全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)の結果が、今年もまた発表されました。
毎年、全国の小学6年生と中学3年生に実施されるこの学力調査、わが子が受けてきた頃から感じているのですが、調査結果をどのように分析し、どのように授業の工夫や個別指導に活かし、子どもたちに還元されているのか?という、抜本的な調査の必要性や実効性への疑問が今もぬぐえないままです。
調査結果は、子ども一人ひとりに返却されます。が、その結果は、渡されるだけというケースや、時には、「塾に行ったほうががいいと思います」と、まるで学力は塾任せというような発言を聞くこともままあります。
自己責任で受けて、その後も自己責任で苦手なところを克服していくしかない民間の模試とどこが違うのか、見えてこないのは私だけでしょうか。
先生たちに、調査結果を授業改善、個々の指導に活かすための分析をするゆとりがないのかもしれません。
全国学力テストでは、国語・算数(数学)等の教科以外にも、子どもの生活や内面に関する事項を含め、小学校92問、中学校94問の調査を同時に行っています(質問紙調査)。
「朝食を毎日食べていますか?」に始まり、「ものごとを最後までやり遂げて、うれしかったことはありますか?」「難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦していますか?」「授業で学んだことを、ほかの学習や普段の生活に生かしていますか?」「学習塾で勉強していますか?」「家の人と学校での出来事の話をしますか?」「学校の授業などで、自分の考えを他の人に説明したり、文章に書いたりすることは難しいと思いますか?」など多岐にわたります。
そうした子どもの生活や内面についての調査も、授業改善や個々の子どもとの日々にどのように生かしているのか、見えづらいものがあります。
文京区では、「学力は毎年、全国・都の平均を上回る」との調査結果になっています。 一方、昨年までは、「いじめは、どんな理由があってもいけないことだと思いますか?」という問いに対して、「どちらかといえば、当てはまらない」「当てはまらない」という、否定的な意見が、全国・都の平均を上回っていました。が、今年は、全国・都の平均よりも下回る結果になり、調査が始まったときに比較して改善していると教育委員会は分析しています。
しかし、中学3年生の生徒の、現在の回答と小学校6年生の時の回答の変化に着目すると...
小学校6年生のときに「いじめは、どんな理由があってもいけないことだと思いますか?」という質問に対して、否定的な回答が、4.7%だったものが、中学3年生の現在は、6.8%に増えているのが見えてきます。
他の質問についても見てみると...
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- 「自分には、よいところがあると思いますか?」
小6時点では、否定的回答 20.8%
中3になって、否定的回答 29.4%
- 「将来の夢や目標をもっていますか?」
小6時点では、否定的回答 12.7%
中3になって、否定的回答 29.9%
- 「学校に行くのは楽しいと思いますか?」
小6時点では、否定的回答 10.8%
中3になって、否定的回答 15.7%
- 「人の役に立つ人間になりたいと思いますか?」
小6時点では、否定的回答 8.6%
中3になって、否定的回答 10.0%
- 「国語の授業はよくわかりますか?」
小6時点では、否定的回答 14.9%
中3になって、否定的回答 20.6%
- 「算数〈数学〉の授業はよくわかりますか?」
小6時点では、否定的回答 12.5%
中3になって、否定的回答 24.8%
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上記のように、否定的な回答が増えている実情を分析し、「なぜ否定的な回答が増えているのか?」という視点からデータを読み込むべきではないでしょうか。小6、中3と同じ質問をする意味は、そこにあるはずです。
小学校から中学校へ進学し、夢や目標を持ちづらくなったり、学校にいくことが楽しくなくなったり、人の役に立つ人間になりたいと思わない、授業がわからない...といった、子どもたちの今にどう寄り添い、学校はどのように改善していくのか?
家庭環境や生活のゆとりとの関連も含め、様々な要因を一体的に分析し、具体的な教育の方針や指導の計画に落とし込んで、それを実行していく。全国・都と比べて「高かった」「低かった」と一喜一憂しているだけでは調査の意味がありません。
また、子どもの生活や内面についての調査結果に対しても、「こんな傾向がある」といった俯瞰的な分析のみに終わらせず、家庭環境も含めて、個々の子どもの総合的な生育環境全般にまで視点を広げれば、学校や教育部門だけでなく、行政として出来ることが見えてくると思います。
PDCAサイクルに当てはめるなら、学力テストは言うまでもなくC(チェック=評価)です。これをA(アクション=改善)、P(プラン=計画)、D(ドゥ=実行)に具体的に繋げていき、毎年繰り返しチェックを行い、分析・検証し、継続的で実効性のある改善を行っていくことに意義があります。
学力テストで見つかる課題は、子ども自身の課題ではなく、教育を施す側、子どもの生育環境を整える側の課題であることを真摯に受け止める姿勢が必要だと思います。
学力テストは、子どもの評価ではなく、大人(教育)の評価です。個々の教師の評価でもありません。子ども自身や家庭の問題にしてしまっては、教育や子どもを取り巻く環境は一向に改善しません。
義務教育に携わるすべての大人たちが、主体的に結果を受け止め、学校や教育委員会、ひいては行政全体が一体となって、子どもたち一人ひとりの課題を、子どもの育ち、家庭環境等にも寄り添って分析し、より良い教育を提供するための改善策を具体的な計画に落とし込んで実行していってこそ、より質の高い教育を子どもたちに還元していくための学力調査として、意義があるはずではないでしょうか。
全国学力テストで見えた課題が、個々の先生の努力に委ねられ、その力量によって左右されたり、放置されたりすることなく、子ども一人ひとりの学びや願いを支える確実な取り組みにつながっていくことを願っています。