琵琶湖は日本で最大の面積(約670km2)を誇り、かつ最古(約420万年前)の湖だ。その大きさは日本に存在する淡水の3分の1にも及び、滋賀県だけでなく大阪・京都・兵庫・奈良の各府県に住む約1400万人の生活を支えている。
ビワコオオナマズやイサザ、ニゴロブナなど固有種といわれる貴重な生物をはじめ、数多くの動植物が生息している。夏季には世界一美しい渦といわれる「環流」も形成され、滋賀県が世界に誇る自然遺産でもある。
財源不足に陥るも、「琵琶湖を守りたい」情熱が身を結ぶ
琵琶湖の水深は約104m。簡単に人間が潜って湖底を確かめることができないため、滋賀県は、2000年に自律型潜水ロボット「淡探(たんたん)」を開発し、湖底の生物や水質を監視してきた。
ところが2008年、県の財政的な行き詰まりで、淡探による湖底調査は中止に追い込まれた。そこで、同年8月に日本全国の有志が協力して「NPO法人びわ湖トラスト」を立ち上げ、淡探による湖底調査や森や湖の環境学習を支援する運動を始めた。
当時、滋賀県環境科学研究センターの職員であった熊谷さんは、「行政と民間の狭間でなんとか淡探の運用を継続しようと、文部科学省や環境省・民間団体から研究助成金を得るために奔走した。琵琶湖を守りたいという情熱が実を結び、びわ湖トラストとの共同で、細々とびわ湖の調査研究を行うことができた」と振り返る。
特に、「2008年から琵琶湖の湖底環境は急激に変化し始め、淡探を用いた調査によって、溶存酸素濃度の低下や底生生物の死滅などが報告され、琵琶湖の環境劣化が新たなステージに入ったことを示唆している」と熊谷さんは言う。
2009年には、びわ湖トラストが支援した淡探の調査によって、琵琶湖の湖底から噴出するベント(泥煙)の撮影に初めて成功。10年にはベントの数がさらに拡大していることを明らかにした。これは、11年3月に発生した東北地方太平洋沖地震の予兆であったのではないかとも言われており、現在もさまざまな形で琵琶湖の監視を行っている。
自律型潜水ロボット「淡探」を使って琵琶湖の湖底調査に臨む熊谷事務局長(中央)。
琵琶湖を守るために森林を守ろう
びわ湖トラストの理事であった故・浜端悦治さん(当時滋賀県立大学准教授)は、近刊書「琵琶湖は呼吸する」(海鳴社)の中で、「現地に足を運び現場を体感して、はじめて森林の良さやもろさ、そしてさまざまな問題点が理解できるようになる」と記している。
びわ湖トラストでは、琵琶湖を守るにはまず森林を守ろう、と森林保全活動にも力を注いでいる。
2013年には、滋賀県高島市朽木にあった樹齢数百年のトチノキの巨木を伐採の危機から救う運動に参加。財源不足のために今は廃止された「滋賀県立朽木ふるさと生きものふれあいの里センター」所長であった青木繁さん達からの緊急要請であった。残念なことに数本は伐採されたが、それでも、多くは伐採から免れることができた。
今年は、同様の危機にある長浜市木之本町のトチノキの巨木を伐採から守る運動を、県関係機関とともに展開。琵琶湖周辺の豊かな自然環境を人為的な破壊から守る活動にも精力的に取り組んでいる。
樹齢数百年のトチノキの巨木を伐採から守る活動にも参加。
世界に誇る自然遺産を子孫へ残すために
2013年にはこれまでの活動の成果から、認定NPO法人に認定され、現在、約200人の会員と企業がびわ湖トラストの活動を支えている。平和堂財団やNEXCO西日本パートナーズクラブなど民間法人の財政的な支援を受けて、観察船を用いた湖上学習やカヌーによる水草観察、トチノキの巨木観察会、水辺の写生会などを定期的に実施。年々参加者も増え、琵琶湖とその集水域への関心も高まってきている。
熊谷さんは、「これからもこのような事業を継続するとともに、ナショナルトラストとしての琵琶湖の自然と動植物の監視と保護を行い、世界に誇る自然遺産としての琵琶湖を私たちの子孫へ継承したい」と今後の抱負を力強く語ってくれた。
夏休みには親子対象のカヌー体験も開催。
熊谷さんが事務局長を務める「認定NPO法人びわ湖トラスト」のみなさんと実施する「AQUA SOCIAL FES!!2015 琵琶湖クリーンプロジェクト」(京都新聞主催)を、11月1日(日)に開催します。詳細は、「AQUA SOCIAL FES‼︎」公式サイトをご覧ください。参加希望の方は、公式サイトの申し込みフォームから必要事項を記入の上、ご応募ください。
(取材・執筆:京都新聞COM 嶋﨑公喜)