ふすまや障子を開けると次々出てくる部屋。縁側から見える庭。その先に広がる畑や里山...農村の中で空き家になっている古民家は、一つ視点を変えれば、子どもの好奇心を誘う宝の山だ。その古民家を子どもたちの体験の場として再生させようというプロジェクトが、都心から車で約1時間の場所で始まっている。千葉市のJR土気駅にほど近い地に立つ「古民家 宙/そら」。安全に使えるように建物の修繕などが必要なため、クラウドファンディングで支援を募っている。
きっかけとなったのは、この古民家で幼少期を過ごした建築家・石井ひろみさんが、都会に住む子どもたちを連れてきたことだった。空き家になっていて何もないのに、家の中を楽しそうに走り回る子どもたち。その姿を見た石井さんは、「広くて回遊性のある間取り、障子に四方囲まれた部屋。私には当たり前だったものが、子どもたちには非日常の遊びの空間だった」と気づいたという。
「子どもたちのために活用できませんか?」
株式会社みらいスクール(東京都渋谷区)に、相談が持ち込まれたのは昨年夏。同社は、JAXAの訓練施設や病院などの現場の協力を得て、子どもたちが専門技術を持ったプロフェッショナルから教わる体験事業「Gifte!(ギフテ)」を企画・提供している。代表の菅野高広さんは現地を見て、「古民家もすごく素敵だし、再開墾しなきゃならない畑もあって、0から空間を作り上げることができる。ぜひ何かやりたい」と思ったという。
ただ、当初は草木に覆われ、古民家の建物自体がほとんど見えない状態だった。裏山から倒れかかっている樹木があったり、建物の中に小動物が入り込んでいた跡もあったりした。 整備も兼ねて月1~2回、ボランティアを中心にワークショップをしてきたが、子どもたちを近づかせることができない場所もある。子どもたちの体験の場として今後も使い続けるには大幅な修繕が必要なため、クラウドファンディングで資金を集めることにした。
今回のプロジェクトでは、動物が出入りしていると思われる建物の穴を埋めたり、倒れかかっている樹木を伐採したりするなど、子どもたちの安全のために特に優先度が高い危険な箇所の修繕を進める。開閉がままならなくなっている雨戸、腐りかけている屋根材の交換なども資金の集まり具合を考えながら、進めていきたいという。
「古民家 宙/そら」には建物以外にも、広い庭(約1300平方メートル)や畑(約900平方メートル)があり、裏手の山には竹林が広がっている。安全性を考えて利用できる場所は制限しているが、見守る大人たちはできるだけ「やめて」とは言わず、子どもたちがやりたいようにさせているという。
ワークショップなどのイベントでは、伐採した大量の竹を使ってお手製のテントを作ったり、庭に落ちていた瓦を敷き詰めて秘密基地を作ったり、子どもたちは大いに創造力を発揮している様子だ。
「みらいスクール」で事業を担当する宮島裕子さんは「畑や里山のことは地元の方が先生になってくれていて、プロフェッショナルの手を借りながら、全部を一から手がけることができる。子どもたちにとっても、新しい発見がきっとあるはず。もっといろんな人に知ってもらい、永続的な場所になってほしい」と話す。
クラウドファンディングのリターンでは、ワークショップへの参加や「古民家 宙/そら」を一日借り切る権利などが用意されている。