際かなりケチな方ですかね。
園田:それは昔からずっとそうなんですか?
ひろゆき:10代の頃はお金がなかったから買い食いもしてなくて。そのまま41歳になった感じです。
園田:「できない」からスタートしたんですね。そこから「お金がもっとあれば」とか「稼ぎたい」とは?
ひろゆき:手に入らないものをあきらめる経験って誰しもあるじゃないですか。
お腹が空いているからって、いきなり八百屋で売っている野菜をつかんで食べたりしないですよね。フェラーリが道路を走っていても、あれは僕のものじゃないから気にならない。
園田:でも、目の前のフェラーリを見て、欲しくなったりしません?
ひろゆき:うーん。ちょっとわかり合えるかわからないですけど。ブランド品に憧れているのを見ると、恥ずかしいお金の使い方をしている田舎者だなって思っちゃうんですよ。
園田:ええー。ちょっと偏見っぽいですけど。
ひろゆき:うん、もちろん田舎者に限らないんだけど。とにかく、僕はそういうお金の使い方をしている人たちを、アホなことをしてるなって思っちゃう。
GUCCIと書いてあるカバンを持つことで、幸せになると誤解している頭の悪い人にしか、僕には見えない。
園田:そ...そこまで! ひどくないですか......!
ひろゆき:ものすごくお金を払ってるのに、実際はただのカバンだし、意味ないじゃないですか。
そのお金は「無駄づかい」だって意識してる?
園田:うーん。たとえば、そのブランドのコンセプトに共感して身に付ける。これも幸せだと思うんです。
ひろゆき:別に自己満足だったらそれでいいんですよ。好きに無駄づかいすればいいんじゃないですか?
僕はタバコを吸っていますけど、それは無駄づかいだとわかっていますからね。別にタバコが社会とか文化にとってどんな意味をもって......なんて考えてないですもん。
園田:自分の中で「無駄づかいだ」とわかっていればいいんですね。
ひろゆき:そうそう。自覚があれば、お金が必要になったら止めればいいだけ。
ただ、いいことだと思って金を無駄づかいしてる人って、お金が足りないときに何を削ればいいのか、正常な判断ができないでしょ。それはあとあと困っちゃいますよね。
人と比べないで「幸せだな」って感じられるものを今すぐ見つけるべき
園田:無駄づかいが止められない理由のひとつとして、お金を使うことが自分の幸せと直結しているから、という面もある気がします。
ストレス解消にお買い物をしたり、おいしいものを食べたり。
ひろゆき:僕は多少お金をもっていますけど、別にお金を使わなくても楽しく暮らしてますよ。
園田:なんでそんな仙人みたいに暮らせるんですか......。
ひろゆき:お金と幸せは関係ないとはいつも言っているし、お金がなかった子どもの頃からそう思っているけど。でもわからない人にはもうわからないでしょうね。
だからもうお金さえあれば幸せだと思い込んでいる人には、何を言っても仕方ないって、最近はちょっとあきらめています。
園田:そこをどうかあきらめてもらわず、さらにお聞きしたいのですが、お金と幸せって本当に関係ないのでしょうか。
ひろゆき:たとえばビートルズって、リンゴスターの前にドラムだったピート・ベストっていう人がいるんです。
園田:はい。
ひろゆき:彼が脱退した直後にビートルズはメジャーデビューしてめちゃくちゃ売れましたよね。それを考えると、彼って一見損をしているように見える。
でも、彼は彼で好きなドラムで今も食えているから幸せだって言っているんです。
園田:収入がどうかではなく、自分が好きなことができているから?
ひろゆき:そう、結局、何かと比較をしていると、上には上がいるのでキリがないんですよね。いつまでも劣等感がつきものになりますよね。
園田:うんうん。
ひろゆき:比較をして幸せを感じるのは「自分よりも下がいる」という考え方で欲を満たしてしまっているからでしょう。
それって、必ず自分より上がいるってこととイコールじゃないですか。
ひろゆき:そういう構造の中にいるうちは、幸せを感じることはないんじゃないかなぁ。
だから、人と比較しないで幸せだなって感じられるものを見つけた方が、人生において楽しい時間は長くなりますよね。
でも、人と比較せずに幸せを見つけるのって難しい...「ならSNSを使わなければいいんじゃない?」
園田:でも、今ってTwitterやInstagram、YouTubeとか、インターネット上のSNSやサービスが日常生活と密接になっていますよね。
どうしても閲覧数とかいいねの数で、他人と比較されやすい世の中だなって。
そういった時代で、比較を気にしないで自分の幸せを見つけるって、すごく難しい気がします。
ひろゆき:いやもう、SNSを使わなければいいと思うんですけどね。
ひろゆき:だってInstagramって、その人のものすごい楽しい瞬間だけを切り取るわけじゃないですか。
その人だって、家にいるほとんどの時間はだらだらと過ごしているかもしれないけど、それはInstagramには存在しないんですよね。ああいうものを見続けていると、劣等感が生まれ続けるだけだと思いますよ。
園田:確かにそうですけど......。
ひろゆき:自分の友達や同僚が海外旅行してる写真とか、SNSで当たり前のように投稿されると、みんなどうしても比べちゃうみたいですよね。
それに比べて、アラブの石油王のInstagramはいいですよ。面白くてよく見るんですけど、完全に次元が違う話だから。
「白いヒョウを買ったよ」みたいな投稿を見て、「ヒョウって買うもんなんだ〜」みたいな。
園田:(めちゃくちゃ楽しそう......)。
ひろゆき:彼らは完全に異世界の面白キャラなので、まったく嫉妬とかしないですよ。SNSってそうやって楽しめばいいんじゃないですか。
映画もゲームも仕事も、没頭できるから楽しいだけ?
園田:ひろゆきさんが嫉妬しないのは、元々の性格ですか?
ひろゆき:うーん。やってみたときを想像してみると、そんなに楽しくないだろうなって、薄々わかってしまうのもあるかもしれません。
行った気とか持った気になるのがすごくうまいんですよ、僕。
ひろゆき:だから映画やゲームも、見る前や遊ぶ前に仮説を立てるのが楽しいし、たまに仮説を裏切ってくる脚本があるのがいいんですよね。
園田:なるほど。想像を超えるものがあるからこそ好きでいられるんですね。
ひろゆき:うん......。ただ最近は、映画やゲームが楽しいのは、実は違うんじゃないか?という仮説が自分の中で浮上していて。
園田:え、どういうことですか?
ひろゆき:「ゾーン」って知ってます?
園田:集中しているときに、ゾーンに入るって言い方をしますよね。
ひろゆき:そうそう。人ってものすごく集中しているときって幸せを感じやすいんです。やることがなくてボーッとしているときはつまらない。
園田:確かに楽しいことがあると時間が過ぎるのは早いです。
ひろゆき:ただ、それを楽しいから時間が進むのが早いんじゃなくて、時間の経過が早いから楽しいと感じるのではないか、という研究をしている人たちがいて。
それがゾーンと呼ばれる状態なんですけど。
園田:楽しいと錯覚している、と。
ひろゆき:そう。たとえば僕は昔、箸袋にひたすら割り箸を詰めるバイトしていたんですね。
最初はもたついていたんですけど、慣れてくるとだんだん楽しくなってくる。すごく集中してバーっとさばいていると、それなりに時間が経っていて、なんだか達成感があるんです。
園田:確かにそういうことってあります。つい夢中になっちゃう。
ひろゆき:じゃあ「割り箸袋に割り箸を詰める」という行為自体が楽しいのか、といったら違う。ゾーンに入っているから楽しいと人間が誤解するだけなんです。
園田:先ほどの、やっていて苦じゃないことを仕事にすればいいというお話につながりますね。
仕事内容ではなく集中できるかどうか、少しのハードルがあるかどうかによりますもんね。
ひろゆき:そう。そう考えると、そういう仕事の作業と同じく、映画とかゲームって没頭するメディアなので、集中しているから楽しいと誤解してるんじゃないかな、と。最近はその仮説を確認しつつあります。
ひろゆきさん流・オススメの(?)働き方
ひろゆき:最後にちょっといいですか。思い出したんですけど、僕、最近すごく手堅い働き方を発見したんですよ。
園田:え、それはなんですか?
ひろゆき:潜入レポです。昨年は週刊文春の「ユニクロ潜入一年」が話題になりましたけど、あの手法はウケるんですよね。誰もが知っている企業で働きながら、その内実を書き留めておく。
そして仕事を辞めるときに、潜入してましたって言い張って本を出すっていう。普通に働いた後でも、辞めたあとにボーナスがもらえるみたいなもんじゃないですか。
園田:えーっと、......訴えられません?
ひろゆき:まあ、そこは弁護士と相談ですかね(笑)。
インタビュー・執筆:園田菜々・編集:松尾奈々絵(ノオト)・撮影:二條七海