「ゆるスポーツ」がヒットする2つの理由

バブルサッカー、イモムシラグビー、ハンドソープボールに手錠バレー。これらは、今話題の「ゆるスポーツ」と呼ばれる新しい競技だ。
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バブルサッカー、イモムシラグビー、ハンドソープボールに手錠バレー。これらは、今話題の「ゆるスポーツ」と呼ばれる新しい競技だ。「ゆるスポーツ」とは、老若男女、スポーツが得意な人・苦手な人、そして健常者も障害者も、誰しもが「ゆるっと」楽しむことができるスポーツのこと。略して「ゆるスポ」と呼ばれる。

考案者は電通のコピーライターであり、世界ゆるスポーツ協会代表の澤田智洋さん。クライアント業務のかたわら、ゆるスポーツのプロデュースを手がけ、スポーツ界、企業、大学、地方行政、メディアなど、各界からさまざまな相談や取材を受ける日々。多忙を極める澤田さんに話を聞いた。

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「ポップな障害」をつくる

「仲間はずれをつくらない」。それが澤田さんの掲げるキーワードだ。ゆるスポは、年齢や性別、運動神経、障害の有無にかかわらず誰でも参加でき、みんなが同じように楽しめるスポーツ。澤田さんはそのために、「ポップな障害を設ける」ことを大切にしている。

例えば、専用のイモムシウェアを装着し、ほふく前進をしたり転がったりすることで移動するラグビー、「イモムシラグビー」は、脚を使えないという共通の障害を設定することで全員がフラットな関係になる。あえて障害を設けることで全員が同じ条件となり、仲間はずれをつくらない。

さらに、「イモムシ」というポップなメタファーを持ち込むことがフォトジェニックな要素を生んでいる。世界ゆるスポーツ協会では、澤田さんが約40人のスポーツクリエイターに課題を与え、その課題を解決するスポーツを考えてもらうことで、日々、新たなスポーツを生み出している。その際、明確に掲げられている条件のひとつが「フォトジェニックであるか」ということだ。「動画よりも静止画で映える絵を重視しています。1秒以下の"一瞬"でコミュニケーションが成立するからこそ、フォトジェニックな静止画は爆発的に広がっていく」と澤田さん。

写真映えするポップな世界観が、万人に受け入れられる秘訣なのだ。

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ファーストインプレッションが大事

キャッチーなネーミングも、ゆるスポの特徴だ。

「僕が最も大事にしているのがファーストインプレッションです。ゆるスポーツに新たに触れるときにまず目につくのが、ビジュアルとスポーツ名。名前は限りなくとっつきやすくしておきたいんです」。ファーストインプレッションで、名前や見た目が「ガチ」だと、その時点で「これは自分のスポーツじゃない」とシャットアウトされてしまう。キャッチーで親しみやすく、同時にわかりやすい名前が必要なのだ。

「アイデアの基本として、見たことのある言葉の意外な組み合わせが、生活者の興味を引きます。ハンドボールとハンドソープ、イモムシとラグビーのように、それぞれの言葉は知っているけど、組み合わさるとどうなるんだろうという、知っているのに知らない状況をつくることを意識しています」

いくら、面白くて画期的な新スポーツを考案しても、体験してもらえなければ始まらない。体験を促すための入り口づくりとして、ビジュアルとコピーの果たす役割はとてつもなく大きいのだ。

裏には緻密な設計

ゆるスポーツの目的は、ゆるスポーツそのものの振興というわけではない。

「あくまで既存スポーツの普及に貢献することを目的としているので、既存スポーツとの連携には緻密な設計を加えている」と澤田さんは話す。

例えば、手がツルツルになる特殊なハンドソープを手につけて行うハンドボール、「ハンドソープボール」の場合、講習会の2時間のうち、最初の1時間はハンドボール体験、後半1時間はハンドソープを付けたハンドソープボールの時間としている。「トップレベルのハンドボール選手とハンドボールをプレーした後に、いっしょになってハンドソープボールもプレーする。そうすることで、選手への親しみとリスペクトが同時に生まれます。そうなるとハンドボールに興味を持たざるを得ない。体験している人からすれば、ハンドソープボール楽しそうだからやってみよう、新しい、シェアしてみようと思うだけかもしれませんが、裏ではハンドボールの興味喚起に向かうよう、緻密でしたたかな計算を加えています」

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したたかな計算は、2020年に向けても始まっている。「オリンピックとパラリンピックの間にある1~2週間を使った、2つの大会の懸け橋になるような企画の構想があります。まだまだ夢物語ですけどね」。日本中がスポーツに熱くなる2020年は、一億総スポーツ人を目指す澤田さんにとって絶好の機会。頭の中には、すでに具体的なビジョンと目標があり、実現に向けて動き出している。

最後に、運動に苦手意識を持っている人へのアドバイスを聞いた。「自分でスポーツをつくってしまえばいいと思います。誰からも怒られないし、みんなが楽しめる、そんなスポーツを、二次会のゲームを考えるぐらいの感覚でつくればいいんです。形になっていないものも含めて、自分のところにはゆるスポーツのアイデアが何千点も集まっています。スポーツをつくりたい方がいたら、ぜひ気軽にご連絡ください」

澤田さんのこのバイタリティはどこから来るのか。インタビュー中の言葉と彼の力強い表情が全てを物語っていた。「きれいごとじゃなくて、自分のつくったスポーツで喜んでくれる人がいるというのが本当にうれしいんです。もしかしたら、それって、広告を作ることよりも尊いことかもしれません。自分が努力したことのフィードバックが、目の前にある皆さんのリアルな笑顔というのが最高なんです」

(文:イナバ)

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澤田智洋(さわだ・ともひろ)さんプロフィール

世界ゆるスポーツ協会代表/福祉クリエイター

1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後17歳の時に帰国。2004年広告代理店入社。映画『ダークナイト・ライジング』の「伝説が、壮絶に、終わる。」等のコピーを手掛けながら、多岐に渡るビジネスをプロデュースしている。世界ゆるスポーツ協会代表。義足女性のファッションショー「切断ヴィーナスショー」プロデューサー。高知県の「高知家」コンセプター。日本ブラインドサッカー協会のコミュケーションプランナー。口説き文句研究家。漫画「キメゾー」連載中。著書「ダメ社員でもいいじゃない。」

ゆるスポ以外にも、2020年に向けて、誰もがスポーツを楽しめるような取り組みは増えている。

【オフィスポ】

「運動は、脳に効く。カラダが動けば、脳も動く。」をキャッチコピーに、「オフィスでのブレークタイムを、デザインする」取り組み。バランスボールに座っての会議や、ヨガ、キックボクシングの動きをフィットネスに取り入れた"キクササイズ"など、オフィスでできるさまざまな運動を広めている。

【超人スポーツ】

日経トレンディの2016年ヒット予測ランキングにもランクインした取り組み。人間と機械を融合させ、「超人的」な力を身につけることで、個人の能力差が目立たなくなる「人機一体」のスポーツ。慶應義塾大学大学院、稲見教授が提唱。