赤ちゃんの検診から離婚の相談まで。家族のことは「ネウボラおばさん」に任せよう

「子どもが生まれた後の夫婦生活も相談できますよ。もちろん、離婚の相談も」

8月8日、フィンランド滞在4日目。フィンランド外務省主催の、世界16カ国の若手ジャーナリストがこの国について学ぶプログラムに参加している。

今日は「ネウボラ」を訪問した。

ネウボラは、フィンランドの育児支援の拠点だ。地方自治体が設置、運営し、妊娠中から出産、子供が学校に入るまでの間、子どもとその家族を支援する。日本でも一部の自治体が、この制度を取り入れているところがあるが、まだ「知る人ぞ知る」という段階だろう。

この人たちなしには、ネウボラが回らないと言われているのが、「ネウボラおばさん」だ。

子どもや母親の健康状態を定期的に検診でチェックするが、フィンランドでは、この仕事をすべてネウボラが担う。日本でいえば、保健師のような仕事だ。専門学校を卒業して資格もある専門職だ。

施設を案内してくれた、「ネウボラおばさん」の統括、ヘレナ・ミークライネンさん
施設を案内してくれた、「ネウボラおばさん」の統括、ヘレナ・ミークライネンさん
ARISA IDO

私たちを案内してくれた「ネウボラおばさん」の統括、ヘレナ・ミークライネンさんによると、ネウボラは1922年に始まり、今では98%以上の親が利用している。すべて税金でまかなわれているため無料で利用できる。フィンランド語が話せない場合は、通訳も無料でつけてくれるのだという。

親は「ネウボラおばさん」に育児や家族のことで、気になることを質問し、相談にのってもらっている。その相談は、多岐にわたる。匿名のチャットを使えば、面と向かっては言いにくい内容も相談できる。

若い人でも「ネウボラおばさん」と呼ばれている。日本で呼ばれる「おばさん」のように、ネガティブな意味はまったくなく、むしろ若いことを馬鹿にされないため、ポジティブに捉えられている
若い人でも「ネウボラおばさん」と呼ばれている。日本で呼ばれる「おばさん」のように、ネガティブな意味はまったくなく、むしろ若いことを馬鹿にされないため、ポジティブに捉えられている
ARISA IDO

「子どもが生まれた後の夫婦生活も相談できますよ。もちろん、離婚の相談も」と、ミークライネンさん。

「そんなことまで聞けちゃうの?」とびっくりするばかりだ。

フィンランドは離婚率が50%を超す。家族の問題は、様々なことがすべてつながって出てくる。「離婚相談所」ではなく、子どもや親の健康状態や生活を見守る延長で、専門家に相談できるのはどんなに心強いことだろうか。

フィンランド在住のライター、靴家さちこさんは、1人目と2人目の子どもを産んだ際、ネウボラを利用している。そのときの様子を聞いた。

ーー最初に利用したのは?

1人目の子どもを日本で産んで、2004年3月の7ヶ月検診の時からネウボラにお世話になりました。

ーーどんなことを相談しましたか?

まず、受けておくべき予防接種の種類が日本とフィンランドでは違ったので、フィンランドで受けておく予防接種の種類について説明を受けました。

我が家の場合、父親がフィンランド人で母親が日本人だったので、子どもに対して親がどの言葉を使えばいいのかも聞きました。

ーーえ!国際結婚カップルの育児も相談できるんですか?

はい、すぐに答えてくれました。

実は、日本でも同じ質問を医師に尋ねたことがあるのですが、「...」といった感じで、専門外なのになんで聞くんだ、という顔をされました。

父親に同じ質問をしたのですが、3人の共通言語である英語で話しかけることに固執していました。しかし、私はなんだかしっくりこなかったんです。

そこで、ネウボラおばさんに聞いてみようと思ったんです。そしたら、母親は母親の言語で、父親は父親の言語で話しなさいと教えてもらいました。

ーーネウボラおばさんは、なぜ即答できたのでしょうか?

フィンランドでは、私たち家族のように、母語の違うカップルの結婚が珍しくないからだと思います。そもそもフィンランド語とスウェーデン語の2つが公用語ですし、スウェーデン語を母語とする人は、全人口の5~6%ほどいます。

携帯電話会社「ノキア」がまだ繁盛していた頃は、世界中にノキア社員が駐在し、駐在先の人と結婚した人もたくさんいました。

その後、子どもが育てやすいからという理由で、フィンランドに家族を連れて帰ります。だから、ノキアの国際結婚はよくある話でした。

こういう背景もあって、国際結婚したカップルが言葉を含め、子どもをどう育てればいいのか、をネウボラおばさんはよく知っています。

ネウボラの待合室
ネウボラの待合室
ARISA IDO

ーー次男が生まれた時は、「ネウボラおばさん」にどんな相談をしましたか?

「外国人」という同じ境遇のお母さんで、話しやすい人を探していました。その機会はどこに行けば得られるのか尋ねました。

日本と同じように「公園デビュー」をしようとしましたが、そもそも共働きがメインの国なので、平日昼間、子連れの親子に出会うことがほとんどなかった。それに、やはり外国人なのでどこか「浮いた」感じがしていたんです。

それでも、誰かと子育てについて気軽に話したい...。それを叶える場所がないか「ネウボラおばさん」に聞きました。

すると、ケラヴァという街の「家族センター」という施設が、外国人の親と乳幼児が集まれる場所になっている、と紹介してもらえました。

ーー離婚の相談も受けていると聞いたのですが、これはどういうことでしょうか?

ネウボラおばさんは、子どもだけでなく親の健康状態、精神状態もチェックしています。家族の異変や問題に気づかなくてはいけませんから。

フィンランドは父親も育児するのが当たり前なので、夫婦で施設を訪れることが多いのですが、母親がいつも1人で来ているのを見ると、「大丈夫ですか?」と声をかけてくることもあります。最近寝られなくて...という相談から、離婚や夫婦生活の相談につながることもあります。

問題が深刻だと判断すれば、夫婦関係について話を聞くカウンセラーにつなげます。そのカウンセラーも、ネウボラに常駐しているのです。

ーー親や子どもの健康状態をケアする施設で、離婚の相談をするのは、日本の感覚だと不思議に思えます。同じ施設でやる意味はあるのでしょうか?

ネウボラで子どもの健康診断とともに、こうした家族の相談ができることは、とてもいいことだと思います。

カップルが親になり、子育てを巡る価値観の違いが明るみなり、衝突することはよくあることです。

どういう性格の子が生まれるかでも、2人の考えは変わってくると思います。これらは事前にはなかなか予測できないことなので、避けることは難しいでしょう。

だからネウボラでは、健康から家族関係まで幅広く聞ける環境があるのです。

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2018年8月、フィンランド外務省が主催する「若手ジャーナリストプログラム」に選ばれ、16カ国から集まった若い記者たちと約3週間、この国を知るプログラムに参加します。

2018年、世界一「幸せ」な国として選ばれたこの場所で、人々はどんな景色を見ているのか。出会った人々、思わず驚いてしまった習慣、ふっと笑えるようなエピソードなどをブログや記事で、紹介します。

#幸せの国のそのさき で皆様からの質問や意見も募ります。

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