ここまでできる!?「DNA折り紙」の最先端(1) ~入門編~

「DNA折り紙」という技術をご存じですか? 一言で述べるなら、DNA鎖を折り曲げ、ナノスケールの構造体を作り上げる技術です。

「DNA折り紙」という技術をご存じですか? 一言で述べるなら、DNA鎖を折り曲げ、ナノスケールの構造体を作り上げる技術です。

2006年の報告以来、大きな夢を感じさせるアウトプットが続々と報告されているのですが、その一方でビジュアル的にとても面白いという希有な特徴も持ち合わせています。我が国の伝統芸能とは元来無関係なはずですが、美的側面はまさに「Origami」の名を冠するにふさわしいものです。

この未来的技術・「DNA折り紙」の進展について、総説[1]を参考に数回にわたって紹介していきたいと思います。

まずは「DNA折り紙とはなんぞや?」というお話から。

DNA分子は皆さんもご存じの通り、決まった相手とだけ二重らせんを組む性質があります。この現象を応用してナノ構造体を作ろうとする研究は、Nadrian C. Seemanという研究者によって開拓されました。

初期に作られたもっとも有名な一つが、Seemanの立方体と呼ばれる構造体です。下図に示す通り、選択的のり付け部位をもったDNAモチーフを設計し、それらを頂点として互いに組み合わせて立方体を組みあげます。

このように、彼は特定のDNAモチーフを設計しながら様々な構造体を作り上げ、「構造DNAナノテクノロジー」と呼ばれる分野の基礎を築きあげました。[2]

(画像:論文[2]より)

その後しばらくの年月を経た2006年、「DNA折り紙」技術の電撃的な報告がなされました[3]。カリフォルニア工科大学の若き研究者・Paul Rothemundによるものです。

DNA折り紙法の特徴は長い一本鎖DNA(~7000塩基)とstaple strand(短い相補的DNA鎖、多くは32塩基)を組み合わせる工夫にあります。これらを混ぜて加熱・冷却することで長鎖DNAを折りたたませ、望みの構造に落ち着かせます。根底を流れる考え方はSeemanの方法と共通ですが、大きなサイズの構造体が信頼性高く作れる(~100nmサイズ)ことに加え、特定の「住所」を持つstaple strandに好みの機能を付与できることも際だった特徴です。

Rothemundはこの技術のデモンストレーションとして、複雑な構造をもつ平面(2D)構造体を多数作り上げてみせました。中でも目を引く有名なものは、ナノサイズのスマイルマークや世界地図でしょう。こんなものがDNAを混ぜるだけで自動的に組み上がるのですから、驚くほかありません。もっと見たい方は、関連動画のTEDプレゼンをご覧ください。

(画像:論文[1]より)

まだ新しい技術なのですが、現在までの発展は実に目覚ましいものがあります。Rothemundの成し遂げた2D構造に加え、最近では立体(3D)構造も構築できるようになっています。さらにはスイッチ分子によって構造変化を起こすなど、機能を持つ構造体も登場しています。

ビジュアル要素だけでもこの上なく楽しい技術ですが、具体的にどんな使われ方をしていくと思いますか?まだまだ開拓余地の多い技術ですから、科学者の果てなき想像力と夢が応用の地平を拓くといえます。アイデア次第では、読者の皆さんでも優れたアウトプットが出せるかも!?

次回からは、そんな最先端研究を少しずつ紹介していきたいと思います。

関連動画

関連文献

[1] "DNA origami technology for biomaterials applications" Endo, M.; Yang, Y.; Sugiyama, H. Biomater. Sci. 2012, 1, 347. DOI: 10.1039/c2bm00154c

[2] "DNA in a material world" Seeman, N. C. Nature 2003, 421, 427. doi:10.1038/nature01406

[3] "Folding DNA to create nanoscale shapes and patterns" Rothemund, P. W. K. Nature 2006, 440, 297. doi:10.1038/nature04586

関連リンク

DNA:ナノ素材からナノマシンへ (サイエンスあれこれ)

DNA折り紙の作り方(気ままに有機化学)

(2014年6月26日chem-station「化学者のつぶやき」より転載)

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