もし次の世界大戦が起きるなら、それはおそらくアジアが舞台であり、現在の覇権国家・アメリカと、そこに挑む最大の挑戦者・中国の衝突になるだろう。幸いなことに、中国は現在そして近い将来、アメリカとの戦争を望んでいない。最も大きな理由は、中国は今の状況が自分たちに有利でないことを実によく知っているからだ。しかし今から20年後を見通すと、2034年には国際環境は激変しているだろう。
■今ではない
戦争がすぐに起きないと考えられる理由は3つある。
まず、年間2ケタの軍事費増強にもかかわらず、中国の軍事力はまだアメリカに歴然と後れを取っている。中国が、東アジアの日米同盟と対等か、ほぼ対等の軍事力に到達するには、15年から20年かかるだろう。
次に、相互依存と言われているが、アメリカが中国に依存するより、中国はアメリカにより深く依存している。中国は依然、製品の輸出先として、また先端技術やノウハウの供給源として、アメリカとその同盟関係にあるEUや日本に危ういほど頼っている。全体的には、中国の国際市場からの依存度は非常に高い。GDPに占める貿易の割合は53%だ。中国は石油や鉄鉱石など、多くの死活的な資源を輸入している。
これらの輸入製品は船で運ばれるが、もし軍事衝突が起きた場合、アメリカは海上封鎖をするだろう。しかし中国は海上封鎖に極端に弱いとみられる。経済面、そして戦略面の双方の理由から、中国政府は海外市場への依存を減らし、輸出モデルから内需による成長へ転換することを図っている。海上輸送への依存度を減らすために、中国国内や中央アジア、ロシア、ミャンマーなど隣接地域の地下資源を保護する努力もしている。しかし、少なくとも今後15年から20年、中国は、西欧諸国が支配権を握る国際的な経済システムに深く依存し続ける。
そして、中国が対峙しなければならないのはアメリカ1国だけではなく、日本やオーストラリア、そしておそらくインドを含むアジアのアメリカ同盟国も含まれる。このため中国は少なくとも1つの大国、さらにいくつかの小国と同盟を結ぶ必要がある。中国がアメリカの意思にあえて挑戦するかどうかは、中国とロシアが構成するユーラシアの地政学ブロックにかなり左右される。これはすでに起きていることだが、もっと時間がかかるだろう。
結論:これから15年から20年以上、アジアでの戦争は考えにくい。なぜなら中国は慎重にゲームを進めるからだ。もし軍事衝突が起きたとしても、それは短期間で、中国は優勢なアメリカ軍によって早急に撤収させられるだろう。しかし、もし中国が1.アメリカとの軍事力の差を埋め 2.西欧諸国の市場や海外資源からの経済的な依存を減らし 3.独自の同盟を構築することに成功した場合、2030年前後に、このバランスはかなり変化する。
■2034年:インド太平洋連合vsユーラシア同盟
予想できる未来は無限にある。アジアで起きる第三次世界大戦は、最もありうるケースでも、最もありえないケースでもない。
2034年のシナリオを想像してみよう。
中国は、4年前に台湾との再統一を成し遂げ、インドが総合的な国力を増強させるのに懸念を強めていた。2030年、インドは中国を抜いて世界で最も人口の多い国になった。さらに重要なことは、インドは、総人口の年齢構成が中国よりずっと若く、躍動的な経済力を備えていて、中国よりも速いスピードで成長していたことだ。インドは軍事力の近代化を熱心に推し進め、数年のうちに中国の深刻な脅威となるとみられていた。アジアの盟主を争うインドと中国の対立は、新たな局面へと至る。中国は、インドが追いついてくる前に先手を打つ。これは1914年、ロシアが戦略的な脅威となる可能性が高まり、ドイツがサラエボ事件の勃発とともに戦争へと舵を切った状況と似ている。ドイツの指導者の間では、1917年までにロシアは軍の近代化計画を完了するので、チャンスはなくなると信じられていたのだ
インドによるチベットへの介入や、ヒマラヤ付近の国境紛争を理由に、中国軍は国境地帯へ侵攻し、インドの海軍と空軍基地を攻撃する。インドへの攻撃は、日本との戦争を意味する。日本とインドは、将来予想される中国の攻撃に備え、相互防衛条約を2031年に結んでいたからだ。インドへの攻撃と同時に、中国の海軍は尖閣諸島を占領し、沖縄諸島の占拠を試みる。
2032年、アメリカ軍は日本から撤退する。日本・インド相互防衛条約と、2029年に日本が核保有国になったことで、アメリカは中国の抑止力としては十分と考えたのだ。そして中国人は、アメリカが新たな孤立主義に入り、日本を支援しないだろうと考えて、賭けに出る。しかし、しばらくためらったのち、アメリカは中国との戦争に介入する。これは1914年7月、もしドイツがフランスとロシアと戦争しても、イギリスは参戦しないだろうと見誤ったことの再現かもしれない。
太平洋でアメリカと同盟を組む、オーストラリアとフィリピンは、NATOのカナダ、イギリス、ポーランドとともに、中国に宣戦布告する。こうしてアメリカ、インド、日本や他の同盟国による、反中インド太平洋連合が形成される。
この戦争で、中国は孤立していなかった。2025年、中国、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、そしてパキスタンがユーラシア条約に署名する。この条約は上海に協力機構を置き、政治機構の軍隊を持つ集団安全保障条約だ。モンゴルは2033年にこの条約への参加を余儀なくされた。
ロシアは北方から中国を防衛し、資源と軍事物資を提供しただけでなく、中国軍の部隊に参加して戦うため、戦闘機のパイロットや無人機の操縦士ら、少数の軍人を派遣する。ロシアはインド太平洋戦線に巻き込まれることを最小限に抑える。ロシアは主に東ヨーロッパ、特にウクライナに忙殺されているからだ。ウクライナではEUやNATOに支援された親欧米の軍隊が、ウクライナ東部と南部の支配権を取り戻そうとしており、アジアで戦争が起きるまではロシアが支配権を握っていたからだ。ロシアとEU、NATOは公式には敵対関係にないが、ウクライナでの代理戦争に巻き込まれる。
韓国は2027年から南北の連邦国家になっていて、中立を維持している。東南アジア諸国(フィリピンを除く)も中立を宣言した。アフリカ、ラテンアメリカ、中東諸国も同様だ。
■お手軽な世界戦争
戦争行為という意味において、第3次世界大戦は20世紀の主な武力衝突とは大きく異なるだろう。その理由の一つに、核兵器の存在があげられる。原爆を実際に使用することは世界を破壊することだと分かっているので、交戦国は核兵器に訴えることを自制する。これは、好戦的な国が膨大な化学兵器を保有しながら、報復を恐れて使用しなかった第2次世界大戦の状況と似ていなくもない。
核兵器はまた、長年にわたる敵対関係を緩和する効果もある。国家は核兵器を最終手段として保有する。特に、ある国の中心部が侵略されたり、主要都市が空爆された場合に備えてだ。このことを理解しているので、相手の国も敵を追い詰めない。これは主要な戦闘地域を、最も人口が多く工業の発達した地域から、徐々に周辺地域へと封じ込めていくことを含む。さらに、軍事戦略家は過去の教訓として、アジア大陸での大規模な地上戦はほとんど常に負け戦だと知っている。これらの考察により、第3次世界大戦の主戦場は海と空と平原を離れ、宇宙空間とサイバースペースに移行するだろう。
もう一つ、第3次世界大戦が特異な点は、外交と国際機関が敵国との効果的な意思疎通のチャンネルとして機能し続ける点だ。国際的な制度構築にかかった数十年が、完全には無駄ではなかったと証明されるだろう。もし戦争を防ぐのに失敗したとしても、国際機構は少なくとも戦争の範囲を狭め、その効果を限定する役には立つ。さらに敵国との貿易や金融取引は、韓国、シンガポールやトルコのような中立国経由に切り替えられ、ある段階まで続く。これは経済的な相互依存と戦争が両立することもあるという最終的な証明だ。
おそらく、私たちが直面するものは「お手軽な世界戦争」と表現できるかもしれない。それ自体は人的・物的資源の総動員を必要としない。この点から見ると、第3次世界大戦は過去にあった総力戦の世界戦争より、18世紀のスペイン継承戦争や7年戦争に似たものになる。過去の消耗戦では資源が急速に底をつくため、数年しか続かなかったのに比べ、戦争の犠牲者が比較的限られたレベルとなり、資源の総動員を必要としないことで、戦争が無限に続くという予期せぬ結果をもたらすかもしれない。もし戦争に耐えられないレベルまで社会が緊張しないのであれば、人々は戦争とともに暮らすようになる。こうして、第3次世界大戦は新たな30年戦争、あるいは50年戦争になるのだろうか?
とはいえ、そこには常に危険が伴う。つまり、「人道的」で、激しさのない、戦闘地域も指定されず、行動規範もない戦闘行為は、大量の犠牲者と、自制されたルールのない、より伝統的な殺戮に舞い戻る可能性がある。核戦争にエスカレートする可能性も排除できない。結果がどうあれ、この戦争はご存じの通り、確実に世界を終わらせるだろう。
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