PRESENTED BY AQUA SOCIAL FES!!

京都のNPOが開発したWebサービスとスマホアプリで"見える"「ごみの出どころ」

保津川(桂川)は、京都の観光名所の1つ。ここに流れ着くごみはどこから来るのか?

丹波高地から亀岡盆地を貫くように流れる保津川(桂川)は、京都の観光名所の1つだ。歴史的にも、豊かな丹波の産物を都へ運んだ水運の川としても知られる。現在は観光川下りへと姿を変えたものの、さまざまな水運の文化や技術が受け継がれ、人と川との関わりは今でも色濃く残っている。

また、保津川には、岡山市内とここだけとなった国の天然記念物「アユモドキ」が生息するほど豊かな生態系が残っている。その他にも51種類の淡水魚が確認され、これは日本最大の湖である琵琶湖に匹敵する数といわれている。

ただ最近は、深刻な環境問題を抱えている。特に近年深刻化しているのがごみの問題だ。1990年代半ば以降、ペットボトルやレジ袋など大量のプラスチック製品が大雨のたびに流れ着き、峡谷美はもちろん、生き物への影響も懸念されている。

「NPO法人プロジェクト保津川」は、こうした問題の解決のために地域住民や地元企業、行政機関と連携しながら活動をしている。川の清掃や環境教室、半世紀前に途絶えてしまった筏流しの復活など、保津川の環境や歴史・文化を守り、受け継ぐ取り組みを進めている。その代表を務めるのが大阪商業大学でも研究者として川のごみ問題の研究に取り組む原田禎夫さんだ。

「NPO法人プロジェクト保津川」代表 原田禎夫さん

参加者が10数人しか集まらなかったことも。その時言われた一言

NPO法人として認可されてから7年が経ったが、活動の趣旨が地域住民に浸透するまで多くの時間を要したという。当初は「自分たちの職場なのだから、保津川下りの船頭さんが川を掃除すればいいのではないか」といった意見も数多く寄せられたそうだ。

清掃活動に、スタッフを除くと地元の運送会社の方しか集まらず、10数人規模になってしまった時期もある。参加人数の少なさから開催頻度を減らそうという意見すら出た。そんな中、数少ない協力者であった運送会社の営業所長から「意義のある活動なのだから、もっと頑張れ!」と、叱咤激励され、持ちこたえることができたという。今では、年間の清掃活動の参加者数は1000人を超えるようになった。

インターネットも活用した、漂着ごみの「見える化」

活動をしているうちに、単にごみ拾いだけでは河川対策は進まないと実感するようになったという。河川のごみは移動性が高く、その実態を認識しづらいからだ。そこで「見える化」を目指して作ったのが「ごみマップ」だった。これは、「どんなごみが、どこに、どれくらいあるのだろう?」ということをわかりやすく提示することで、多くの人に当事者意識をもってもらいたいという想いからできたという。「ごみマップ」は、現在、WEBサイトや、スマートフォンアプリ(iPhoneAndroid)まで展開し、保津川だけではなく下流の大阪府など各地の自治体の取り組みでも活用されている。

川や海を汚す「ごみ」は、「町なか」から生まれる

ごみマップ調査で明らかになったのは、川を汚しているものの多くが何気ない生活ごみで、さらにその流入源が「町なか」であるということだった。これは、川の環境改善には地域の連携が欠かせないことも意味する。住民一人一人が当事者なのだ。

この調査結果などをふまえ、亀岡市は「漂着ごみの発生抑制事業」を市の総合計画に明記することになった。海のない内陸部の自治体としては初の試みでもある。

2012年に開催した「第10回海ごみサミット2012亀岡保津川会議」では、国内外から500人を超える参加者を招いた。また、毎年行われる「環境フェスタ」を市が企画・運営するなど地域全体で環境保全に取り組んでいる。当初は、参加者の少なさにつまずきそうになった保全活動が、行政をはじめ、多くの人を巻き込むまでになったのだ。「すべての取り組みは、私たちだけではなく、多くの市民のみなさん、企業や行政機関のみなさんとのパートナーシップによって進めています」と原田さんは語る。

「遠くなってしまった」川を「近くに」取り戻したい

前滋賀県知事の嘉田由紀子氏は研究者時代に「近い水、遠い水」という考え方を提唱した。原田さんは、この思考を引き合いに出し「かつては人の暮らしの中に水環境が身近にあったからこそ水は大切に使われ、水環境も良好に保たれてきた。今、保津川をはじめ全国の海や川で起こっている深刻なごみ問題は、私たちの暮らしの中から水辺が遠い存在になってしまったことが1つの原因ではないでしょうか。地域での活動を通じて、町から川、川から海へのつながりを見つめ直すことで、美しい自然美と水運文化の息づく保津川の姿を取り戻したい」と熱くその想いを語っていた。

原田さんが代表理事を務める「プロジェクト保津川」のみなさんと実施する「AQUA SOCIAL FES!!2015 保津川流域プロジェクト」(京都新聞主催)は、7月19日(日)保津川で開催します(※申し込みは既に終了しております)。

(取材・執筆:京都新聞COM 嶋﨑公喜)

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