自然災害の脅威は他人事?-地方自治体の危機管理意識

「安全対策」を考える上で一番重要となるのが「想像力」です。

文京区立小学校の建て直しの設計を審議する中で、文京区の自然災害に対する楽観的な危機意識、障害のある子ども・人たちに我慢を強いる障害観が透けて見えてきます。

今回まずは、自然災害に対する危機管理について、水害ハザードマップで想定した浸水を「想定しないことに決めた」文京区の危機管理のあり方について提議します。

文京区は現在、区立小学校2校の建替えについて実施設計を行っています。その1校である柳町小学校は、水害ハザードマップで、浸水想定が2~5mでありながら、柳町小の職員室を浸水が想定される1階に設置する予定です。ちなみに、この3月末に浸水想定を東京都が見直しましたが、現在でも0.5~2mが想定されています。

職員室は、水害等の災害が起きたときには、子どもの安全を守るための最前線基地です。そこでは、役所や消防署、警察等と密接に連絡を取り合って、子どもたちを水害から守るための情報収集を迅速かつ的確に行うことが重要になります。

そこで、6月11日(月)に開催された災害対策委員会で、なぜ、職員室を一階に設計しているのかを確認しました。

区は、「仮に、浸水の危険が迫っても時間があるのだから、重要な書類を、職員室から浸水の危険がない場所に移す」とのことです。

区の答弁からは、「年間1,000分の1以下の確率で発生する」想定であり、職員室の位置まで「想定する必要はない」とした考え方が感じられました。自然災害を軽くみているのでしょうか。

先にも書いたように、水害が起これば、子どもたちの安全のため、さらには教職員自身の安全確保のためにも、そこに全力を集中すべきである非常事態において、「水害の危険が迫ったら、重要な書類を運ぶ」という余計な作業を強いることを前提にした計画です。

なぜ、最初から想定できることで、先生たちの無駄な労力を増やすのか?? 理解したくても理解できません。

小学校施設整備指針には以下のことが明記されています。

(3) 職員室は,屋外運動場,アプローチ部分などの見渡しがよく,校内各所への移動に便利な位置に計画することが重要である。

(4) 職員室は,学習関係諸室等に近い位置に計画することが望ましい。

「見通しがよく」「校内各所の移動に便利」「学習関係諸室等に近い位置」に計画することが求められていることから、2階に職員室を配置することが多いのが実態です。

文京区立小学校でも、20校中12校が2階に職員室を設定しています。2階に職員室がある教職員からは、運動場も見通しがよく、学級や音楽室等の特別教室にも移動しやすく、子どもたちの様子を知りやすい、とのメリットを多く聴きます。

ところが、文京区は、改築基本構想で「校長室、職員室等の管理諸室は、屋外運動場、アプローチ部分などの見渡しがよく、校内各所への移動に便利な位置に配置することが重要である」から、職員室を1階にした、との説明です。

さらには、池田小学校に不審者が侵入して起こった悲惨な事件を例に、1階に職員室を設けることで子どもたちや来校者を目視すれば安全性が担保できる、と答弁がありました。

ですが、事件後に建て替えた池田小学校は「入り口にスロープを設けて2階に玄関、職員室を配置」「侵入者に対応しやすく、グラウンドなど校庭全体も見渡しやすい構造にした。」とのことです。(2005年2月26日付 読売新聞より)

20年以上前の事件当時と違い、今では、門には電子ロックがかかり防犯カメラで来訪者のチェックがなされ、さらには、校舎の入り口にも電子ロックがあり、文京区ではその上に、シルバー人材を活用して来訪者の確認も行っています。

池田小でも2階の職員室が「グランドなどの校庭全体の見通しがしやすい」としていることからも、浸水が想定される1階に職員室を設置する合理的理由は見当たりません「後付けの言い訳」答弁にしか聞こえないのが残念です。

設計打合せの議事録を読み込んでいくと、なぜ、浸水を想定した職員室にしていないかが見えてきます。

現状が「1階の職員室」であり、この1階の職員室を見直すような意見が出なかったことから、考える過程も経ないまま、単純に一階で設計したにすぎないと考えざるを得ません。

区民や議会から指摘があった

  • 避難所となる体育館は浸水想定以上にすること。
  • 非常用電源を浸水想定よりも上にすること。

これらの視点については、真剣に考えられているのが議事録に記されています。

つまり、職員室については、区民等から指摘がなかったためか、「現状」に何の疑問も持たず、浸水を想定しないまま設計が進められたのではないかということです。

百歩譲って、打合せ段階では指摘もなく「想定できなかった」としても、今こうして提議され、「そういうことが想定される」との新たな認識を得たのならば、真摯に設計の見直しを行う判断をして欲しいと思います。

「一度決めたことは変えられない」という悪しき役所の慣習が続く限り、後付けの言い訳ばかりに知恵をしぼるような無為な労力の繰り返しです。「言い訳」を可能な限りなくすことこそが「安全対策」であるとも言えるのではないでしょうか。

その「安全対策」を考える上で一番重要となるのが「想像力」です。

想像力を駆使して推測される様々なことを、どう「想定」して、どのように備えていくのか。東日本大震災での福島第一原発の事故からも、全世界が問われ、学んでいることです。そうした学びを文京区としても持っていないはずがありません。でも、具体化にはいたっていません。今なお、地方自治体に落とし込まれずにいる、このような危機管理の課題を解決することも不可欠だと思います。

水害ハザードマップを作成した側の行政自らが、あくまでも「想定」だと軽んじていく。こうしたありようで、住民の安全を守ることができるのか疑問です。

自然災害を想定するハザードマップは、過去のデータに基づいて作成されたものです。しかし、近年では、これまでの私たちの経験を超える規模の異常気象や自然災害が珍しくありません。実際に、気象庁は住民に避難を呼びかける際の特別警報では、より危機感を持ってもらえるようにと「これまでに経験したことのないような大雨になる」というような表現を用いるようになっています。想定を軽んじるような行政には、自然災害から多くを学び直す謙虚さを持って欲しいと思います。

災害対策委員会では、他にも次のことを求めました。

同性パートナーのケースでは、災害で亡くなった方のもとに駆けつける際に、親族、遺族として認められなかったり、仮設住宅等への入居を断られたり、といったことも起こり得ます。災害時の対応を策定する際には、そうした様々な場面を「想定」して、けっして想定外にしない「災害で傷ついた上に、さらに行政に傷つけられる」ことなど、あってはならないことですので、対策を考えておくことを要望しました。

たとえ「想定できない行政」であったとしても、その行政や制度を監視することが責務であるのが議会です。いかに想定を広げ、チェックしていけるか・・・極めて重要だと改めて考えます。

写真はイメージです
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Photo AC

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