「女性の活躍」のために理解しておきたい、その背景や女性特有の考え方。エン・ジャパンで行なわれたプロノバ代表・岡島悦子さんの講演内容をお伝えします。
■「女性の活躍」のために男女とも知っておきたいこと
国・地方の行政レベルだけでなく、どんな会社でも「女性の活躍」を掲げる昨今。しかし声高に叫ばれているにもかかわらず、大きな変革は未だ見受けられていないのではないだろうか?
「女性の活躍なくして、成長なし」とも呼ばれる現代、いかにして女性はキャリアを形成していくべきなのか?
プロノバ代表の岡島悦子氏がエン・ジャパンで行なった、「女性の活躍推進」の背景や女性特有の考え方、キャリア形成などをテーマにした講演の模様をお伝えします。軽妙な語り口で、自身の経験を交えた話が展開されました。女性だけに限らず、男性も理解しておきたい、「女性の活躍・キャリア」に関するヒントとは。
[プロフィール]
岡島悦子 Etsuko Okajima
三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年、グロービス・マネジメント・バンク事業立上げに参画。2005年より同代表取締役。2007年、経営チーム強化により企業の成長戦略コンサルティングを行なうプロノバ設立。年間200社以上の経営者の「かかりつけ医」として、経営者開発を行なう。成長戦略支援の一環として、組織の多様性推進支援を手がける。50社以上の企業で約5,000人に女性活躍推進の講演・ワークショップなどを実施。
■「女性活躍推進」の背景とは?
多様性推進、女性の活躍推進に関する話題を、最近よく耳にすると思います。ただ、「女性の活躍推進」とは具体的にはどんなものなのか?何をしようとしているのか?と思うのではないでしょうか。
多様性推進が叫ばれる以前はどうだったのか。いわゆる「同一化、均質化」が、今までの多くの企業の育て方、勝ち方だったんだと思います。新卒一括採用で入社すると、社宅にも入って、異動もしながら、同じ会社の中で研修を受け、同じ色に染め上げられていく。だから、同じインプットをしたら、全ての人が同じアウトプットをできるようになる。
効率よく成長できる状態なので、景気が右肩上がりの時代には適合するシステムだったわけです。ところが、経済が成熟し、成長が停滞してくると、これが機能しなくなってくる。みんな同じものを食べているので、変化にすごく対応しにくく、集団食中毒のような状態になる。そして、変化の激しい現代に何を考えたか。それが「非連続のイノベーションのためには、多様性が必要」ということでした。
新しい視点がないと新しいもの生まれないよねということです。その「多様性」を構成する要素としての「女性の活躍推進」です。組織が潜在的に抱えているにもかかわらず、活用し切れていなかった経営資源が女性ではないか、ということです。従って、女性活躍推進は多様性推進の一つ目のきっかけです。
■ 企業の「女性活躍」は単なるアリバイづくり?それとも本気?
一方で、多くの企業が間違えていることが、実はよくあります。私はそれを「アリバイづくり」と呼んでいます。見た目は女子が増えたけど、みんなチャック女子。後ろにファスナーがついていて、着ぐるみは女性だけど、中身はおじさん。思考も視点もおじさん化しているとすると、多様性には貢献しないですよね。それだと結局男性だけと変わらない。それでは新しい視点はない。
新卒や中途入社、時短勤務、在宅勤務の人が多様な働き方で働き続けられる環境が必要。そうすれば、生活者としての視点も思考も多様なものを持ちこむことができ、一層イノベーションが生まれるのではないかと思います。
ところが、組織マネジメントが大変です。多様な価値観の人がいるので、何をするにも「なぜ?なぜ?」と、いろいろ聞かれる。私は経営者の方に、「どっちの薬(考え方)で御社は行くのか?」といつも聞きます。もし「アリバイづくり」でいきたいなら私がお手伝いする必要はない。ダイバーシティでもない、ただのラベルの張り替えじゃない?という感じですね。本当の意味で、女性の活躍を推し進めようとすると、時間当たりの生産性をベースにした評価制度など、いろんな制度を作らないといけないし、そのための環境整備についてもきちんと考える必要があります。
■ 制度ありきではない。運用できてこそ。
制度を作ればいいというわけではもちろんありません。問題は運用です。先日、ある企業で講演させてもらった際の話がいい例かもしれません。その会社の女性活躍支援制度はものすごく充実しているんです。でも「生理休暇」なんて、取っている人を聞いたことが無いという話で、みんな「わかる~」って笑ってたんです。
なんとなくアリバイ工作でダイバーシティー推進をやろうとすると、一時的なファッションやブームで終わってしまうんだと思います。「多様性のある組織」を目指すなら、企業側が必ず苦い薬を飲まなければいけません。要は組織変革をする、ということなので、経営陣の覚悟と継続的な努力が必要になります。それでも、この薬を飲むという会社が増えてきていると感じます。
組織の中でも女性個人の意識を改革していくことが必要です。また、今までの男性中心の枠組みを変革することになるため、上司や男性の意識改革と理解も重要になります。そして、経営トップの覚悟と啓蒙活動が肝心です。「多様性・女性活躍推進が我が社の経営戦略だ」と、トップが言い続けていくことが大前提になる。女性・上司・経営者が三位一体で取り組んで初めて、価値が出るんだと思います。
■ 妙齢女性がかかりやすい10大疾病
女性自身の意識改革や男性・上司の理解が必要とお伝えしましたが、現代の女性の意識・特徴はどんなものなのか?ということについて。女性管理職を増やすためのワークショップを5,000人以上の女性たちと行なってきた中から見えてきた、女性の意識の課題を「妙齢女性がかかりやすい10大疾病」にまとめてみましたので、お話してみます。ポイントは"妙齢"です。女性をマネジメントされる男性にも、ぜひ頭にいれておいてもらいたい内容です。
●アクセサリー勝負病:
私が唯一かかっていない10大疾病がこのアクセサリー勝負病。何かというと、入社したときに、かわいいことが強みになること。かわいいから、上司が新人を武器にする。そうすると、27歳くらいで賞味期限がくるんですね。22から27歳までの間に、見た目だけで甘やかされて仕事しないでいると、28歳になった時に、周回遅れどころか3周遅れくらいになる。
●嫌われたくない病:
なるべく、空気を読んで嫌われないようにしようとする。私も重症でした。私は25年前三菱商事に総合職で入社しました。当時、女性の新卒総合職同期は2人で、百数十人の一般職の中には、自分より優秀な人もいました。私は何を思ったか、こんなキャッチフレーズでいこうとしたんです。「岡島さんは、総合職だけどイイ人だよね」。
いま考えればよせばいいのに。週に3回くらいは上司とランチしますが、週に2回くらいはその同期の女性たちとランチしていたんです。そしてお茶くみもして、コピーも何でもやっているので、ものすごく仕事が蛇行する。同期の男性と比べると、直線距離で走れてないんです。これがすごく問題。それで、みんなどうするかとい言えばすごく真面目なので、週末出勤・残業をがっつりすることになります。
●体力過信病:
20代はこれでいけます。30代でだんだんつらくなる。そして40代になると耐えられないかもしれません。ずっと体力だけで量で稼ごうというのは難しくなっていきます。
●過小評価病:
管理職にならない?と言われても「まだまだ無理です。」と言う。女性は3回くらい「お願い」というと「Yes」と言うらしいですね。でも、2回くらいで上司も言わなくなる。ここに期待値の差がある。おそらく新卒で優秀な人をとると、最初は女性の方が高い成果を出す事が多いと思います。多分、3年目くらいまではMVPを女性がとってると思うんです。でも少しするとエネルギーが奪われて、失速してくるんです。自分で勝手にサイドブレーキ踏んじゃってる感じ。
●出世嫌悪病:
「管理職やらない?」とせっかく言ってもらっても「まだまだ無理です」という。「無理」と言っていた挙句に、今度は「私はお客さんが大好きなんです」「お客さんから離れたくないんです」と、出世なんて汚いと決めつけたりする。やったこともないのに決めつけて、成長の機会を遠ざけてしまう。
●キャリア迷子病:
入社10年くらいすると、はたと「自分の強みは何なのか」「キャリアはこのままでいいのか」と迷いだす。考えても答えの出ないことを悩みすぎるとキャリア迷子になります。「いまは独身で、死ぬほど働いているけど、この働き方はずっとできるものではない」という感じで迷い始める。自分より若い後輩の成長が見えてきて、迷いも深くなる。そこで、「結婚は?」と聞くと「してない」という。「彼氏は?」と聞くと「いません」という。「なにを心配してるんだけっけ?」という感じ。"不安お化け"がどんどん出てくる。女子会ばかりして「いい男いないよね」みたいな話をしていると、さらに不安が増殖していく。
●白馬の王子待ち過ぎ病:
一方では、どこかで楽観視していて、こんなに頑張っているんだから、きっと白馬の王子様が現れるはず、と根拠のない妄想をし始めます。運命の人に突然出会ったり、良い転職話が舞い込んできたり。
●努力安心病:
例えば資格を取ろうとする。手に職をつければ食べていけるにちがいないと思うんですね。もちろん資格が悪いとは言いません。問題は、資格取得に逃げている場合。資格は努力の方法がわかりやすいので、やっている気になります。すると、努力している自分が好きになるんです。確かに努力していると安心しますよね。その努力が、自分の仕事の延長線上にあればいいけど、努力すること自体が目的になって安心するという逃げはよくない。
●燃え尽き逃避病:
キャリアについて悩んだし、資格も取ったし、体力も限界まで使って頑張ったが、「もう無理」と思い、あきらめて逃げてしまう。これが30代後半にくると、目もあてられない。これを抜け出すにはどうすればいいか考えだすと、「いいや、おじさんになっちゃえ!」と。
●チャック女子病:
先ほどお話した、中身はおじさんの女性です。「わたしはいくらでも飲めます、何時まででも飲めます。どこまででも付き合います。」こういう感じになる。20代はアクセサリー女子。30代で迷い過ぎな「死の谷」。鬱々として。そしてその先には、女性の視点を見切ってしまったチャック女子がいます。このような分布になっている組織では、必ず「会社の中にロールモデルがいません」と言われます。チャック女子は後輩たちの目指したい姿ではないようです。そして、チャック女子は男性以上に後輩女性に対して見方が厳しいケースも多いようです。
■ 女性のキャリア開発には前倒しが必要
女性・男性によってキャリア開発の方法は違うのかと質問されることもありますが、結論は同じ。ただ出産を考えているのであれば、そこには時間差があります。「子どもを産もうとしていたら」が曲者です。生みたいときに必ず生めるかどうかわからない。それから、生みたくないと思っていても、いずれ生みたくなるかもしれない。この2つは今のうちに少し頭に入れておいたほうがいいでしょう。
それも踏まえたキャリアの選択肢を考えたときにどうなの?ということ。出産を考えている人は前倒しのキャリアをオススメします。「子供を産むのは遅くてよい」という話ではありません。ただ、正直、子どもを産む前に勝負は付いていると思うんです。出産前に「戻ってきてほしい」と思える人財になっているか、泣いている子どもを預けてでもやりたい好きな仕事に就いているかで勝負がついている、という意味です。この状況になるためにも必要なのは、会社との信頼貯金。上司・同僚への信頼貯金を高めていけるといい。必要な人財、求められる人財になれていれば、復帰がしやすいわけですから。
だから女性は、前倒しのキャリア開発が必要だということです。20代、ボヤボヤしている場合じゃないですよ。女性のキャリアを考えるときに、出産する時期・管理職に上がる時期・異動の時期の3重苦が一緒にくることが多いと言われています。
ですから理想としては、出産前・30歳までに、ジョブローテーションで3部署くらい経験しておいたほうがいいですね。復帰後に戻れる部署の選択肢を最低限3ヶ所確保できます。
異動を経験していると、「アウェー力」や「適応力」がつく。初めての異動はすごくドキドキしますが、仮に失敗しても20代のうちなら致命的にはなりません。だから、早めのジョブローテーションをお勧めしたいのです。とにかく打席に立って、色々な経験を積むこと。小さな実績を重ねたり、変化への対応力をつけておきましょう。小さなことでもいいので、成功したらそれを認めて自信に変えていく。これは驕りではなく、健全な自信だと考えています。若手や女子はとにかく自信がない。早いうちから自信を持てるようにならないと、10大疾病にかかりやすくなってしまうんですよ。
■「自分のタグ(強み)探し」で自信を掴む
経営者の方が人をプロジェクトなどに登用する時、脳内検索をしていることが多いんです。「海外に出していい人は?」「英語が話せる人は?」など、仕事ごとに誰が向いているか、脳内検索をする。この脳内検索をされる時のキーワードを「タグ」と呼んでいます。
「タグ」は、小さな強みの掛け算で出来上がっているんですね。「強み」と聞くと大きくとらえ過ぎるので、できるだけ小さく要素分解します。「営業」というと大きすぎ。適度な細かさのレベルは、課題×業界×機能と考えると考えやすいです。例えば、『中途採用支援』×『広告営業』×『新規顧客開拓』×『ベンチャー企業』×『経営管理人材』×『...』といった具合に。掛け算をすることで希少性が増し、それがその人の「強み」になる。もちろん、タグの市場性も考える必要があります。自分にいくつかのわかりやすいタグがあって、周囲にそのタグが流通していると登用されやすくなります。
またタグの数ですが、1つだけだと難しいでしょう。複数のタグを同時に持つことでより多くの脳内検索に引っかかるようにしなくてはいけません。他の人に「あいつならできる」と流通している=認識されていると打席に立てる機会が増える。いくつになっても平等なチャンスがあるという甘えは捨てて、自己責任での機会開発が必要だと思います。
こうやってタグを増やしていくことで、自分に自信が持てて、活躍するチャンスがもらえて疾患が防げます。女性にとって、承認欲求と不安お化けが疾病の原因になりがちですから。
また女性は意識して、少し斜めの人とコミュニケーションをとって解決するといいです。同じ属性の人と話していても問題は解決しないですし、不安は増大していくだけ。横だけではなく、縦や斜めの人脈を社内外で上手く作ることをお勧めします。
■ 女性のマネジメントにおいて、組織とリーダーがすべきこと
ここまでお話してきましたが、組織・上司がすべきことは『女性社員のマインドセットの強化支援』と『経験の機会の早めの提供』、そして『能力開発支援』です。
まじめに働いている女性はみんな、10大疾病のどれかにかかっています。会社・そして上司はどうやったら予防・ケアできるのかをぜひ考えていただきたいです。
女性は、承認欲求がすごく高いいきものです。「ありがとう」と言われたい、社内で認められる人になりたい、と思っているから、目標をしっかり持たせて、しっかり褒めてあげてください。
ただ、この褒め方が難しい。女性は自分だけ褒められると「そんなことない」と言うはずです。嫌われたくない病ですから、自分だけがスタンドプレーをしたと思われたくない。一方で、取り残されることも嫌います。例えば、チームで褒められているのに、チームの中で自分だけが名前を呼ばれない、ということを嫌います。全員の名前を言うのが大事。また叱り方もコツがあります。共感を示しながらフィードバックをしっかりする。しっかり観察して、人と事を分けて叱る=フィードバックすることが大事です。
女性をマネジメントする上司や男性の方は、女性の意識や考え方、特徴を理解することによって、コミュニケーションのもったいなさを軽減できる余地がまだあると思います。プロフェッショナルとして育成することは大事ですが、理解・納得させるコミュニケーション手法が男性と女性で異なる、という意味です。
■ 相互理解を深め、どれだけ本気になれるか
いかがでしたか?
女性の活躍の背景から、その実現に必要なことまで、学びが多い内容だったのではないでしょうか?「女性の活躍」に必要なものは、理解・制度・運用など多岐にわたります。
女性、男性、マネジメントする企業、それぞれがお互いを理解、尊重することが「多様性の実現」「女性の活躍」の第一歩になるはずです。
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