特集「最強チームの作り方」では、チームで仕事やプロジェクトを進める際の考え方やヒントを探ります。今回はチームを導く「議論」について。「現実を変えない意見を言うのはほとんど時間の無駄です」と話すのは、ベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会 委員長に就任した 明治大学文学部 齋藤孝教授。若手ビジネスパーソンがチームリーダーになった時に抱える「議論」の悩みを解消してもらいます。
(前編:"「リーダーになりたくない」は「仕事をしたくない」という表明と同じ"、中編:"プレイングマネジャーが力を発揮するとチームはダメになる?"も併せてお読みください。)
■意見はダメ、現実を変えるアイデアを1個出そうよ
――「新しい意味や価値を生み出す」チームに脱皮するために意識すべきことは?
僕は3,4人のチームを組んだら、「現実を変えるアイデアを1個出して」と必ず言い、それを課題にしています。現実を変えない意見を言うのはほとんど時間の無駄ですから、「意見だけをだらだらとしゃべったらダメだよ」と伝えます。僕は、世の中は「現実を変えること」の1点で動いていると思うんです。
――アイデアが出しにくいと考える人も多いと思います。
それは失敗を恐れているからかもしれません。誰かのアイデアをチームで遂行して失敗した時に、アイデアを出した人は責任をとらなくてもいいんですよ。「誰のアイデアか」ではなく「それを採用したチームの失敗」だと考えるようにする。シュートをした人だけを攻めてはいけませんし、逆にチームの誰もがゴールを狙っていい。
失敗を恐れて前に進めない場合は、「失敗」という言葉は使わないようにしてみましょう。僕はよく「ナイストライ!」という言葉を掛けて、どんどんアイデアを実行していくようにしています。
失敗しても「これはナイストライだったね」と拍手をして、「次は二度とやらないようにしよう」とすればいい。僕もありますよ、「この書籍のタイトルはナイストライすぎて、もう二度とやらないようにしようね」なんてこと(笑)。ナイストライを、チームみんなで一緒に笑い合って、次に生かせばいい。
笑うことも大事ですよ。「やっちゃったね」「逆効果だったね」なんて笑いながら、失敗に対してチームで機敏に修正すればいいだけですから。失敗が問題になるのは、修正力がない場合です。修正する勇気とスピードさえあれば、過度の失敗は恐れなくてもいいんですね。
■ネガティブな意見を出しても、「しゅんとするか」「むっとするか」だけ
――「アイデアを出す」のは、チームで議論をする場合が多いですよね。奥山清行さんの書籍『100年の価値をデザインする』では、「日本人は気持ちを読もうとするスキルは高いが、一緒にチームとして働くスキルは低い」といったことが言及されていました。チームワークを生み出す議論をするには、どうすれば良いでしょうか。
僕も奥山清行さんの本を読んだことがあります。奥山さんはヨーロッパで長く仕事をされていて、訪れたイタリアやドイツのどこの職場に行っても、議論の場があると。対して、日本の議論は上下関係や役職を気にするなど「空気を読みすぎる空気」があり、生産性を下げている――。そんな印象をお持ちだったようです。
私は「日本式の議論」の形が必要だと思っています。役職を気にせずに、メンバー同士がざっくばらんに言い合える空気作りをすることです。日本人の空気を読む力を踏まえながら、意見を率直に言い合えるようにするのが良いですね。
――ざっくばらんにアイデアを出し合える議論にするには、齋藤先生ならどうしますか?
「相手に対してネガティブなことを言わない」というルールを作っておくといいですね。日本人は反対意見を言われると、「むっとする」か「しゅんとしちゃうか」なんですね。一方、西洋古代の議論の礼儀は「相手に対してきちんと反論すること」、それはプラトンの本を読むとよく分かります。
日本と西洋では根本的に議論の感覚が違いますので、日本人の場合は「対立した意見ではない」ことを議論の場で示し合うように、アイデアを重ねあわせていく姿勢が大切です。
――まずはルールを決めてしまう。その後はどうすれば?
ホワイトボードを使って議論をしてみましょう。ポイントは、議論の意見だけを書くようにすることです。
例えば部長Aの意見に対して、メンバーBが意見を出している。参加者がこのやりとりを客観的に見ると、「うーん、じゃあ部長の方が正しい」と賛同してしまいがちです。「誰対誰」という構図ができ、意見の中身ではなく人格に対して賛同するという判断が伴うからです。
一方、ホワイトボードに意見だけを書くようにすると、「誰の意見か」ではなく、その中身だけで議論できるようになります。人格を切り捨てた意見だけを、冷静に判断できるようになるんですね。ホワイトボードのない議論は、必ず破綻につながります。
■「アイデアを出し合う、相手を否定しない」議論でチーム力を高めよう
――正しい議論をすることが、チーム力を高めることにもつながりそうです。その他、リーダーが心掛けるべきことはありますか?
「今はアイデアを出し合っている」とリーダーが言葉に出して言うことも良いです。「意見」ではなく「アイデア」を出し合っていると意識する。アイデアは「誰が出してもかまわない」ものですが、意見は「誰が言ったか」が重要になってしまうからです。
僕はこれからの議論には、「意見ではなくアイデアが必要」と思っているんですね。例えばトラブルがあった場合は、「それ避けるためのアイデアを出して」とメンバーに伝えると、現実を変える手段が見えてくると思います。
――これはすぐにでも意識して、実践できそうです。
後は「相手の意見を絶対否定しない」ことも大事ですね。一人の意見に頼るのではなく、みんなが次々と出したアイデアを褒め合うといい。その時に拍手をするといいですよ。「そのアイデアはいいね」と手を叩く。反対意見にも拍手をしながら「それはあるけど、このアイデアもどう?」ともり立てていくんです。
こうやってアイデアを持ち寄れば、最後の意思決定時にアイデアを生かせます。出たアイデアを見渡せるようにして、西洋の議論のように対立構造を作らないようにすると、どんどんアイデアが出てきます。これをホワイトボードで整理しましょう。
「アイデアを出し、論点を整理する」ことが議論で大切なところです。黙っている人には「1個アイデアを出してね」と当ててみる。これを繰り返すことで、空気を極度に読んだり、消極的になったりするメンバーは段々少なくなっていきます。
リーダーはチームの時間と空間を管理する人だと思うんですね。ですから、「時間を1分とるので考えてください、1分後にアイデアを出してくださいね」というように、議論をリードしていくと良いと思います。
――今までの日本式の議論では、チーム力は上がらない。
日本のチームは、蹴鞠(けまり)をやってきたんですね。絆があって、お互いにけまりのパスを回し続けてきた。でも誰もゴールを狙わない。
一方これから大事なのは、ゴールを決めることですよ。ゴールとは、みんなのアイデアで現実を変えるように動くということです。どんどんとシュートを打っていくということですね。
――正しい議論ができるチームは、結果として強いチームになりそうです。
日本人は議論力がないのではありません。アイデアを生み出すためにクリエイティブな関係性を作り出したことがない、チーム作りという「スポーツ」をやったことがない。それだけなんです。ですから、スポーツと考えてチーム作りに取り組んでみることをお勧めします。
(取材・執筆:藤村能光/撮影:橋本直己)
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーからのお知らせ
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、その年に最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを毎年表彰しています。2013年は、世界に向けた功績をあげた「東京オリンピック・パラリンピック招致チーム」「パズル&ドラゴンズチーム」「下町ボブスレーチーム」「ロボカップ日本代表チーム」の4団体を選出しました。2013年を代表するチームの軌跡や成果を追いかけますので、是非お楽しみに。
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