「私も首相として失敗を経験しました」安倍首相は言った。日本の首相として再度登板した安倍首相は、二度と過去の過ちを繰り返すまいと強い意志をもって、まず、はじめに取り組んだのが、低迷する日本経済の立て直しであった。
安倍首相はこう語った。「金融政策についても財政政策についても、反対者は非常に多くいます。しかし、日本がデフレや景気の悪化、失業率の悪化を改善するには、この道しかないと今でも信じています」。これは欧米諸国の緊縮政策にのっとった経済政策と異なる、まったく違う道を描くことを意味している。
この面会は木曜日の夕方、富士山の絵が飾ってある東京の首相の応接室で、温かい緑茶を飲みつつ実現した。ここにはハフィントンポスト日本版の編集長の松浦茂樹と国際編集長のニコラス・サブロフも同席した。
安倍首相の推し進める政策は「3本の矢」と呼ばれている。(大胆な)金融緩和、(機動的な)財政政策、そして(民間投資を喚起する)成長戦略である。どれか1本では折れてしまうが、3本集まれば無敵なのだ。
安倍氏は首相になるやいなや欧米諸国の歩みと決別し、それまで日銀総裁だった白川方明氏にかわって、財務省出身の黒田東彦氏を任命した。黒田氏はオックスフォードで学んだこともあり、日本がひどいデフレ状態から脱却するためにあらゆる手を尽くす人物だ。
この大胆な政策は、日本国民に好意的に受け止められている。4月21日付の日経新聞によると、その支持率は76%にも上るという。
安倍首相の支持基盤の中で不動の人たちは、彼が擁護してきた「女性たち」である。「現在最も生かしきれていない人材は女性だ」という彼の発言に言及し、どうやって解決していくのか、その方法を尋ねた。「日本においては、育児休業の後、仕事に戻りにくい状況があるので、そこを変えていこうと思っています」と首相は言った。
さらに首相はこう述べた。「先般、上場企業のみなさんにも、少なくとも役員に1人は女性を入れるように要請しました。それは日本人でも外国人でも結構ということにしましたので、アリアナさんにも重役になってくれという要請があるかもしれませんよ」。
「まず、わが自民党の改革からです」と彼は語った。「政権与党として初めて、党三役のうち2人を女性にしました」(そのうち1人は自民党総務会長の野田聖子氏で、ハフィントンポスト日本版のローンチ初日にブログを寄せてくれている)。
私は、それは首相の立場から助言して誘導していくのか、それとも法制化していくのかを尋ねた。首相はそれに対し、「各企業にボランタリーにやっていただきたいということです。しかし、たとえば3年育児休業を取りやすくしたり、育児休業ののち復帰しやすくしたりしている企業については、企業名の公表、あるいは、税制上の対応も含めて検討していきたいと思っています」と話した。
長時間の勤務体系や保育所の整備の遅れによって、女性が産後、仕事を続けることが難しくなっている。「子どもを産むか、仕事を続けるか、どちらかの選択を迫られる厳しい現実がある」と安倍氏は最近語っている。
日本再生のために女性のいっそうの活躍が重要になると同時に、若者の間に広がる失望感を払拭するためにも、経済成長を促し、失業率を改善することもまた重要だと安倍氏は見ている。実際、毎年多くの人が自らの命を絶つ。
「やはり経済状況が悪いことが自殺原因のたいへん大きな要素です。しかし精神的な問題もあります。自殺をする人の多く、6〜7割はうつ病になっているという人もいます。日本ではなかなか精神科にかかりにくいという状況がありますので、医者に行きやすい状況を作っていく必要があると思います」と首相は語った。
私はこう言った。「アメリカでは実は25%の大企業が禅の瞑想などを取り入れ、社員のストレス解消を図っています。こうした日本の伝統的なやり方が日本企業よりもアメリカ企業で早く採用されているのは皮肉な話だと思いませんか」。
首相はこう言った。「確かに皮肉だと思います。アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏も禅を研究していたという話を伺いました。私もこの5年間ほど月に1回、座禅を組みに行っていたのですが、総理大臣になると忙しく行けないのです」。
安倍首相は2007年に健康問題で辞任。潰瘍性大腸炎によってその後、入院を余儀なくされた。「その病気を経験されてから、職務上の日常的なストレスを、どういった方法で緩和しているのですか」と私は聞いた。
すると首相は「自然の中で身体を動かすようにしています。たとえば月に1回ゴルフに行ったりとか。前回は女房と一緒に回りましたけれども、彼女のほうがスコアがよくて、それが返ってストレスになりました」と笑った。
そのほか、今回再度首相になって、前回と変わったところを尋ねたところ、「国民が望む政策と自分が進めようとする政策を併せて進めていく必要があるというのが前回の反省点です」と語った。
こういう思いがあるからこそ、安倍氏はソーシャルメディアを活用することに熱心なのだろう。これは日本の政治家には珍しいことだ。
今までの日本では、選挙の候補者がネット上で有権者に直接メッセージを伝えることは違法であった。これを変えたのが安倍内閣だ。
「法改正のおかげで、これからソーシャルメディアを使って自分の主張を届けることができるようになりました。従来のメディアを通して、自らの声を届けることがとても難しかった今までと比べると、とても重要で意味深い変化です」と私に語った。
安倍首相自身もFacebook、Twitter、そしてLINEを日常的に使って、直接国民と対話を行っている。彼のFacebookのファンは34万人、Twitterのフォロワーは10万人に達している。
「インターネットは双方向ですので、意見に対してある程度のレスポンスをしていくことが大切だと思っています。事実でないことを書けば必ず批判されますし、間違いは指摘されるわけです。私もFacebookで事実を書き間違えると、その日のうちに指摘があります」と彼は言う。
その話になった際に、私はすかさず「ハフィントンポスト日本版で、ぜひブログを開設していただけないでしょうか」と言った。安倍首相はそれに対し、「ぜひ参加させていただきたいと思います」と答えてくれた。「140文字以上でも打ち込めますよ」と私は彼に冗談を言った。
アベノミクスで知られる彼の経済政策は、経済危機から抜け出す唯一の方法は緊縮策しかないと信じている専門家を除けば、国内外で広く支持されている。しかし、憲法改正に関しては米国の官界からも批判と懸念を示されている。この問題について尋ねると、「日本の場合は、まず国会で発議をして国民投票がありますから、まず国民の皆さんに自分の賛否を表していただきたい。ですから、決めるのは国民だ、ということです」と答えた。
しかし、憲法第9条が改正されると、国外における軍事行為が容認され、再びナショナリズムが復活する危険があるという懸念は根強くあり、これはまた、安倍氏の日本経済再生への確固たる努力を乱す深刻な火種となりうる。
これから先、欧米諸国が緊縮政策をしている間に、日本は安倍首相のもと、瀕死状態にある経済を復活させるために果敢な船旅へと出港する。そして彼自身の思いが、リアルタイムで新鮮な言葉となって、Facebook、Twitterで発信されていく。