データから読み取れない韓国の若者の"本音"とは

いろんな立場の方からお話を聞いて感じたのは、立場によって「若者と政治」に対する見解が異なることだ。

日本で昨年の参議院選挙から始まった「18歳選挙権」。

OECD諸国のうち韓国以外の国がこの「18歳選挙」を導入している一方で、韓国の選挙権は19歳から。さて、そんな韓国ではこの「19歳選挙権」をどのように感じているのだろうか。

今回は、大学生、高校の社会科の先生、韓国の選挙管理委員会の方、高校生の模擬投票を企画する団体の方の4人に「若者と政治」というとても大きなテーマをぶつけてみた。

ここでの「若者と政治」は主に①若者(10・20代)の政治関心度と②若者による政治参加を意味する。

延世大学生、イェオンさん

右側の男性がビラを配っていた学生。左は通りかがった友人。

韓国人なら誰でも憧れる名門校、延世大学。その門の前で1人、ビラを配る男子学生がいた。延世大学のイェオンさん。ビラにはこう書かれていた。「期日前投票に行こう」。

イェオンさんがこの活動に移そうと思ったきっかけは、ある友達との出会い。「本籍地から遠い街に暮らしているその友達は、期日前投票なら本籍地以外でも投票できることを知らなかった」。

韓国中から学生が集まる延世大学。これはその友達だけの問題だけではないと思い、期日前投票を促す活動を始めたという。

「20代は世代別投票率で最も低い。周りの友達の中には投票の仕方がわからない人もいる。それくらい関心を持っていない。それを変えたいんだ」。

普段はある政党の党員としての側面も持つイェオンさん。しかし、このビラは特定の候補者を応援するものではなく、あくまで投票を促すものだった。

韓国ではデモに参加しても投票には行かない若者が多いと言われる一方で、イェオンさんのようにそれに問題意識を持つ若者もいた。

中央選挙管理委員会、ゴさん

「若者による若者たちの政治参加を作る」。そう語るのは中央選挙管理委員会のゴさん。現在は日本と韓国の学生が交流するプログラムの運営にも携わっている。

「政治に関心のある人がない人に対して蔑むのは間違っている。たとえ政治に関心がなくとも、他のものに関心があるからそれはそれで尊重すべき。むしろ政治に関心を持とうと言って持つ人は少ない」。

そう話すゴさんにとって、日常の中にある持続可能な行動パターンで政治に参加することが大事だという。例えば、駅の不便さや救急車の無料/有料について友達と議論するなど。

その意味で「ろうそくデモは最高の授業だった」と話す。というのも、学校現場で生の政治を取り扱うことができない分、地域や家庭といった身近なところから政治に触れることが大事だからだ。

「授業は学校の専売特許ではない。日常の中にある様々なところから政治と接する機会を増やしたい」。

韓国で投票は消極的な選択

一方、韓国ではデモ活動が活発である。さらにその影響力も強く、パク・クネ元大統領の弾劾は「ろうそくデモ」が後押ししたという見方もあるくらい。

それはデモで社会を変えたという成功体験が関係しているという。

2008年に狂牛病の疑いがあるアメリカ産の牛が学校の給食で使われることとなり、それに対して学生がデモを行った結果、輸入は止められた。

しかし、ゴさんはデモ活動に参加しても、投票には行かない若者の存在に対して問題意識を持っている。

「デモが社会を変えた、そんな成功体験があるといって投票を軽視するのではなく、若者による投票参加も促したい」。

高校の社会科の教員、ジョンさん

ソウル郊外、義王(ウィワン)市にある白雲(バエグン)高校。そこで社会系の科目を教えるジョンさんに話を伺った。

ジョンさんが最もこだわっているのは「民主市民」という授業。民主主義の意義や、市民参加を教えている。

最近では男性が軍隊に行くことへの賛否や同性愛についても取り扱ったという。

「本当はもっと政治を教えたい。でも高校の勉強は受験第一。子供たちが政治に関心を持つ余裕がないんです」。

「民主市民」は日本の家庭科や保健体育と同じように、大学受験の問題に出ない科目だ。

韓国は日本以上の受験社会と言われており、この科目は学生から軽視されやすいのだという。

「パク・クネの弾劾を受けて、若者も含め国民みんなが政治に関心を持つようになった。熾烈な受験戦争がなくなれば、子供達は家庭やサークルなど、どこででも政治関心を深められるはず」とジョンさんは語る。

模擬投票を主催するYMCAのキムさん

韓国でも18歳選挙権を求める動きがある。その中心人物である、ソウルYMCAのキムさん。今回の大統領選挙と同じ日、同じ時間に、同じ候補者を扱って、高校生による模擬投票を全国で企画している。投票用紙も自分たちで本物に似せたものを作成し、使用する。

模擬投票で使っていた投票用紙

模擬投票を企画するのは今回が初めて。「高校生は十分に考える力がある」というキムさんは、OECD諸国の中で選挙権年齢がいまだに19歳の韓国に懸念を抱いているという。延世大学のイェウォンさんは若者の投票率の低さを理由に活動していたので印象的だった。

「韓国の若者は政治に関心がないわけではない、投票権がないだけなんです」。

日本でも近年、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたが、10・20代の投票率は全体よりも低かった。

キムさんは、韓国ではこのようなことは起こらないだろうという。事実、パク・クネ退陣を求める「ろうそくデモ」では、多くの若者がデモに参加し、若者の政治意識の高さがうかがえるからだという。

しかし一方で、デモに参加はしていながら投票に行かない若者が多いのも事実だ。このことについてキムさんは「それは個人の自由。デモに行くのも投票に行くのもどちらもよい」と話した。

9日、光化門近くに設置された模擬投票所

韓国の学校でも模擬投票などの政治参加を促す教育(シティズンシップ教育)は行われている。

しかし、こういった実際の候補者に投票するような「生の政治」を取り扱った授業をすることはできない。中立性の担保が難しいからだ。

「学校ができないことをわれわれ(YMCA)がやる。大勢の高校生が模擬投票に参加することで、ゆくゆくは韓国でも18歳選挙権が認められるようになってほしい」。

データからは読み取れない若者の本音

いろんな立場の方からお話を聞いて感じたのは、立場によって「若者と政治」に対する見解が異なることだ。

OECDの「より良い暮らし指標(Better Life Index)」が示す「市民参加」のデータに目を向けたい。日本は38か国中37位に対して、韓国は6位と大きな差が開いている。韓国の投票率は76%と、OECD平均の68%を上回る高さ。

このようにデータだけをみると、韓国は日本と比べて「若者と政治」が進んでいると言える。

イェウォンさんのように「若者の政治関心の低さ」を理由に投票を促す学生もいる一方で、ゴさんのように「政治関心の押し付け」は良くないと考える人、さらにはキムさんのように「高校生も十分に投票できる」と考える人もいた。また、ジョンさんのように受験第一の社会構造が政治への関心を持つ余裕をなくしているという考えもあった。

何をもって若者が政治に関心がないと言えるのだろうか。

投票率?普段政治の話をすること?投票所の仕方を知っていること?

これは日本の若者にも言えることで、投票率や市民参加など量的なデータだけを見て若者の政治関心は言い切れない部分がある。

データからは政治への関心が高い韓国でも、イェウォンさんのように投票を促す人がいたように、日本にもデータからは読み取れない若者はいると思う。

データだけに縛られずに、当事者の声に耳を傾けることで課題解決の糸口が見えてくるのではないだろうか。

参考

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