公立小中学校に在籍すると、授業料は「無料」になっていますが、制服や教材費等々、けっこうな支出が各家庭に求められているのが現実です。
文部科学省の「平成26年度子どもの学習費調査」によると
公立小中学校で家庭が1年間に支払う費用
(全学年平均)
小学校= 59,228円。(入学した年101,270円)
中学校=128,964円。(入学した年186,323円)
と、小中学校いずれも、家庭の負担はけして小さくない額です。特に入学時の負担額は他学年に比べて大きな金額です。まして、憲法では「義務教育は、これを無償とする」としていますので、義務教育で家庭に負担を求めるのであれば、なぜ必要なのかの説明と共に、情報提供が必須だと思います。
【日本国憲法 第二十六条】
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
文科省(平成26年度子どもの学習費調査)より
小学校に比較して、中学校では学校教育にかかる家庭の負担が格段に増えます。それだけに、進学先を決める時に、子どもが、どのような部活動があるのかを知りたいのと同様に、保護者は、家庭が負担する金額がどれくらいなのかを知りたいのは当然です。家庭に知ってもらい教育費として備えてもらえるように情報提供するのは、教育行政がすべき重要な子育て情報でもあります。
さらには、学校教育にかかる負担だけでなく、塾や習い事等にかかる費用もあります。公立中学校に在籍する家庭の平均で、年 314,455円を支払っています(文科省 平成26年度子どもの学習費調査)。こうした金額も含めると、中学生時期には、義務教育であっても家庭の教育費負担はさらに大きくなるのが現状です。
私立校の中には、初年度に納入する教材費・PTA会費・修学旅行積立金の金額、学校指定の制服、カバン・靴等々の金額を前年度の実績としてHP等に掲載し、情報提供している学校も少なからずあります。
文京区教育委員会は、区立中学校の入学にあたって「学校選択制度」を実施しており、区立各中学校の取り組みや部活動等々の情報を集めたPR誌「学校案内」を作成し、区内の小学校6年生全員に配布しています。
先日、教育委員会は、その「学校案内」の中に、学校ごとに入学初年度に各家庭が負担する費用についても情報提供として掲載することが望ましいと考え、校長会に諮りました。
教育委員会の提案は、様々な家庭環境にある保護者のニーズに応えようとするもので、どの保護者にとっても、教育費の情報提供があれば、どの程度準備をしておけば良いかの見通しをもてるだけに、現実的で嬉しい提案です。
ところが、この提案は、中学校長会の反対により、今年度のPR誌への掲載が見送られました。理由は以下の通りです。
「平成29年4月代表校園長連絡会議議事録」より
- どこまで必要とするかの線引きがなかなか難しい。制服だってお兄ちゃんに貰ったり隣のお兄ちゃんに貰ったりもあるので、全部揃えたらいくらかかりますとは一概には言えない。
- 知りたい方は説明会に来て貰えればいくらでも答えるが、それを全部載せたりある一定の基準を載せたりすると、例えば10万円と載せて実際13万かかったら話が違う、となると思う。平均的な金額として載せても各学校で違う上必要とするものも違うとすれば一概には言えない。
- 段々高じていくと標準服の指定、鞄の指定、ジャージの指定、何でも良いのではないかという話に繋がっていく恐れがある。
- 校長会としては、不確定要素が強い金額が独り歩きしてしまう恐れがあるため、PR誌へは掲載しないでいただきたい。
- 中学校入学に当たって、例えば標準服であったり、必要なものがあるので、それぞれについては準備が必要です、尚就学援助の制度もありますので詳しく知りたい方は学務課にお問合わせください、と言った形にすればどうか。
いずれの理由も保護者にとって、とても納得できる内容ではなく、実に残念な発想です。
文京区は区立中学校への進学率が約50%で、区立中学校への進学を増やすべく、「豊かな人間関係を育み、学力の向上を図るため、各校が教育内容に創意工夫を加え、特色ある学校づくりに取り組んでいます」と区立中学校進学キャンペーンを実施しています。
各校が良い意味で競い合って、特色ある学校づくりを行い、結果として区立中学校を選ぶお子さんが増えるように、ということのはずですが、各校長の本音は、自分の学校のマイナスイメージに繋がりかねない情報は、「みんなで出さないようにしましょう」ということなのかと勘ぐりたくなります。このような、保護者が必要としている情報を提供することを拒む校長たちのもとで、どのような創意工夫が行えるのか、疑念すら生じてきます。
「標準服の指定、靴の指定、ジャージの指定、なんでも良いのではないかという話に繋がっていく恐れがある」との理由もあげられていますが、もし、そうした議論が起ったら起ったで、「どうあるべきか」について、保護者や当事者である子どもたちの意見も聴き取って、話し合って決めていけば良いだけのことで、むしろそのほうが特色ある学校づくりに繋がるのではないかと思います。
就学援助の制度はあるものの、それですべてを補えるものでもありません。足りない分を、何らかの方法で工面するにしても、かかる費用を把握できなければできません。
行政側にとっても、各校ごとに家庭に求める負担額が明らかになってこそ、区が就学援助等の助成金額を実態に則したものにしていくための検討を進める材料になり得るはずです。
義務教育である公立中学の進学先を決めるにあたって、「家庭で負担する学校教育費用の情報を提供する」という、しごく当たり前の家庭のニーズにこたえようとする教育委員会の提案が、来年には実を結ぶことを強く願っています。
今回は、結果としては文京区教育委員会の提案は形になりませんでしたが、全国の公立中学校で、HP等に保護者が負担する学校教育費の具体的数字を掲載する等、適切に情報提供していく動きが広がることを期待します。
文京区立中学校 平成28年度入学後一学期中にかかった私費負担