「お魚、好き?」。かつて勤めていた職場の元上司からかかってきた電話で、いきなり尋ねられたのが、きっかけだった。
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和歌山の青い海が活動の舞台だ
「子供たちのために青い海を」という理念を掲げる特定非営利活動法人「Blue Ocean for Children(以下、BOC)」の理事長、福森佳子さんは当時、結婚して退職し、主婦として暮らしていた。海に恵まれた和歌山で生まれ育っただけに、魚は身近な存在だった。「うん、好きやけど」。このやりとりで、生活が一変した。
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主婦から「お魚がくしゅう」を教える立場に転身した
冒頭の質問は、子供たちに魚食を普及するために実施する「お魚がくしゅう支援プロジェクト」として、県内の小中学校へ魚料理の出前授業に赴いてほしいという依頼だった。福森さんの実家は洋食店。家族全員が調理師の免許を持っている環境だったので、料理は得意だった。とはいえ、特に魚の知識が豊富なわけでもなく、教師のように人前で授業をした経験はなかった。
そこで、出前授業を引き受けるにあたって福森さんは「おさかなママさん」と呼ばれる漁業協同組合の女性部のもとへ魚料理を教わりに行った。初めて自分で魚をさばき、魚について勉強を重ねた上で、出前授業では、子供たちに「お魚さばき体験」をしてもらおうと決めた。魚の切り身がパックで売られている現代、丸ごと1匹の魚を見たことがない子供がいるのは悲しい。そう思っての決断だった。
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出前授業では「お魚さばき体験」も
魚を目の当たりにした子どもたちは「匂いがする」「ぬるぬるする」など、ワーワー、キャーキャーと大騒ぎ。「目がこっち、向いてる!」「向いてへん!!」と、なだめているうちに、子供たちは魚をさばくのに夢中になっていく。アジを三枚におろし、フライにして、その場で食べてもらうと、子どもたちは「おいしい、おいしい」と大喜び。
魚嫌いだった子が「こんなにおいしいんや」と気付いてくれたり、「家でもやってみる」と言ってくれたりするのが、うれしかった。漁協の協力のもと、ブリを解体し、子供たちに魚の構造を見せたあとで、ブリしゃぶを味わう。そんなぜいたくな授業をしたこともあった。
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海岸の清掃活動のほか、地引き網の体験も行っている
福森さんは、2010年から2年間で約2000人の児童に魚料理を教えた。「お魚がくしゅう支援プロジェクト」が終わったあとも、好評の出前授業は続けたい。地元の自然や食材の素晴らしさを次世代に伝えたいという同志が集まり、2013年に設立したBOCで出前授業を続けることになったのだ。
最近は活動を屋外にも広げ、磯を観察する「海辺の教室」なども実施している。海があってこその活動と、環境を守ることも意識。海岸の清掃などにも乗り出している。
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AQUA SOCIAL FES!! 2015」にも初参加する
地元に根付いた活動が新聞社の目に留まり、BOCはトヨタ自動車が全国で展開する社会貢献型プロモーション「AQUA SOCIAL FES!! 2015」の和歌山でのイベントを初めて主催する。10月に和歌山市の片男波海水浴場で清掃活動を行い、地引き網で漁も体験。自分たちで獲った魚の料理を食べてもらう。
地引き網の体験を通じて、海から引き上げた魚を食べることは、魚の命をいただいて、自分たちが生きていることを伝えたい。そして、海や自然の大切さを感じてもらいたい。福森さんは、そう考えている。
この和歌山・片男波海水浴場で開催される「AQUA SOCIAL FES!! 2015」への参加、詳細は、公式サイト(http://aquafes.jp/projects/180/)をご覧ください。
(取材・執筆:産経新聞大阪本社 西出陽輝)