PRESENTED BY AQUA SOCIAL FES!!

コンクリートで固められた川に自然は戻るのか 巻き戻せないインフラの中でできること

今から60年ほど前、荒川と那珂川が合流する烏山市向田地区に、誰もが「河童」と呼ぶ一人の少年がいた。

栃木県北部の那須岳から関東平野をとうとうと下り、茨城県で太平洋に注ぐ一級水系那珂川。その支流である荒川に、河童が棲んでいたという噂を聞いたことがあるだろうか? 伝説というほど古い話ではない。今から60年ほど前、荒川と那珂川が合流する烏山市向田地区に、誰もが「河童」と呼ぶ一人の少年がいた。三度の飯よりも川が好きで、母親が呼んでも川から上がらなかった少年。彼こそが、那珂川南部漁業協同組合の組合長を務める荒井一雄さんである。

那珂川南部漁業協同組合 組合長 荒井一雄さん(72)

38年ぶりに戻ってきた川に、かつての風景はなかった

荒井さんを魅了したのは、川に生きる魚たちだった。那珂川には、田んぼに水を引くための用水堀がいくつも設けられ、そこには豊かな生態系が築かれていた。用水堀は、淡水魚が成長するために欠かせない場所だったのだ。

「鮎は、放流なんてしなくても、ふんのぼるっくらい(踏んで上るくらい)いましたよ。コイでもフナでも、何でもいました。ウナギはタモに『ミソっこ』という鉛筆くらいの小さいのがビッチリ付くくらいいたんです。用水堀にタモを掛けておくだけで毎日いっぱい獲れて、これを売れば1籠30円。当時の映画館の入場料と同じ金額でした」

河童と呼ばれた荒井さんは、高校卒業後ほどなくして国鉄マンとなった。丸38年の間、川とは無縁の生活を送り、定年を迎えて再び川に舞い戻った。

「40年で、川はすっかり変わってしまいました。あまりにも汚れて、生態系も崩れてしまった。これでは、子どもたちも川には入りません。幼いころの川遊びの楽しさを次代の子どもたちに伝えたい。何とかして魚が育つ環境を取り戻さなくてはならないと考えました」

そこで昨年漁協の組合長に就任。「未来へつなごう清流那珂川」をコンセプトに、活動を本格始動した。

(左)魚の生育場所をつくるために、川に玉石を戻す。

(右)今春、川への進入路を整備した。

一度、コンクリートで固めてしまうと戻らない

川が変わってしまった一番の原因、それは河川改修による川のU字溝化にある。渕、淀み、瀬がなくなり、ドブのように直線化した川では魚が棲むことはできないのだ。しかし、改修されてしまった川辺を元の景色に戻すことはできない。

「何でも『反対』ではなく、共存共栄の精神じゃないですかね。洪水を防ぐ改修工事の必要性も理解しながら、いかに魚を増やすかを考え、その方法を提案していく。逆戻りはできないけれど、那珂川はもっともっと良くなります。魚を戻すために、何でもやります」

漁協として現在取り組んでいることは、数え切れない。例えば、U字溝化した川に玉石を戻すことや、建設省が作った〝魚が上りにくい〟魚道の改修要請。進入路の整備や下水整備の要請はもちろん、ボランティア団体と共にホタルを川に戻す活動も行う。行政を巻き込み、地域を巻き込み、人を巻き込みながら、荒井さんの活動はどんどん広がっている。

鮎の天敵ブラックバスとカワウ

さらにもう一つ、現在力を入れているのが鮎の天敵の駆除活動だ。夏のには大勢の友釣りファンであふれる那珂川は、一見、美しく穏やかに見える。

しかし、荒井さんにとって頭の痛い問題はブラックバスやブルーギルなどの外来魚と、カワウの増加。ここ10年で驚異的に増えたと言う。外来魚が鮎を駆逐し、1日に20匹以上の鮎を食べるカワウが数千羽という単位で飛来する。「いくら放流しても追いつかなくなります。天敵を完全に駆除することはできませんが、このまま放っておくわけにはいかない」と、漁協では11支部が協力して実態調査に乗り出した。まず現状のデータを積み重ね、写真などで目に見える形の資料を作成し、関係機関に協力を仰ぐ。それが荒井流の問題解決法だ。これと並行して、外来魚の買い取りや毎夏軽トラック2杯分の花火でカワウの追い払いも行っている。

「漁協の枠にとらわれず、可能性があれば、どんなところにも行って、どんなことでもやってみるしかありません。大好きな那珂川のため、ふるさとの川ですから」

2015年10月、荒井さんの協力を得て「AQUA SOCIAL FES!! in 栃木 那珂川の恵み『モクズガニ』を知って、取って、いただく」が栃木県なかがわ水遊園で開催される。「モクズガニは川ガニの中でも特に美味。子どもの頃はよく食べたけど、今は貴重ですよ」と川面を見つめる荒井さん。このイベントを機に、多くの子どもたちが那珂川の河童となることを心から願っている。

荒井一雄さんの協力を得て行うプログラム「那珂川の恵み『モクズガニ』を知って、取って、いただく」は、栃木県なかがわ水遊園で10月11日に開催します。詳細は公式ホームページ(http://aquafes.jp/projects/159/)をご覧ください。

(取材・執筆 下野新聞社 伊澤隆寛)

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