サイボウズ式:「人生の目的を見つけて邁進している」なんてウソ、「仕事の意味」ばかり考えてもしょうがない──田端信太郎×青野慶久

いま就活で焦っている学生や、将来に不安を抱く新社会人にとって、この両名との対話は今後の生き方を考えるヒントになるかもしれません。
サイボウズ式

"最強のサラリーマン"の異名をとるスタートトゥデイ・田端信太郎さん。サイボウズ社長・青野とともに、働き方や子育てについて語り合う公開取材イベントが行われました。

イベントレポート最終回では、前回に続いて就職活動中の学生や新入社員からの質問をピックアップ。「大企業かベンチャー企業か」「上司の古い価値観を変えるには?」「自分と向き合うってどういうこと?」など、さまざまな悩みや疑問が挙がりました。

いま就活で焦っている学生や、将来に不安を抱く新社会人にとって、この両名との対話は今後の生き方を考えるヒントになるかもしれません。

【質問1】彼女の両親は大企業を勧めるが、本当はベンチャー企業に行きたい。どっちを選べばいい?

質問者:就職活動中の大学院生です。いま就職先について、大企業とベンチャー、どちらにするか悩んでいます。

大企業に行けばいま付き合っている彼女と結婚できるのですが、僕はベンチャーに行きたいと考えていて。

田端:なんでベンチャーだと結婚できないんですか?

質問者:「研究開発に大きな投資をしている大企業で経験を積みなさい」と、彼女の両親からアドバイスをもらったんです。

田端:それは彼女の家の問題であって、あなたの問題じゃないよね?

青野:2人が合意すれば、憲法上は結婚できますよ。

田端:彼女の実家のためにやりたいことを変えるなんて、そんな馬鹿な話はないですよ。彼女に家出してもらえばいいんじゃないの?

青野:彼女のご両親とも仲良くしたいのは良いことだと思います。でも自分の気持ちを曲げてまで大企業に行って、モヤモヤしながら生きていくのが、本当に彼女やご両親が喜ぶことなんでしょうか?

田端:例えば、ご両親に「就職した大企業が東芝みたいになるかもしれませんよ。結婚って一生続くものですよね?」と話してみればいい。

それに誰もが反対しないような企業って、いまがピーク。あとは下がるだけですよ。

田端信太郎(たばた・しんたろう)さん。1975年生まれ。NTTデータを経てリクルート、ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN Japan(現LINE)で活躍。今年2月末にLINEを退職し、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」やPB「ZOZO」を展開する株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 室長に就任。7月には著書『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言』(幻冬舎)を上梓した。
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田端信太郎(たばた・しんたろう)さん。1975年生まれ。NTTデータを経てリクルート、ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN Japan(現LINE)で活躍。今年2月末にLINEを退職し、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」やPB「ZOZO」を展開する株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 室長に就任。7月には著書『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言』(幻冬舎)を上梓した。

青野:確かに「いい会社に入ったね」と上の世代が言うのは、僕らにとってのいい会社じゃない。

田端:そもそも彼女はどう言っているんですか? 一番大事なのはそこでしょう。

質問者:彼女にとって「家族と一緒に幸せになりたい」ことが、優先度が高いんです。

田端:転職や独立に対して妻が反対する「嫁ブロック」という言葉がありますよね。妻と話し合って説得して、うまくまとめることができない人は、ビジネスの交渉もできませんよ。

関係性を悪くしたいわけじゃないけど、そもそもあなたがどこで働くかはご両親に関係ない。それが理解されないなら、その彼女は諦めたほうがいいと思うけどなあ。

青野:結婚したら彼女との交渉は永遠に続きますよね。もし彼女との関係性がそのままなら、結婚生活が辛くなるんじゃない?

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、「会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない」(PHP研究所)など。
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青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、「会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない」(PHP研究所)など。

質問者:......そうですね。もう一度改めて、戦略を練って交渉します。

青野:もし譲れないポイントがあるなら、それをはっきりさせて相手に伝えないと、マッチングできないからね。

田端:どうぞお幸せに。

【質問2】自分は同期と比べて劣っている、という不安

質問者:社会人1年目です。いま研修を受けているのですが、このまま部署に配属されても成果が出せないんじゃないかと不安です。

田端:なぜ「できない」と思うんですか? まだ仕事を始めてもいないんですよね?

質問者:同期と比較して研修の成果が悪くて......これまで私自身、成功体験も少ないので不安なんです。

青野:いまは研修中のテストみたいなものでしょう? それは学校の成績が良かった人が点数を取れるんですよ。答えのない仕事に向き合うと、結果は全然違うかもしれない。

新卒で「こいつ優秀だな、伸びるな」と期待していても、意外と空回りするケースもあるし。当たらないものですよ。

田端:最初の2〜3カ月なんて、本当にわからない。

例えばリクルートでは、初受注を取ると天井から垂れ幕を下げられます。同期100人の中で、最後の2人になったら相当きつい。

青野:それはツラいですね。

田端:でもむしろそういう人のほうが、プレッシャーを受けて、深く考えるようになります。

口が上手くてパっと受注できちゃうよりも、「営業とは」「お客さんとは」「広告の本質的な価値ってなんだ」と、原体験としてビンビンに感じられるんですよね。

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青野:なるほど。できないからこそ深く考える、と。

田端:そうなんです。だから最初はとにかく量をこなした方がいいですよ。

青野:成長曲線って人それぞれ。めちゃくちゃゆっくりだけど止まらない、いわゆる大器晩成型もいますからね。

田端:ただ、研修なのにダメだと不安に感じるのは、あなたに「自分のプライドを守ろう」と防衛機能が働いているのかもしれない。あんまりよくない傾向だと思いますよ。

青野:それはどういう意味ですか?

田端:「ほらやっぱり、できないって僕は言ったじゃないですか」みたいに、仕事ができなかったときに「自分は正しかった」という言い訳をしてしまう。それは一番不幸なケースです。

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青野:なるほど。まずは「できない自分」に向き合わないといけませんね

【質問3】上司の古い価値観を変えるためには、どうすればいい?

質問者:入社3カ月目の新入社員です。上司の中には「残業することが偉い」と考えている人もいて、価値観の違いを感じる場面が多々あります。

新人ながら勇気を出して考えを伝えているのですが、説得するのはなかなか難しい。価値観を変えられる可能性についてお聞きしたいです。

田端:「他人の価値観を変えよう」とするのは、あまりいい努力とは言えないですね。本当に組織全体を変えるとなったら、5年、10年はかかる。

それに「自分は残業したくないから認めてくれ」というのは戦いがいがあるけど、残業したい人がするのは個人の自由ですよね。

青野:人の価値観を変えるのって、コストの割にリターンが小さいですよ

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青野:サイボウズは、いわゆる昭和型の働き方も良しとしています。ただし、他人に押し付けるな、と。

田端:なぜ価値観を変えたいんですか? 自分の幸せを越えた野望があるんですかね。

質問者:「上司にうまく気持ちを伝えられない人の代弁をすることが、自分のアイデンティティだ」と感じています。それが良いのか悪いのかわからないのですが。

いまの会社を5~10年かけて変えていく道と、きっぱり諦めて自分がフィットする会社に転職する、という2つ選択肢で迷っています。

田端:もともと、何を求めて入社したんですか?

質問者:ファッションに関わる仕事がしたい、と思って入社しました。でも、会社の問題が浮き彫りになっていくのを見て、「集団の中でチームワークを構築していくことに面白みを感じている」と最近気づきました。本当にやりたいこととはズレているな、と。

田端:だとしたら、転職したほうがいいですよ。

青野:本当に欲しいものが見つかったんですね。それなら一歩踏み出す勇気を持っておいたほうがいい。ずっと不幸な状態が続くだけですからね。

【質問4】「自分と向き合う」って、どういうこと?

質問者:いま就職活動中です。先ほど最終面接を受けてきました。そこで「あなたはスキルとやる気はあるんだけど、マインドが追いついていない」と言われました。これまでアルバイトも勉強も、表面的にこなして生きてきたのかもしれないと感じています。

「スキルとマインドが釣り合っている」とは、どういう状態ですか? お二人はどうやって、自分自身と向き合っているのか教えてください。

青野:スキルが先行しちゃって、自分が何をやりたいのかあまり考えていなかった、と。そんな感じかな?

質問者:はい。

田端:ビジネスにおける自分との向き合い方って、結局「他人とどれくらい向き合ったか」ですよ。

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田端:例えば僕は、中毒みたいに毎日ツイートしています。それは苦しいことではなく、好きなことをやっているだけ。

「よくあんなにツイートできますね」と言われるんだけど、むしろ「みんな、世の中に対して言いたいことないの?」と思う。

青野:ははは(笑)。

田端:「こんな簡単なのに、なんでみんなできないの?」「こんなことでお金もらっちゃって、申し訳ないな」みたいなことを、得意分野にした方がいい。

玉ねぎの皮むきみたいに、自分探しばかりやっていてもしょうがない。とにかくいろいろやってみて、自分は苦じゃないのに、他人が喜んでくれたり感謝されたりすることをコアにするべきなんじゃないかな。

青野:人間の細胞って、最初にどんな形になるか決まってなくて、「お前、骨になるんだ。じゃあ、俺は皮になるよ」みたいに、まわりとの関係で決まるらしいです。

そういう意味では個性も、もともと持っているものじゃなくて、他人との関係性で決まるんでしょうね。

田端:「皮をむいていったら、最後に本当の自分が出てくる」なんて、実際にはありません。人と人とのぶつかり合いの中で、結果的に生まれるものじゃないですか?

質問者:私も同じ考えです。とにかく行動をして、いろんな学びを得て、自分のものにしてきた。でも、その採用担当者からは「外から得られるものだけじゃなくて、自分と向き合うのも大事だ」と......。

田端:一般論として、その人の意見が間違っているとは思わないですよ。でも自分と向き合うって、具体的に何をするんですかね?

青野:僕はいまでもずっと、自分を探していますね。

2012年ぐらいから、サイボウズの売上が上がり始めたんです。ああ良かったなと思う一方で、モヤモヤした。なぜか毎日ぜんぜん楽しくない。

そこで初めて「売上を伸ばすんじゃなくて、社会を変えたかったんだ」と、一人の時間を作って、自分自身に向き合うことで気づけた。

田端:なるほど。特に30代で子どもがいて、仕事も忙しい人は、完全に一人になれる時間って作ろうとしないと難しいですね

サイボウズ式

青野:田端さんはそういう時間を意識的に作っているんですか?

田端:そうですね。週に1〜2時間でもいいから、カフェでぼんやりするとか。あえていうとそれかな、自分と向き合う時間は。

青野:僕の場合は子どもが寝たあと、1~2時間ぼんやりすることがあります。そういう切り離しの時間って、案外大事かもしれませんね。

【質問5】「この業界は自分に向いている」のは勘違いだと気づいた

質問者:私は就職活動をする中で、自分の軸が大きく間違っていることに気づき、正直者でいることの難しさを痛感しました。

自分の「本当の想い」を掘り出していくために必要な心構えを教えていただきたいです。

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青野:就職活動の途中で「求めているものはコレじゃなかった」と気づいたんですね。なぜ違うとわかったんですか?

質問者:ある企業で長期のインターンシップに参加していました。そこである程度の知識を得て、「この業界に向いているんだ」と思いこんでしまったんです。

でも改めて考えると、「違うかもしれない」と気づいて、かなりショックを受けました。

青野:気づくタイミングとしては、僕より3〜4年も早い! 僕なんか、何にも考えずに大企業に入って「ここで一生、安泰に過ごそう」と考えていましたからね。

田端:「正直者でいる」って美徳だと捉えられがちだけど、そうじゃないんですよね。

「金が欲しい」「異性にモテたい」「目立ちたい」みたいな、欲とか煩悩とか醜いところも含めて、どれくらい謙虚に自分を見つめられるか。僕が言う「正直者」って、そういう意味なんです。

その業界に向いていると思った理由は何ですか?

質問者:「これならできる」という自信を持つことができたからですね。ただ、それが逆に自分自身の視野を狭めてしまった原因なのかな、と。

インターンシップで得たことはいっぱいあったのですが、それによって本質的にやりたいことの欲求を見えづらくしてしまったのかもしれません。

青野:なるほど。

サイボウズ式

青野:サイボウズでは「モチベーション創造メソッド」があります。「できる」と思うと、モチベーションは上がる。でも、それによって思い込みが発生して、本当にやりたいことではなかったと気づくこともある

野球が得意だけど、実はサッカーが好きだった、みたいな。これはどう向き合っていけばいいんでしょうね?

田端:社会学者の宮台真司さんが著書で「意味」と「強度」の話をしていました。

みんな、仕事の意味とか社会的意義を考えてしまう。それはそれで立派だけど、常に意味ばかり考えていてもしょうがない。

青野:強度とは何ですか?

田端:例えば世界的なサーファーが、誰もいない海でいままで乗ったことのない大きな波に乗っていたとする。その瞬間はきっと、自我を忘れています。

サッカー日本代表も「今日ここで試合をやる意味は?」なんて考えてもしょうがない。ホイッスルが鳴ったらとにかく相手のゴールに蹴り込む。それこそがスポーツの面白さですよ。

青野:確かに。

田端:真面目な人ほど仕事の意味とか、向いているかどうかを深刻に考えちゃうんだけど、「とりあえずその場が楽しければいいじゃん」という気持ちも半分くらいあったほうがいいと思いますよ。

青野:そうですね。それにさきほども話しましたが、やりたいことって僕もまだまだ模索中ですからね。

田端:みんなそうですよね。

青野:「あの人は人生の目的を見つけて邁進している」とか言うけど、ウソですよ。

田端:意味偏重が危険だと思うのは、死ぬ直前になって「俺の人生、意味なかった」と気づいたら大惨事じゃないですか。

青野:ははは(笑)。

サイボウズ式

田端:「意味はなかったかもしれないけど、とりあえず毎日楽しかった」と思えれば、それでいいのでは? 

青野:それくらい達観できると、人生楽しめそうですね。

文:村中貴士/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:小原弓佳

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年9月5日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。